作業療法に役立つ臨床推論

  • ページ数 : 332頁
  • 書籍発行日 : 2022年9月
  • 電子版発売日 : 2023年2月8日
¥4,950(税込)
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商品情報

内容

生活障害の科学的分析に基づいたOT臨床推論の入門に最適の一冊!

リハビリテーション領域においても近年よく耳にするようになった臨床推論(クリニカルリーズニング)。
作業療法士(OTR)は、対象者の多種多様な生活における困難さ、すなわち生活障害へ介入する医療専門職ですが、これら対象者は医学的要因と社会的要因が複雑に組み合わさった個別性の高い状況にあります。 これら対象者のうち、特に高次脳機能障害を抱える対象者に対して、その生活障害を分析し、統合と解釈を行い、介入するためには、確かな基礎知識と豊富な臨床経験が必要とされることは想像に難くないでしょう。
本書では、臨床推論(クリニカルリーズニング)の基本的な考え方から、分析の思考過程、統合と解釈、そして評価や介入といった、作業療法士ならではの推論思考過程を丁寧に解説しています。 臨床の場では、経験として語られることで終わってしまう場合が多いところもありますが、その臨床力を一つ一つ整理していくことで、科学的分析に基づいた作業療法介入であることをしっかりと理解できるはずです。
高次脳機能障害における生活障害へ介入する作業療法士ならではの臨床推論についてまとめあげた、本邦初の書籍です。

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序文

監修の序

本書は高次脳機能障害,臨床神経心理学に精通した3名の編者,すなわち酒井 浩氏,宮口英樹氏,横井賀津志氏の3名による作業療法領域の成書である.しかし,本書のタイトルも「作業療法に役立つ・・・・」となっているように,通常の作業療法の領域をはるかに超えている.むしろ,中心的命題は「臨床推論」であり,編者らが高次脳機能障害の長年の臨床経験のなかで遭遇した患者さんの様々な日常生活上の問題点を解決していく過程を述べた異色の書である.

本書の多種多様な臨床事例について,その推論過程を述べていく部分は主に編集代表である酒井氏が担当している.もともと私が最初に酒井氏と出会った頃は,いくつかの学会や研究会を通じて,彼がまさに現場で抱いた様々な臨床疑問を周囲に投げかけ,故 加藤元一郎先生や種村 純先生・留美先生ご夫妻,あるいは私と自由闊達に「ああでもないこうでもない」といった議論を続けていた.本書はそのようななかで彼自身が培ってきた透徹した臨床思考の極意が散りばめられており,特に第7章「事例を通した推論過程の理解」にそのエッセンスが詰まっている.個別のケースを通じて,酒井氏の思考過程をヴィヴィッドに感じることができる内容となっている.本書を産み出すには大変な苦しみもあったと思うが,一方で,彼自身が臨床推論をしていく楽しさを感じながら,書き綴ったのではないかと推測する.

患者さんの日常生活上の困りごとをつぶさに把握し,それを学術用語に落とし込み,対応する理論的枠組みを考えていくプロセスは作業療法士のみならず,医師にも言語聴覚士にも臨床心理士にも求められる.本書の読者(その多くは臨床家)は,患者さんの日常生活の困りごとを軽減していくための自分自身の「問題解決能力」を問われることになる.その意味で,臨床場面での推論は収束的というよりも発散的で,基本的には帰納的だが,演繹的側面も併せ持っているといえる.この第7章は実臨床のリアルワールドな症例群であるので,若干複雑かつ変則的で,簡単に理解できない部分もある.そのような理解を最大限にするために,本書では謂わば第1章から第6章がイントロダクション的な役割を担っている.随所にトピックやコラムが挿入されているところも,具体的な理解の助けに有用である.

本書で述べている臨床推論から得られたアクションはもちろん唯一の正解というわけではない.読者には自由に自分自身の臨床推論を組み立てていただきたい.そして,読者が卓越した臨床家となるための一助として,本書を役立てていただければ幸いである.


2022年8月

三村 將


編集の序

私は大学病院での臨床を13年,そのあと,大学で教鞭をとる傍ら,兼業先での臨床または臨床相談をこれまでずっと行っている.今日,神経心理学,高次脳機能障害学と,これらの分野における作業療法に関する教科書はたくさん出版されているが,私が臨床業務を生業とし始めた頃は,これらの分野の教科書はほとんどなく,山鳥 重先生の『神経心理学入門』を何度も何度も読み込みながら,目の前にいる患者さんを診ていた.

