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- 泌尿器外科 2020年9月号(Vol.33 No.9)【特集】これであなたも神経因性下部尿路機能障害のエキスパート!!─脊髄障害による下部尿路機能障害の診断と治療─
商品情報
内容
脊髄障害に起因する神経因性下部尿路機能障害の診療の流れ/脊髄障害による下部尿路機能障害の診断─尿流動態検査の有用性─/尿路管理法 ほか
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序文
序文
泌尿器外科9月号の特集は脊髄障害による下部尿路機能障害の診断と治療です。本来なら,パラリンピックが開催されており非常にタイムリーな特集号になるはずでしたが,疫病には敵いません。一日も早い終息を祈念しております。
脊髄障害に伴う下部尿路機能障害の診療は,“functional urology”の重要な分野であり,下部尿路機能障害に対する診療の基本的な要素が含まれています。執筆者の先生方には,診断,保存的治療,外科的治療について,平易な文章と図表を多用してわかりやすく解説していただきました。また,非常に大きな問題を抱えている高齢者の脊髄障害に関しては,一章を設けて解説していただいています。この分野の日本語のテキストは少ないと思いますので,ぜひとも熟読玩味していただければ幸いです。以下には,本特集に関係する(かも知れない)お話を記載させていただきます。
Sir Ludwig Guttmannが,1940年代に世界最初の脊髄障害患者に特化した国立の医療施設である“Stoke Mandeville Hospital(英国)”で無菌間欠導尿を導入して以来,脊髄障害患者に対する診療のうちで,下部尿路機能障害の診療は重要な位置を占めてきました。当時の脊髄障害患者は,主に褥瘡あるいは尿路感染症が原因で80%が数ヵ月以内に落命することがほとんどでした。複雑性尿路感染症を治療可能な抗菌薬がなかった時代,どうすることもできなかったのだろうと思います(ペニシリンの実用化が1942年)。
時の英国首相であったチャーチルは,D-Day,すなわちノルマンディー上陸作戦において多数の脊髄損傷患者が発生することを見越し,「戦傷者には最高の医療を」との考えから専門施設の開設を行いました。その初代のディレクター(在任期間:1944 〜1966年)に抜擢されたのが,ユダヤ系ドイツ人のSir Ludwig Guttmannでした。Guttmann先生はドイツで神経科医として診療していましたが,ナチスの台頭で1939年に難民として英国への亡命を余儀なくされました。亡命以前にゲシュタポの政治委員から召喚された際に,自身の勤務先に入院していたユダヤ人患者63名に関して,その入院の正当性を1名ずつ訴え,結果として60名のユダヤ人患者の強制収容所移送を回避したそうです。なお,英国への亡命にあたって力を貸したのが,Hugh Cairns先生とされています。Cairns先生は,アラビアのロレンス死亡時(バイク事故)の医療チームの一員で,この時の経験から「バイク乗車時にはヘルメット着用」を提唱した脳外科医です。
Stoke Mandeville Hospitalでは,2時間ごとの体位変換,1日3回の無菌間欠導尿によって早期死亡率を7%台まで低下させることに成功しました。さらに,「失われたものを数えないで,残ったものを最大限に活かそう」,「重篤な障害は“立派な市民”という資格への障壁にならない」,「重篤な障害があっても適切な医療を受けることで社会の立派な一員になることができる」との考えのもと,社会復帰策の一環としてリハビリテーションにスポーツを取り入れました。その結果,85%の患者が半年以内に有給で社会復帰を果たせたとされています。
このスポーツをとり入れたリハビリテーションの一環が,16名の参加者による第1回Stoke MandevilleGames for the Paralysedが,1948年7月29日に開催されています(ロンドンオリンピックの開会式と同日)。さらに,1952年にはオランダからの参加者を交えて第1回“International”StokeMandeville games for the Paralysedが国際大会として開催,その9回目(1960年)がローマオリンピックと同時開催され,これが実質的に第1回のパラリンピックとされています。しかし,Guttmann先生はStoke Mandeville games for the Paralysedの名称にこだわりがあったようで,大会の報告書に正式に「パラリンピック」の名称が登場するのはその4年後,すなわち1964年の東京大会になります。なお,
