序文

腎盂・尿管癌診療ガイドライン初版（2014年版）が発刊されて早6年が経過する。その間に同様の組織型を有する膀胱癌においては，尿遺伝子診断のFISH法を用いたウロビジョン®やphotodynamic diagnosisを利用したTURBTが保険診療として認可され，ロボット支援下膀胱全摘除術が保険収載された。また転移性癌に対する二次治療として免疫チェックポイント阻害薬が2017年12月より保険承認され，標準治療として日常診療で使われるようになった。これら膀胱癌診療の目まぐるしい変化は腎盂・尿管癌臨床へ影響を及ぼしていると思われる。腎盂・尿管癌に対する低侵襲治療の位置づけや化学療法を含めた全身薬物治療の適応・制癌効果を改めて見つめなおす時期にきていると思われる。今回，腎盂・尿管癌の治療の再考を目的に本企画を立案し，8名の先生に執筆のご依頼をさせていただいた。

腎盂・尿管癌の標準治療である腎尿管全摘除の腹腔鏡手術の適応・制癌効果・開放手術と比較した利点を岡山大学の吉永先生にご解説いただいた。リンパ節の至適郭清範囲，リンパ節郭清の診断的・治療的意義をご自身が報告された臨床研究の成果を含め北海道大学の安部先生にご解説いただいた。腎温存治療に関しては経尿道的アプローチを用いた腫瘍凝固蒸散術を多数経験されている，すずかけセントラル病院の麦谷先生にご執筆いただいた。弘前大学は術前補助化学療法，大阪大学は術後補助化学療法の豊富な経験を有し，ご自身のグループが報告された臨床研究の成果を含め腎盂・尿管癌に対する術前あるいは術後化学療法の利点，問題点，治療の実際をそれぞれ畠山先生，藤田先生にご解説いただいた。転移性腎盂・尿管癌に対する化学療法の治療成績，膀胱癌の一次化学療法と異なる点，またシスプラチン不適格症例に対する化学療法の実際を岡山医療センターの津島先生にご解説いただいた。富山大学の北村先生には腎盂・尿管癌に対するペムブロリズマブの治療成績，転移性癌に対する二次治療の今後の展望をご解説いただいた。そして腎尿管全摘除術後の膀胱再発の発症機序，ご自身が報告された前向き臨床研究の成果を含め，膀胱再発抑制に対する様々な試みを東北大学の伊藤先生にご解説いただいた。

尿路上皮癌治療に対して様々な臨床治験が現在，精力的に進められている。また新規技術を駆使した手術手技の改良も期待されている。本企画が皆様の腎盂・尿管癌の日々の臨床に少しでもお役に立てば，企画者にとりまして望外の喜びです。

聖マリアンナ医科大学腎泌尿器外科学
菊地　栄次