新篇眼科プラクティスシリーズ
序文
眼科学に数多くの書籍があれど,1992年から2009年までⅡ期にわたって刊行された「眼科プラクティスシリーズ」ほど,眼科医の書架を占拠した本はないでしょう.当初は隔月刊で,後に月刊となり,計131巻が刊行されました(1992年からの第Ⅰ期が101巻,2005年からの第Ⅱ期が30巻).1冊ごとにテーマが設定され,臨床に必要な知識が最新データとともに要領よくまとめられたもので,いわゆるムック本として多くの眼科医に愛されました.足掛け18年にわたって刊行された同シリーズは,増え続ける眼科医療情報を,正確かつタイムリーにまとめ,日常臨床にすぐ応用できる形で提供することにより,眼科成書の歴史に名を残すベストセラーとなりました.
前シリーズ終了から13年が経ち,令和時代の眼科に合った形でのプラクティスシリーズ復活を要望する声が寄せられていました.検査器機の進歩,デジタル化とネットワーク化,新たな薬剤の開発,治療法の多様化,再生医療の導入,遠隔診療やAI 診療に向けた動きなど,眼科学の進歩は以前に比べてさらに加速している感があります.情報の新陳代謝が一層活発になった現状を鑑みるに,最新知見を実践的に解説する分冊型シリーズの復刻が期待されるのは,故無きことではないと思われます.
2020年に,9年振りに大改訂を行った「眼科学第3版」を刊行しました.眼科学に関する基本的な知識を網羅した「眼科学第3版」の刊行を受け,編集に携わった大鹿哲郎,園田康平,近藤峰生,稲谷大の4名は,より臨床の現場に即した実際的な知識・技術,最新の情報を扱う「新篇眼科プラクティスシリーズ」の立ち上げを企画しました.前Ⅱシリーズのレガシーを尊重しつつ,かつ時代の要請に応えた編集方針としています.
新シリーズが目指す特徴の1つは,“ ビジュアル化”です.正確で詳細な知識の提供も重要ですが,多種の情報が溢れる現代において,わかりやすく記憶に残るプレゼンテーションをすることも重要です.視覚に訴える紙面作りによって,忙しい臨床の先生方に手に取っていただきやすい教材とし,“ 読む教科書”であると同時に“ 視る教科書”を目指しました.
各巻の編集企画は,原案を複数回の編集会議で繰り返し検討し,徹底的にブラッシュアップしました.執筆は,第一線の現場で臨床に携わっておられる方々にお願いしています.そして,出来上がった校正刷りを元に編集会議でさらに議論し,内容の一層の充実を図りました.
この新シリーズが,忙しい眼科医および眼科関係者の一助となり,眼科医療に少しでも貢献することを願い,序文と致します.
シリーズ監修 大鹿哲郎
シリーズ編集 園田康平
近藤峰生
稲谷 大
「OCTとOCTAが,わかる! 役立つ!」序文
近年の眼科におけるOCTの技術とその臨床応用の進歩には目覚ましいものがあります.網膜疾患を診断して治療方針を決める際に,OCTの所見なしには判断できない時代になりました.最近のOCTは,数秒の検査時間で精密なOCT画像が得られ,その最高解像度は2~ 3μm にまで達しています.このような高解像度の網膜のスキャン画像を用いることで,わずかな網膜外層の形態の乱れや網膜内の微細な囊胞も見逃すこともほぼなくなりました.
またSS-OCTが登場して臨床に用いられるようになり,より深い脈絡膜の異常を容易に検出できるようになったことも最近の変化の1つです.たとえば中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)やVogt-小柳-原田病を診断する際には,肥厚した脈絡膜をOCTで検出することが非常に役立ちます.さらに近年では,脈絡膜血管の拡張という特徴を有する「pachychoroid 関連疾患」という概念が提唱され,網膜の研究者に広く受け入れられています.OCTによる脈絡膜所見により新たな疾患概念や病態理解が進んでいるのです.
OCTの検査範囲はどうでしょうか.以前は「OCTでは網膜の後極部の情報しか得られない」と言われていました.しかし近年のOCT装置では,1 回のスキャンで20mm以上の広範囲の情報が得られるようになりました.これまでOCTで比較的弱いとされていた周辺部の網膜剝離や腫瘤病変の検出にも有用性が高まっています.広角眼底写真と広角OCTを組み合わせれば,検診やスクリーニングにも役立つことは明らかです.
最後はOCTAの臨床応用の進歩です.数年前までは黄斑中心部3mm以内程度の毛細血管の構造解析や脈絡膜新生血管の検出に有用と考えられていました.しかし近年では約80 °近い広範囲のOCTA画像が1スキャンで取得可能になっており,糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症などにおいて周辺領域まで無灌流領域や新生血管などを確認することが可能になっています.またSS-OCTAを用いることで網膜色素上皮下の病変も高い精度で描出が可能になりました.
このような近年のOCTやOCTAの解析技術を正しく理解し,疾患の診断や治療に役立てていただくことを願い,今回「新篇眼科プラクティス」の網膜領域の第1 弾として本書を企画しました.執筆をお願いした先生方はすべてこの領域におけるエキスパートであり,網膜専門医以外の先生であってもわかりやすく読めるように執筆をお願いしています.本書が先生方の診察台の上に置かれ,いつでも手に取って読めるテキストとなることを願っています.
2022年4月
近藤峰生