特集にあたって

わが国では現在，新規心不全発症患者は年間35万人以上，超高齢化とともに心不全患者数は年々増加し,「心不全パンデミック」を迎えています。また，糖尿病についても，糖尿病またはその可能性が否定できない患者数は，それぞれ約1千万人と推計され，パンデミック的現状にあります。海外で実施された心不全治療薬の大規模臨床試験の報告を見ると，糖尿病の合併頻度は15 ～47% であり，一方糖尿病治療薬の臨床試験の報告を見ると，心不全の合併頻度は10 ～ 22% であり，ICUやCCUでは多数の収容症例に対し，心不全/糖尿病病態の評価，リスク層別，治療状況の評価，急性期以降の治療の構築などの検討が重要です。

近年，心不全治療薬は新展開を迎えており（V2拮抗薬，HCN4チャネル阻害薬，ARNI，心筋ミオシン活性化薬，SGLT-2阻害薬など），HFrEF，HFpEFにおける治療評価についても注目されています。糖尿病の治療についても，わが国と欧米のガイドラインに若干の差異は感じられますが，SU/ビグアナイドの時代からDPP-4阻害薬，GLP-1アゴニスト，SGLT-2阻害薬などへとシフトし，ADAやESADの最新ガイドラインでは心血管疾患の有無により治療薬の選択が示されています。さらにICU，CCU症例では，降圧薬，血管拡張薬，強心薬，各種利尿薬，抗血小板薬，抗凝固薬などが処方されている（される）ことが多く，体液・電解質・代謝異常，腎機能，輸液管理などに留意しなければなりません。

本誌を企画した当初は，テーマを「心不全/糖尿病パンデミックとICU」としておりましたが，「糖尿病」ではパンデミックという表現は適切ではないのでは- とのご指摘をいただき，テーマを「心不全/糖尿病パンデミック的現状とICU」と修正させていただきました。

本特集では，それぞれのテーマについてわが国を代表する方々にご執筆を依頼させていただきました。序文を記すにあたり，すばらしい論文をご執筆賜りました皆さまに心からお礼申し上げます。

清野　精彦
日本医科大学名誉教授，医療法人社団菱秀会