特集 1 序説
先天性心疾患における外科および周術期治療の進歩は目覚ましく,幼少時における治療成績は著しく改善した。これにより,わが国では成人期に達する先天性心疾患患者(adult congenital heart disease;ACHD)は,急激に増加している。ただし,小児期に順調に経過した患者も成人期に達すると,疾患特有の遺残病変や続発症など新たな問題を引き起こすため,生涯にわたるフォローが必要となる。また,ACHD患者の多くは,就学や就労,結婚や妊娠などのライフイベントと生活の質を左右する制限や再手術などが重なり,社会保障を含めたサポートが必要となるが,その受け皿となる医療機関の体制は十分に整っていない。
高齢循環器診療では冠動脈や左心系の疾患を多く取り扱うが,ACHDでは右心系や肺循環が病態の中心となる。形態と心機能,血行動態などを総合的に評価する必要があるが,個々の症例で病歴や過去の術式が異なり病態はさまざまである。このため,治療には綿密な計画と明確な改善目標をもって臨む必要がある。CTやMRIが重要な役割を担っていることに間違いはないが,ACHD診療における画像診断のエビデンスは未構築であり,われわれ放射線科医に託されたタスクである。本稿は,放射線科医のみでなく循環器内科医,心臓血管外科医としてACHD診療の第一線で活躍されている先生方を執筆者として招き,その画像診断の基本と最前線を紹介している。
まず,発症率が高く一般の放射線科医も遭遇機会の多いACHDを取り上げ,それらの病型と典型的画像所見,同時に突然死や致命的もしくは緊急を要する画像を提示している。加えてACHDの治療方針とモニタリングに不可欠である心室容積と位相コントラストMRIによる血流測定の手法とピットフォール,解析結果がもたらす臨床的意義を記載している。
いくつかの大学病院で画像診断に携わってきた経験上,未読のまま読影端末リストに残っている画像は循環器系が多いと実感する。特に先天性心疾患は,手付かずになることが多く,放射線科医にはハードルが高い。まさに“絶対苦手分野”である。さらに確定されたレポートは,循環器内科医にとっては通り一遍となり,臨床的意義が希薄なものも多い。本稿では,臨床医から求められる読影のポイントとキー画像を多く提示している。苦手克服の一助としてぜひ参考にしていただきたい。
先天性単心室に対するFontan手術は根治的なものではなく,その長期予後は,ほかの先天性心疾患と比較しきわめて不良である。Fontan循環では中心静脈圧上昇によるうっ血肝や肝線維化がその原因の1つとされ,Fontan関連肝疾患(Fontan–associated liverdisease;FALD)として最近肝臓内科医にも注目されている。FALDでは20歳前後の若年にもかかわらず,肝硬変に進行し,肝細胞癌を発症することも少なくないが,その病理や画像は未解明な部分が多い。肝腫瘍の画像に精通し,多くのエビデンスを積み上げてきたわれわれ放射線科医の出番である。FALDに限らず,ACHDの遠隔期合併症やその治療について,エビデンスが得られているものは少ない。その解決策を循環器内科医や心臓血管外科医とともにわれわれ放射線科医も積極的に関与し提案すべきだと考えている。労働生産人口にあるACHD患者の生活の質の向上は,社会的意義の高い医療への貢献となる。“絶対苦手分野”を得意分野に変える絶好のチャンスである。
長尾充展
特集 2 序説
1998年に米国のR2 Technology(現Hologic)社の乳癌検出コンピュータ支援診断(computer–aided diagnosis;CAD)システムが食品医薬品局(Food and Drug Administration;FDA)の認可を得たことをきっかけに,放射線科医の間でCADへの注目が高まった。その後,CADの研究は多くの疾患やモダリティを対象として行われてきたが,臨床への普及は予想されたほどには進まなかった。
2012年に大規模な画像分類コンテストでディープラーニング技術が圧倒的な性能を示し,放射線画像診断支援にも革新的なブレークスルーをもたらすこととなった。ディープラーニング技術は画像認識において顕著な能力を発揮し,2016年にディープラーニング研究の権威であるHintonが,「5年以内にAIが放射線科医を上回ることは確実であり,今すぐに放射線科医を訓練することはやめるべき」と発言した。これは放射線科医たちに大きな衝撃を与えたが,2023年現在でも放射線科医の不足が問題となっており,むしろ画像診断をサポートするAIの実臨床への導入に対する関心が高まっている。
画像診断をサポートするAIの実臨床への導入において,経済的インセンティブも重要な役割を果たしている。米国においては,CADを診断に用いることで保険点数が加算されることが普及の要因となった。日本でも,2022年度に「人工知能技術を用いた画像診断補助ソフトウェアに対する診療加算」が保険適用されることが認められ,今後画像診断をサポートするAI開発が活発化することが期待されている。
このような背景のなか,OpenAI社から公開された「ChatGPT」が昨年末に登場し,わずか2カ月で1億人のアクティブユーザーを獲得して急速に普及している。さらに,基礎となる大規模言語モデルもGPT–3.5からGPT–4へと進化し,その精度が著しく向上している。ChatGPTは,画像診断サポートAIにおいても革命的な影響を及ぼすことが想定され,すでにChatGPTを利用したChatCADのような画像診断レポート作成支援ツールなどが数多く発表されている。同時期に出版されたBMJの論文「AIは放射線科専門医試験に合格できるか?」では,AIが放射線科医に置き換わるのはまだ困難であると結論付けられているが,近い将来この状況も変化する可能性があるとされている。
このように画像診断サポートAIを取り巻く状況は急速に進化し,その現状を正確に伝えることは容易ではないが,本特集では,実臨床に導入されている画像診断サポートAIの現状について,この分野を代表する4名の専門家にご寄稿を依頼した。
慶應義塾大学医学部の橋本正弘先生には,AIホスピタルプロジェクトの経験を中心に,大阪大学大学院医学系研究科の梁川雅弘先生らには,胸部領域での活用事例についてご寄稿いただいた。また,株式会社ワイズ・リーディングの中山善晴先生には,遠隔画像診断会社を運営するなかで,最も負担のかかるレポート作成業務を支援するAIの開発について,米国のArtera Inc.の山下力也先生には,医療AIスタートアップでのAI–basedbiomarker開発経験に基づく評価の重要性についてご寄稿いただいた。
本特集が,実臨床に導入されている画像診断サポートAIの理解に資する一助となることを願っている。なお,本序説の推敲にはChatGPTを用いた。
木戸尚治