編集のことば
このたび,自治医科大学名誉教授の藤村昭夫先生のご指導の下,本書を編集させていただきました。専門医のロジック,治療選択にフォーカスを当て,これから専門医を目指す若い先生にもわかりやすい内容になっていると思います。
一昔前だと,「神経疾患は治療法がない」「よくならない」というイメージが強かったかもしれません。しかし,近年はrt-PAや直接作用型経口抗凝固薬,生物学的製剤,CGRP関連薬など治療の進歩が著しく,多くのエビデンスが構築されてきています。治療選択が広がることは喜ばしいことですが,一方で使う側は最新の情報を入手し,適正使用の経験を積み,治療効果を客観的に判断し,必要に応じて修正し,患者さんの満足度を上げる努力を続けなければなりません。例えば,脳梗塞の患者さんに対し,抗血小板薬と抗凝固薬のどちらを選択するのか,そしてそれぞれのなかからどの薬を選択するのか,どう組み合わせるのかなど,考えるべきことは少なくありません。診療ガイドラインを精読すると,ある程度の理解はできますが,それを実臨床の現場に落とし込む作業は若い先生にとっては決して易しいことではないと思います。
医療が進歩するほど,早期診断と適切な治療選択の重要性が増していきます。本書はガイドラインと日常診療の橋渡し的な位置にあり,日常診療で遭遇する頻度が高い疾患を中心に,その分野のエキスパートの先生に,疾患へのアプローチ,診断のプロセス,治療選択のコツについて執筆いただきました。多くの症例を提示し,実践的な構成になっています。基本的な知識を整理しながら,診断から治療選択のプロセスに触れていただければと思います。
本書の編集に際しては,多くのスタッフや先生方にお力添えを賜りました。改めて心から感謝申し上げます。多くの先生の日常診療の一助となれば幸甚です。
2022年12月
自治医科大学内科学講座神経内科学部門 主任教授
藤本 茂
監修のことば
わが国では,急速な高齢化とともに神経疾患に罹患した患者数が急激に増加しています。例えば,2020年には認知症患者数は約630万人,脳血管障害患者数は約300万人に達したため,有効な予防法や治療法を早急に確立することが社会から求められています。
このような社会的ニーズに応えるために神経疾患の治療法に関する研究が積極的に行われ,脳血管障害に対して抗血栓・抗凝固療法,炎症性脱髄性疾患に対して免疫抑制療法・免疫調節療法が開発され,多くの患者が救われるようになりました。また,アルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患の治療法はいまだ確立されていませんが,原因遺伝子変異が同定され発症メカニズムの一部が解明された結果,近い将来,優れた治療法が見出されるものと期待されます。
治療薬に関する研究開発が進展した結果,数多くの神経疾患治療薬が臨床の場で用いられるようになりました。しかし,処方の際に戸惑いを覚える医師も多いと思います。このような状況を鑑み,医師が神経疾患の現状を理解し,さらに薬物を適正に使用するために必要な知識を習得することを目的として本書が企画されました。
本書の編集は自治医科大学神経内科学の藤本茂先生に依頼し,神経疾患を診療するときに役立つ4章48項目からなる内容をリストアップしていただきました。第1章では頭痛などの代表的な6症状に関する診断・検査および治療のポイント,第2章では非心原性脳梗塞などの代表的な30疾患を取り上げ,それぞれについて症例を提示するとともに,病態・疾患に応じた薬の選び方・使い方を解説していただきました。また,第3章では主な治療薬の特徴と使い方,第4章では神経難病の治療の現状をそれぞれの領域の専門の先生方に解説していただきました。
執筆された各先生方は,日々の臨床で多くの患者の診療にあたっており,本書では多くの症例を取り入れながらわかりやすくまとめていただきました。本書によって神経疾患治療薬の選択が適切に行われ,薬物が適正に使用されることを願っています。
最後に,本書の企画・編集にご協力いただきましたじほう編集部の吉岡陽一様および小川原智様にお礼申し上げます。
2022年12月
自治医科大学名誉教授
藤村 昭夫