改訂4版の序
「2ページで理解する標準薬物治療ファイル」は,初心者が薬物治療について理解するためよりも,むしろ基礎的な事項を確認し,ベッドサイドや在宅の場面で薬物治療を実践するスタッフを対象にしたものです.本書は初版が2013年8月に出版され,第2版(2015年12月),第3版(2019年8月)と定期的な改訂が行われきました.そしてこのたび,第4版が出版されることになりました.
さて,日本の医療は大きく変わろうとしています.2019年末,中国・武漢を発生源とした新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は全世界で猛威を振るい,拡大と沈静を繰り返しながら4年目を迎えました.このような中で,我が国においては社会保障・税一体改革が急ピッチで進められており,医療DX(Digital Transformation)の導入が診療報酬の改定も含めて具現化されています.一方,薬物治療は従来のチーム医療の中心的な対象として,そして外来診療やタスクシフト・シェアへの対応などに科学的・合理的に推進されることがますます求められています.
日本アプライド・セラピューティクス(実践薬物治療)学会の活動方針は「医療法では,医療を担う医療関係者は,医療を受ける者との信頼関係に基づき医療を受ける者の心身の状況に応じて良質かつ適切な医療を行う責務を持つとされています.医療において薬物治療は大きなウエイトを占めており,安心,安全で,かつ,有効で合理的,経済的な薬物治療を提供することは薬物治療を担う者の責務です.しかし,昨今の状況は,それを全うできている状況ではなく,患者,国民からの医療に対する不安感や不信感の増大が起こっています.そのことが,更に,医師に対する過度の負担を課すこととなり,その対応に苦慮する状態を生み,さらに患者の医療に対する不満を増大させるという悪循環に陥っている現状があります.この現状を打破していくためには医師だけでなく,薬剤師など薬物治療を担う者達が,共通の目標と認識を持ち,協力して薬物治療に対応していくべきです.そのためには経験的な薬物治療に依存することなく,薬物治療に関して調査,評価,研究などを行い,新たなエビデンスを蓄積し,安心,安全かつ良質な薬物治療を議論,提案していく,さらに共通の目的と認識を持って薬物治療を実践していくために普及,教育などの活動を行う組織が必要だと考えます.」(本学会の設立趣意書より)とされており,本書もこの活動方針に沿って作成されてきました.医師・薬剤師が共通した認識で疾患を理解し,確認できることで患者フォローが容易にでき,適切な薬物治療が実践されることと思います.
現在はさまざまな領域で診療ガイドラインが作成され,臨床に提供されていますが,本書も診療ガイドラインのup dateや新規治療薬の上市などに対応するため,それらの情報を加えて編集作業を行いました.今後も,最新の情報を取り入れ,医療や臨床でますます使いやすい書籍になっていくことを目指し,継続的に改訂を行っていきたいと考えています.既に,本書がいくつかの薬学部で教科書として採用されているとの情報が届いています.今回の第4版より代表的8疾患を網羅できるよう,67疾患(第3版)から70疾患に増やしての標準薬物治療ファイルの編集をお願いしました.標準的な薬物治療を専門以外でも一目で確認できることが本書の主目的であり,多くの医療スタッフに活用され,客観的・科学的なエビデンスに基づいた薬物治療が実践されることを期待します.
最後に,改訂第4版の編集にあたりご尽力を頂きました栃倉尚広先生(日本大学医学部附属板橋病院薬剤部),津田泰正先生(聖路加国際病院薬剤部)ならびに70疾患の標準薬物治療ファイルの筆者全員の先生方に,心よりお礼申し上げます.
2023年1月
日本アプライド・セラピューティクス(実践薬物治療)学会標準薬物治療委員会
SUBARU健康保険組合太田記念病院 薬剤部
山藤 満