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- 臨床画像 2024年8月号 特集1:出会ったときに悩まない 医原性病変の画像診断/特集2:心アミロイドーシスの画像診断:心臓MRI編
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序文
特集 1 出会ったときに悩まない 医原性病変の画像診断
診断医として駆け出しのころ,鍼治療の既往のあるスクリーニングCTで画像を何度もスクロールし所見を確定する直前,すっと気になる違和感が生じた。動脈硬化の石灰化と頭のなかで思い込んでいたものが血管近傍まで迷入した針であり,こんな体幹の深部まで針が迷い込んでくるのかと驚いた経験はいまだに忘れることができない。文献を検索してみると,伏針による心タンポナーデ,気胸,骨髄炎,肝炎,感染性心内膜炎,くも膜下出血,敗血症,脊髄障害などが報告されていた1)。現在の『鍼灸安全対策ガイドライン(2020年版)』2)では,故意に鍼を体内に埋没させる埋没鍼療法は禁忌の施術とされていることから,今後見かける頻度は少なくなっていくことが想定される。
このように当時は有用と考えられていた行為が,科学技術の進歩や時間という選別を経て,かえって有害となる遷り変わりは,古今東西さまざまな事象で認められてきた。過去の医療行為について紛争が起きた場合,現在の医療水準で判断してはならない。すなわち医療紛争に関する過失の有無について,医師の注意義務の基準(規範)となるべきものは診療当時のいわゆる臨床医学実践における「医療水準」を基にして判断されるというのが現在の最高裁判例であり(最高裁昭和57年3月30日判決,判例タイムズ468号76ページ),より具体化したのが2つ目の最高裁平成7年6月9日判決(民集49巻6号1499ページ)で,「医療機関に要求される医療水準であるかどうかを決するについては,当該医療機関の性格,所在地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮すべきである」とされる。とはいえ,この医療水準を具体的にどのレベルに置くかは解釈の余地が残っており,依然として争点となりうる。
変遷といえば,医原病(iatrogenic disorders)は実に興味深いワードである。
医原病は,“医師や看護師の医療行為が原因で起こる病気,医原性疾患”と,定義されている(デジタル大辞泉より)。この概念を最初に医学に導入したA.Hurs(t 1932年)は,医師の検査,態度,説明などに起因する患者の自己暗示によって起こった病気であると定義したが,今日ではこうした狭義の医原性神経症に留まらず,患者に施した手技が不適当であったり,薬剤などの副作用で起こる疾患も含めて広義に考えられており,むしろ後者が大勢を占めているとされ,定義も変わってきた。将来的には人工知能(artificial intelligence;AI)がこの概念のなかに包括されてくる可能性も十分に予見されうるのではないだろうか。
今回の企画では,臨床現場で出会う頻度の高い,もしくは頻度は低くとも特徴的な画像を有する医原性病変について,手技(カテーテル治療,放射線治療),人工物(術後体内異物,皮下異物),薬剤性の各々の視点から,担当の先生方に執筆いただいた。今回の分野は,日常診療で出会う頻度は決して低くはないものの,簡潔にまとまったこの一冊といった決定版がなかなか見当たらない,いわゆる隙間産業的な領域であり,症例の収集選択をはじめ執筆の先生方には大変なご努力をいただき誠に感謝する次第である。
医原性病変の射程は,医療技術の発展と表裏一体であり,診断医は今後も新たな画像に直面し続けていくことが予想される。今回の特集は,現時点でのミニマムエッセンスで,いずれも痒いところに手が届く内容であり,出会ったときに悩まないように本稿が明日からの診療の助けとなっていただければ幸いである。
清崎由美子
文献
1)吉田博希ほか:鍼灸針による腹部大動脈内伏針の1例. 日血管外会誌, 11:653–656, 2002.
2)全日本鍼灸学会 編:鍼灸安全対策ガイドライン 2020年版. 医歯薬出版, 2020.