日本脊髄障害医学会の50周年記念誌によれば,1964年の大会に参加した外国人選手は大部分が労働者であった一方,53名の日本人選手で職業があったのはわずか5名(9%)で,「すでに社会復帰を実現し職を持ちつつスポーツを楽しんでいる,体力も気力も充溢している外国選手と,入院生活の延長の如きわが国の選手との差を,まざまざと見ることになったのである。これが,我が国の施政者,我々医療担当者,そして脊髄損傷患者達にも大きなモチベーションを与え,この瞬間から我が国の脊髄損傷リハが本格的にスタートしたと思う。また,脊髄損傷リハに車椅子スポーツをとり入れられたGuttmann博士の成果をはっきりと認識させられることにもなったのである。」との記述があります。記念誌には完成後間もない東京タワーの展望台を観光する,スーツ姿と思われる車椅子外国人選手の写真が掲載されていますが,その写真には,「欧米の選手に何かあったら大変と選手1人あたり2人の自衛官が付けられた。当時の日本では障害者はかわいそうな人で,保護すべき人であった。」との記載が添えられています。
少し神経因性下部尿路機能障害に興味を持っていただけたでしょうか? それではぜひとも特集記事に進んで“functional urology”の世界を堪能してください。
東邦大学医療センター大橋病院泌尿器科
関戸 哲利
目次
特集:これであなたも神経因性下部尿路機能障害のエキスパート!!─脊髄障害による下部尿路機能障害の診断と治療─
序文
東邦大学医療センター大橋病院泌尿器科 関戸 哲利
脊髄障害に起因する神経因性下部尿路機能障害の診療の流れ
東邦大学医療センター大橋病院泌尿器科 関戸 哲利
脊髄障害による下部尿路機能障害の診断─尿流動態検査の有用性─
兵庫県立リハビリテーション中央病院泌尿器科 仙石 淳,他
尿路管理法
山梨大学大学院総合研究部泌尿器科学講座 三井 貴彦,他
薬物療法
鳥取大学医学部器官制御外科学講座腎泌尿器学分野 本田 正史,他
外科的治療─特に膀胱拡大術と尿失禁防止術について─
旭川医科大学腎泌尿器外科 柿崎 秀宏,他
外科的治療─括約筋切開術─
総合せき損センター泌尿器科 高橋 良輔
高齢者の脊髄障害による下部尿路機能障害
東北労災病院泌尿器科 浪間 孝重,他
連載
第116回 泌尿器科領域におけるトラブルシューティング
ロボット支援下前立腺摘除術中のRocco後壁補強の際に縫合針を紛失し探索に苦慮した症例
東京医科大学泌尿器科学分野 大野 芳正,他
溺と淋(巻之五)
皮膚泌尿器科学の成立まで
日本大学医学部泌尿器科学系泌尿器科学分野 岡田 清己,他
総説
泌尿器科医とウイルス学者による共同研究の展開
東京大学医科学研究所感染免疫部門ウイルス感染分野 余郷 嘉明,他
JCウイルス(JCV)から見た中国の成り立ち─黄河文明の担い手と長江文明の担い手は,起源が異なるJCVに感染していた!? ─
東京大学医科学研究所感染免疫部門ウイルス感染分野 余郷 嘉明
臨床研究
前立腺肥大症または過活動膀胱を合併し,夜間多尿による夜間頻尿を呈する男性患者に対するデスモプレシンの有効性と安全性:国内第Ⅲ相試験サブグループ解析
フェリング・ファーマ株式会社メディカルアフェアーズ 平方 利幸,他
男性の下部尿路症状を有する夜間多尿による夜間頻尿患者に対する低用量デスモプレシンの初期成績
医療法人好誠会西野クリニック 西野 好則
腎細胞癌に対するヴォトリエント®錠(パゾパニブ塩酸塩)の使用実態下における安全性と有効性:使用成績調査の最終結果報告
ノバルティス ファーマ株式会社グローバル医薬品開発本部臨床開発CDD &再審査CDD3赤津 成美,他
症例報告
腹膜透析導入でカテーテルトラブルを認めた2例
親水クリニック 川田 有香,他
読者欄─医事放談
確定診断に日数を要した腎盂癌症例
新久喜総合病院泌尿器科兼透析センター 勝岡洋治
地方会記録
平成27年度~令和元年度 高知県泌尿器科会
第113~115回 日本泌尿器科学会茨城地方会
第632回 日本泌尿器科学会東京地方会
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書籍情報
- ISBN:9784865173895
- ページ数:130頁
- 書籍発行日:2020年9月
- 電子版発売日:2022年8月26日
- 判:A4判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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