巻頭言　看護師を目指しているあなたへ

学士課程における看護学教育の5 つの特質の1つに，ヒューマンケアの基本に関する実践能力があげられます。ヒューマンケアの基本に関する実践能力とは，「人の尊厳の重視と人権の擁護を基本に据えた援助行動」「利用者の意思決定を支える援助」「多様な年代や立場の人との援助的人間関係の形成」です。これらはコミュニケーション能力と深くかかわっており，学士課程で十分に学ぶべき内容です。看護学生のなかには，「コミュニケーションが苦手だな」と感じる人もいれば，「コミュニケーションが得意です」という人もいるでしょう。コミュニケーションが得意なあなたは，誰とでも気さくに話せる点が強みですから，その強みをいつまでも大切にしてほしいと思います。コミュニケーションに問題意識を感じるあなたは，ふだんの生活で，自分のコミュニケーションを振り返る機会が多くあったと思います。学士課程で学ぶべき内容のなかに自分の課題を見つけて，「何とかしなければならない！」と感じたこともあったでしょう。コミュニケーションが得意な人も問題意識を感じる人も，あなたの可能性は無限大なので，楽しみながら学びを深めることが成長につながります。

現代社会では，新しい知識・情報・技術が重要性を増す一方です。しかし，コミュニケーション能力は，知識・情報・技術を丸暗記すれば上達するとは限りません。看護学生は，健康問題をもつ人々と人間関係を築くためのコミュニケーション能力を，講義・演習・実習を通して学びます。対象者の心情を推し量り，健康促進を図るために援助的な人間関係（ケアの場面において，人対人の親密な関係性）を構築し，看護師側からアクションを起こすという一連のプロセスは，講義と演習や実習のみで習熟できるものではなく，ふだんからの自己研鑽も必要なのです。

本書は，看護に必要なコミュニケーションを研鑽したいあなたに，レッスン形式で楽しみながら自己学習することを提案します。あなたは，あなたが学習できるようさまざまな環境を提供してくれる多くの方々に感謝の気持ちを感じ，言語的・非言語的コミュニケーションで自分の気持ちを伝える工夫をしていますか？ 看護学生には，自分の気持ちや考えを伝えようとする努力（学習態度）が求められます。本書では，演習や実習で求められる言語的・非言語的コミュニケーションの工夫をわかりやすく解説し，一人でも楽しく学べるようにまとめています。

まずは本書を手に取って，いつも通学バッグに入れておき，空いた時間に読み進めてみましょう。いつの間にか，人とコミュニケーションをすることが楽しくなっているはずです。本書が看護師としてのあなたの成長に役立つことを願っています。

2014年1月

髙橋清美