序文
腎癌，上部尿路上皮癌，膀胱癌，前立腺癌にリンパ節郭清は必要ですか？

読者の先生方は，手術を予定している腎癌，上部尿路上皮癌，膀胱癌，あるいは前立腺癌の患者さんに「リンパ節を郭清することは本当に必要ですか？」と質問されたら，どのように答えていますか？　明確な答えができない先生もいらっしゃるかもしれません。泌尿器科領域では精巣癌および陰茎癌ではリンパ節郭清の診断的および治療的意義は確立していて，一方，これら以外の癌腫では治療的意義についてははっきりしない状況が長く続いていました。最近，泌尿器科癌のリンパ節郭清に関して，いくつかの前向きランダム化試験の結果が発表され，エビデンスが増えつつあります。

本特集では，各領域のエキスパートの先生方に，泌尿器科癌のリンパ節転移の画像診断，リンパ節郭清について現時点で最高の知見を示していただきました。画像診断では，通常のCT/MRI 検査に比較して，機能的画像診断である拡散強調MRI，FDG PET/CT 検査により，診断精度は上昇するものの限界はあることから，リンパ節郭清の診断的意義の重要性はまだまだ続きそうです。

次に，腎癌，上部尿路上皮癌，膀胱癌，前立腺癌のリンパ節郭清について，まず最新エビデンスを示していただき，次にエキスパートの先生方が実際にどのように実践しているか具体的に説明いただきました。興味深いことに「エビデンス」を担当いただいた先生方のコメントは癌腫によらずほぼ共通していて，すなわち，

・リンパ節郭清は，診断的意義はある

・郭清を行うことによって手術時間は延長し合併症もある程度増加する

・治療的意義については明らかではない

・リンパ節郭清を行うべき条件，および至適な郭清範囲は明らかではない

となっています。残念ながら，最近のものを含めて今日までに発表された前向きランダム化試験でリンパ節郭清の治療的意義は示されていません。

一方，「実践」を担当いただいた先生方では，診断的意義に加えてある程度以上は治療的意義を認めると記載されている方もいらっしゃいます。少なくとも診断的意義は明らかですので，今後もリンパ節郭清の必要性は続くものと思います。現状では，癌腫の違い，T 病期，ノモグラムなどを参考にリンパ節転移の可能性を予測してリンパ節郭清の適応を決め実践していると思われます。その際，本特集で示されている実践的な郭清テクニックは読者の先生方の役に立つものと信じます。

東京医科歯科大学大学院腎泌尿器外科学教室
藤井　靖久