序文
平成22年(2010年)に『ゼロからマスター 手・肘の鏡視下手術』を上梓してから13年が経過し,初版本は絶版となり,手に入らなくなりました。手関節鏡を勉強する若手の先生たちから本の入手法を尋ねられても途方に暮れていました。そこで,メジカルビュー社に話して改訂版またはまったく新しい本を作成しようということになりました。初版は実はよくできていて,わずかの修正や改正で済んでいる部分が多かったので,初版に掲載されなかった手術やTFCC損傷の手術などを加えて改訂第2版として上梓することになりました。一人の術者が行っている鏡視下手術すべてをまとめた形なので,一貫性があり,読みやすいと思います。また,文章は最小限にして写真やイラスト,一部は動画をみることが可能なように工夫しました。
すでに私の経験年数は30年を優に超えましたが,なお手関節鏡,肘関節鏡ともに難しい手術と認識されているようです。やはり空間認識能力を磨かないと平面の画面と3次元の術野の整合が難しいと思います。従って,空間認識能力を磨くようにしてください。また,手関節鏡,肘関節鏡視下手術が上手だという先生の手術を見学してください。コロナ禍で2年ほど見学者が来ませんでしたが,昨年の10月以来,海外からの見学者が非常に増えています。すでに韓国,タイ,オーストラリアなどからの見学を受けています。また,2023年4月以降は韓国,台湾,タイ,シンガポールからの見学者を受ける予定です。もちろん,日本の先生の見学もウェルカムです。関節鏡手術は指導者の手術をよくみて,自分でカダバートレーニングを行って,さらに患者さんの治療を行うという過程を経ないと,自己流では難しいと思います。初版の序文にも書きましたが,本書を読んで,すぐ手術してみようと思わないでください。
カダバーワークショップも日本手外科学会主催の手関節鏡ワークショップ,日本肘関節学会主催の肘関節鏡ワークショップが隔年開催されています。札幌医科大学で開催され,固定屍体ではありますが,大変やわらかい標本で,フレッシュカダバーと遜色ありません。海外のワークショップも国際手関節鏡学会(International Wrist Arthroscopy Society:IWAS)主催のコースがフランス・ストラスブールを中心に,台湾,ブラジル,南アフリカで毎年開催されていますし,シンガポールや香港,北京や上海などでも行われています。日本からは台湾,香港,シンガポールが現実的な選択肢となりますが,いずれもフレッシュカダバーのコースなので標本の状態は良好です。台湾のコースでは日本人の参加者には日本語で教えてよいといわれていますので,理解しやすいと思います。残念ながら2020年から昨年まではコロナ禍で中止となっていますが,今年から再開されます。学ぶ機会を得ることは以前よりも簡単になっています。あとは皆さんのやる気です。
今回の改訂ではTFCC損傷の手術として手関節鏡併用の直視下縫合術,同じく関節鏡併用のECU半裁腱を用いた再建術,尺骨短縮術を加え,私が行っているTFCC損傷の手術はすべて入れました。また,手関節内骨折の鏡視下手術では私が最近行っている済生会下関総合病院の安部幸雄先生のPART法を紹介しました。肘関節鏡視下手術もOCDに対する鏡視下での骨釘挿入術や鏡視下での関節形成術の項目を加え,最近では行わなくなった手術の項目は削除しました。現時点(令和5年)で私が行っている手関節鏡・肘関節鏡を使う手術がほぼ網羅されています。
改訂版を作ることが決まってから2年ほど経過しましたが,メジカルビュー社の澤﨑 望さん,矢部涼子さんには大変ご迷惑をおかけしました。いつも病院に足を運んでいただきありがとうございました。感謝しています。また,初版のイラストは素晴らしかったのですが,一部は改訂しました。改訂したイラストも手書きで非常にきれいなものに仕上がっています。
本書が皆さんの臨床,特に手関節鏡と肘関節鏡スキルの向上に役立つことを願っています。
令和5年4月
中村俊康