羅針盤

2015 年，スウェーデンのマルメで開催されたHarmonizingOutcome Measures for Eczema（HOME）Ⅳmeet ing において，患者報告アウトカム（Patient-ReportedOutcomes：PROs）は治療効果判定に不可欠であり，POEM がもっとも適した評価であるとのコンセンサスが得られました．当時，PROs にまったくなじみのなかった私は，その場にいて新鮮な驚きを感じたのです．SCORAD やEASI などの他覚的評価だけでなく，患者が自ら評価した疾患重症度を医療従事者に伝えることで，コミュニケーションギャップは小さくなるはずです．アトピー性皮膚炎は，皮膚症状と衣食住が相互に影響し合うため，医療者は，目に見える症状に加え，患者の内面や生活も意識した治療とライフスタイルへの助言を提供する必要があります．このような多岐にわたる指導介入には，各種の専門的知識と多くの時間が必要です．日常診療で，外用薬の塗り方のちょっとしたコツを伝えるだけで見違えるほどよくなる症例を経験します．外用薬の使用方法の説明にもう少し時間がとれればよいのに，と思いつつ，他の患者を待たせてもいけないと葛藤しています．また，アトピー性皮膚炎に適応がある生物学的製剤や分子標的薬が次々に登場し，その効果は目覚ましいものがあります．患者にそれらの治療の特徴や効果・副作用の説明を行い，治療の選択肢を提示することも必要です．

このように，患者に伝えたいことがたくさんあります．そこで，さまざまな多職種の医療従事者がそれぞれの専門知識を活かして患者指導を分担する“多職種連携” がアトピー性皮膚炎診療に取り入れられつつあり，いくつかの施設で実践されています．労働時間の見直しやタスクシフティングといった時代の波に後押しされ，私もやってみたいと思いつつ，どこからどう手をつけていいのかわからず，腰が上がりませんでした．しかし，今回，取材をしてみてわかりました．なんでもいいから始めてみればいいのです．

本特集号は，患者教育における多職種連携の意義，および具体的な運営と指導内容を知る機会としました．さらに，メディカルサポーターの育成と認定制度について，ふだんのアトピー性皮膚炎の管理指導に役立つテクニックと情報をエキスパートの方々に解説していただきました．

今回取材させていただいた大阪はびきの医療センター「アトピーカレッジ」のみなさんが，“皮膚だけでなく，患者の人生を診る” とおっしゃっていたことに深い感銘を受けました．患者を知るには，マンパワーを要しても，対面で話すのがいちばんだそうです．これは，医療の原点のように思います．多職種が“UNITE”することで生まれる癒しは，患者の救いになるはずだと期待を寄せています．

室田　浩之
Hiroyuki Murota
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科皮膚病態学 教授，Visual Dermatology 編集委員