特集にあたって

神経集中治療領域では，種々のガイドラインが出されているが，脳への影響を加味した全身管理についてneurocritical care に視点をおいた内容でまとめたものは少ない。どのような疾患であっても，原疾患や全身状態が脳に及ぼす影響「二次性脳障害の防止」を理解した上で治療を計画することが重要であり，神経学的転帰改善を目指した脳指向型の集中治療を考える必要がある。これまで原疾患の治療に加えて「二次性脳障害の防止」を念頭にした治療が，集中治療医と神経系の専門医を加えた多職種チームによって行われてきた。日本集中治療医学会における神経集中治療委員会では，神経集中治療を「重症の脳・神経疾患に加えて，疾患の種類にかかわらず二次性脳障害を起こしうる病態に対して脳指向型管理を実践し神経学的転帰改善を目指した集中治療」と定義している。本稿では，二次性脳障害に留意した基本的な脳指向型管理・治療を学び，見逃しやすいピットフォールについて議論を深めた。

具体的には，（1）「集中治療が必要な神経系疾患に対する呼吸管理」，（2）「神経集中治療における目標指向型循環管理」，（3）「集中治療が必要な神経疾患に対する栄養/血糖管理」，（4）「集中治療が必要な神経系疾患に対する抗菌薬管理」，（5）「てんかん重積状態の薬物治療と集中治療管理」，（6）「小児のNeurocritical Care」，（7）「神経集中治療で応用されるモニタリングにおけるup date情報のまとめ」である。例えば，脳虚血の原因となる病態は，神経学的転帰と相関することが知られているが，その原因には全身性の要因（46.8%），脳性（45.5%），またはその両方（7.8%）との報告がある。興味深いのは，頭蓋内圧亢進などの頭蓋内側の要因と，低血圧や低酸素状態などの全身性の要因がほぼ同じ割合であることである。今回の内容には，集中治療室で基本となる呼吸・循環管理をどのように組み立てるかや，栄養/血糖管理のトピック，転帰に直接的にも影響するてんかん重積状態（非痙攣性てんかん重積を含む）の治療法などにも言及し，最後に「神経集中治療で応用されるモニタリングのup date」をまとめて頂いた。それぞれボリュームがあるが，読み終えた時に「二次性脳障害に留意した基本的な脳指向型管理・治療」について理解し，中枢神経系疾患に留まらず，すべての集中治療が必要な重症病態でも「二次性脳障害の防止」について考えていかなければならないことが伝わるはずである。常に重症の脳・神経疾患に対する治療と「二次性脳障害の防止」について考え，実践できる環境を整えるきっかけとなることを期待している。

木下　浩作
日本大学医学部救急医学系救急集中治療医学分野