特集 2 心アミロイドーシスの画像診断:心臓MRI編
医師になったころの筆者にとって心アミロイドーシスは稀少疾患という認識であった(あるいはその存在を認識もできていなかったかもしれない)。心臓MRIという言葉は聞いたことはあったけれど[筆者が三重大学 放射線科に入局する前年に佐久間 肇先生(現・同大 放射線科教授)が留学から帰り検査を開始していた],アミロイドーシスとは結び付けようもなかった。実際に“cardiac amyloidosis, MRI”と『PubMed』検索してみると1997年以前の論文は8本しかヒットしない。そのなかに1つだけ心アミロイドーシスにおける左室心筋の異常造影効果を報告したものがある。当時,愛媛大学 第二内科に在籍しておられた松岡 宏先生(現・朝倉さわやかクリニック院長)の手による心電図同期スピンエコー法T1強調像を用いた報告である1)。これに続くスピンエコー法の論文は1999年まで待たねばならなかったから2),松岡先生らの仕事の先進性には驚きを禁じえない。
筆者自身は2000年から心臓MRIの世界に足を踏み入れたのだが,ちょうどinversionrecovery法による遅延造影MRIが臨床で実用化されたタイミングであり,心筋梗塞の検出や心筋バイアビリティ評価に夢中になっていた。遅延造影MRIでは左室心筋をnullとするinversion delayを設定することが肝であるが,これがどうにもうまくいかない症例に出会うことがあった。それがどうやら心アミロイドーシスのせいであるらしいことがわかったのは,2005年のことだった3)。あれから20年,PSIR法,T1マッピング,T2マッピング,心筋ストレイン解析など,心臓MRIの進歩には目を見張るものがある。2020年の心アミロイドーシス診療ガイドラインにおいても心臓MRIの活用が推奨され,放射線科医には心アミロイドーシス診療における心臓MRIの役割,撮影法,画像所見についての一般的知識が求められるようになった。また,心アミロイドーシスに対する治療法の発達は早期診断の重要性を加速させ,典型的所見を呈する前に心アミロイドーシスの可能性を指摘できるかが大きな課題となっている。
本特集では,エキスパートの先生方に放射線科医や診療放射線技師が知っておくべき心アミロイドーシスのポイントを最新の知見を交えながらわかりやすく解説していただいた。読者の皆様の明日からの診療に少しでもお役立ていただければ望外の喜びである。
北川覚也
文献
1) Matsuoka H, et al:Precise assessment of myocardial damage associated with secondary cardiomyopathies by use of Gd-DTPA-enhanced magnetic resonance imaging. Angiology, 44:945–950, 1993.
2) Celletti F, et al:Assessment of restrictive cardiomyopathy of amyloid or idiopathic etiology by magnetic resonance imaging. Am J Cardiol, 83:798–801, 1999.
3) Maceira AM, et al:Cardiovascular magnetic resonance in cardiac amyloidosis. Circulation, 111:186–193, 2005.
目次
特集1:出会ったときに悩まない 医原性病変の画像診断 企画・編集:渡邊尚史
序説 渡邊尚史
IVRに伴う合併症の画像診断 村上 祥ほか
放射線治療−知っておくべき放射線合併症の画像所見の特徴− 井口治男ほか
人工物−術後体内異物遺残,カテーテル位置異常− 藤井佳美ほか
皮下異物−美容外科分野を中心に− 向井宏樹
薬剤;irAEの代表的な画像所見 益岡壮太
特徴的な画像所見を呈する薬剤性の疾患 大屋明希子ほか
COVID-19ワクチン関連の画像所見について 髙橋慶子ほか
特集2:心アミロイドーシスの画像診断:心臓MRI編 企画・編集:北川覚也
序説 北川覚也
心アミロイドーシスの臨床像と治療 藤本直紀
心アミロイドーシスにおける心臓MRIの撮像 福島啓太
心アミロイドーシスMRIの読影の基本 多保康平ほか
心アミロイドーシスMRIの読影の実際 1−診療現場の実際− 尾田済太郎
心アミロイドーシスMRIの読影の実際 2−非典型例の読影− 橋村宏美
連載
・何としても読んでもらいたい あの論文,この論文
[第25回]
経静脈的な門脈および胆管のIVR 平木隆夫
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書籍情報
- ISBN:9784008004408
- ページ数:112頁
- 書籍発行日:2024年7月
- 電子版発売日:2024年7月26日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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