時は経ち,同じ悩みをもつ後輩を指導するなかで,「自分の見立ては合っているか」という疑問を抱き,「合っていなければ,この患者さんに申し訳ない」という不安から,その分野で信頼できる諸先生に相談すると,快く相談に乗っていただくことができ,幾度となく相談を繰り返した.今でも自信はないものの,徐々に相談する側から相談される側に立場は変化していく.今思えば,このような先生方からのフィードバックをいただけなければ,今ここで,この文章を書いている自分はいなかっただろう.至らない自分をご指導いただいた諸先生方には本当に心から感謝している.

前述したように,神経心理学,高次脳機能障害学と,その分野における作業療法の教科書は潤沢となっているが,これらの教科書を読むだけでは,目の前にいる患者さんが,箸をうまく使えない原因を,的確に特定することはできない.このような,ある事象が起こる原因を解明するための思考過程を臨床推論というが,臨床推論を基礎から学べる教材は未だ少なく,作業療法分野においては皆無に等しい.

本書では,第1章で臨床推論の理論的基盤を述べ,第2章で実践場面における臨床推論の基本的思考過程を解説し,第3章で高次脳機能障害に関する基礎知識,そして第4章で医師の視点で行われる疾患や症候の鑑別診断的思考に必要な知識を網羅している.また,各所に主要な症候における最新知見を網羅したトピック,症候を鑑別するために特に知っておきたい関連症候や関連領域における評価とその結果を理解するために必要な知識を網羅したコラムを配置している.

続いて,第5章は,謂わば本書の中核となる部分であり,レジュメ作成の要点をわかりやすく解説しているが,レジュメにおける「統合と解釈」は臨床推論思考過程を凝縮し,端的にまとめたものであり,この部分を理解し,作成できるようにすることが本書の目的の一つといってもよい.

第6章は,さらに発展させて,画像の読解に関する知識と考え方を解説しており,画像から高次脳機能障害を予測するのに役立つ.そして,最終章となる第7章は,私が臨床相談を行ってきたなかで,比較的相談が多く,見本として示しやすい事例をピックアップして,相談内容・推論過程・相談に対する回答をまとめている.この部分では,私の臨床推論思考を読み進めながら“なぞる”という構えで,一気に読破していただきたい.このような臨床推論思考の習熟には,最善と思われる見本(最適解)を基にした経験の反復が必要である.そのため,本書の第5章に記載した比較的シンプルな事例をレジュメにまとめる過程,そして第7章で取り上げた複雑な症状を呈する事例をまとめる過程をよく読み,最適解と思われる見本をなぞることが,読者の推論スキルを高めるために役立つものと考える.

生活障害の何故を読み解き,それを生活場面で解決していくことができるのは作業療法ならではの特色であり,作業療法士はこれを得意としていかなければならない.一人でも多くの作業療法士が,生活の場で生じる問題を正しく紐解き,効果的に解決していけるようになることを願うばかりである.


2022年7月

編集者を代表して  酒井 浩

目次

第1章 作業療法における臨床推論 宮口英樹

1 作業療法と臨床推論

2 臨床推論の種類

3 作業療法に推論過程をどのように活かすか

4 作業療法推論における「統合と解釈」と高次脳機能障害

5 臨床推論の能力を高めるために

トピック  VBPとSDM 宮口英樹

1 価値に基づく診療(VBP)

2 共同意思決定(SDM)

第2章 臨床推論の基礎と推論過程 酒井 浩

1 事象が何に起因するのかを特定する

2 事象を掘り下げる

3 作業療法における臨床推論の流れ

4 事象から予備的診断(仮説生成)までの流れ

5 予備的診断の検証(確認検査)

トピック  注意障害・記憶障害がある対象者へのアプローチ 中井秀昭

1 注意障害・記憶障害とリハビリテーション

2 注意障害に対するリハビリテーションのアプローチやエビデンス

3 記憶障害に対するリハビリテーションのアプローチやエビデンス

コラム  脳卒中および身体障害領域の臨床評価:評価編 尾藤祥子

1 WMFT(Wolf Motor Function Test)

2 MAL(Motor Activity Log)

コラム  脳卒中および身体障害領域の臨床評価:介入編 田丸佳希

1 リハビリテーションと運動学習

2 脳卒中リハビリテーションの代表的なファシリテーションテクニック

3 エビデンスに基づくCI療法

第3章 高次脳機能障害のアセスメント 酒井 浩

総論:脳の役割分担と高次脳機能障害

1 前頭葉の働きと高次脳機能障害

2 頭頂−後頭葉の働きと高次脳機能障害

3 側頭葉の働きと高次脳機能障害

各論

1 注意障害

2 半側空間無視

3 視覚失認

4 バリント症候群

5 記憶障害

6 失行症

7 ゲルストマン症候群および身体部位失認

8 前頭葉障害

トピック  左半側空間無視と最近の知見 大松聡子

1 半側空間無視の病態

2 机上検査における限界点

3 注意ネットワークの障害としての2つの選択反応課題(能動注意課題と受動注意課題)

4 視線計測から代償戦略の程度を評価する

5 左右反転画像提示における自由視認中の視線計測

トピック  視覚認知の障害とその評価―視覚失認・バリント症候群― 安永佐知歌

1 視覚認知に関わる脳

2 視覚失認の分類と評価

3 バリント症候群とその評価

4 その他の視覚認知障害

コラム  失語症の臨床評価と結果の解釈 酒井希代江

1 失語症の評価

2 評価の前に

3 病期における評価

4 標準失語症検査(SLTA)

5 実用コミュニケーション能力検査(CADL)

6 失語症とその他の原因による言語障害との鑑別

7 失語症者への対応

第4章 神経症状から考える臨床推論 髙橋守正

1 時期から考える

2 症状から考える

3 脳の血管支配

4 認知症と高次脳機能障害

トピック  失行症とその他の行為・行動の障害 塚越千尋

1 失行症

2 行為・行動の障害

3 介入方法の変遷

コラム  統合失調症とうつ病 真下いずみ

1 統合失調症

2 うつ病

第5章 レジュメにおける臨床推論の組み立て

レジュメ見本:右半球病変 酒井 浩 

1 レジュメ作成の要旨

2 統合と解釈に至るまでのポイント

レジュメ見本:左半球病変 酒井 浩

1 レジュメ作成の要旨

2 統合と解釈に至るまでのポイント

レジュメの作成:基礎編 酒井 浩

1 レジュメ

2 レジュメ作成上の重要ポイント

3 「統合と解釈」を考えるための論理展開①

4 「統合と解釈」を考えるための論理展開②

レジュメの作成:応用編① 酒井 浩

1 レジュメ

2 情報の確認

レジュメの作成:応用編② 酒井 浩,横井賀津志

1 作業とは

2 人・環境・作業

3 評価と介入

4 レジュメ

トピック  社会的行動障害,意欲の障害,遂行機能障害をシステムの観点から捉える 山根伸吾

1 脳機能システム

2 病態メカニズムの考え方

コラム  意味のある作業,作業レベルの臨床評価 横井賀津志

1 作業ニーズ

2 作業ニーズを捉えるための評価ツール

3 作業遂行に関する評価ツール

第6章 臨床推論に役立つ画像の見方と考え方 大松聡子

1 脳内ネットワークと高次脳機能障害との関係

2 脳画像の読影に必要な白質線維

3 主要な高次脳機能障害

トピック  失読,失書,小児の読み書き障害 高畑脩平

1 概要

2 失読・失書の分類

3 読字の神経機構

4 書字の神経機構

コラム  妄想性人物誤認と周辺症候(奇妙な訴えをするもの) 中西英一

1 妄想性人物誤認とは

2 妄想性人物誤認の周辺症候

第7章 事例を通した推論過程の理解 酒井 浩

1 事例の見方

2 事例の概要

事例①:左後頭葉内側病変

1 カルテ情報

2 相談内容

3 推論過程

4 相談に対する回答

事例②:右頭頂葉病変

1 カルテ情報

2 相談内容

3 推論過程

4 相談に対する回答

事例③:右前頭葉病変

1 カルテ情報

2 相談内容

3 推論過程

4 相談に対する回答

5 統合と解釈を踏まえた介入方針の立案


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書籍情報

  • ISBN:9784895907576
  • ページ数:332頁
  • 書籍発行日:2022年9月
  • 電子版発売日:2023年2月8日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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