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- 新 知覚をみる・いかす -手の動きの滑らかさと巧みさを取り戻すために-
商品情報
内容
疑問解決の糸口をつかむ!
運動機能には大きな問題がないのに、ものをつかむことができない。必要以上に強く握り込んでしまう。うまく道具を操作できない。
こうしたケースに遭遇したとき、手の巧みな動きを支えている知覚の障害をどのようにみて、治療にいかしていけばよいのか。その考え方の流れがわかりやすくまとめられ、すぐさま臨床へと応用できる内容構成。
知覚に関する基本的な知識の確認から臨床への応用までを網羅した、すべての臨床家必携の一冊。
序文
はじめに
ひとの生活の多くは、手を使う動作によって遂行されています。手の動作は運動機能だけでは完遂することはできず、知覚機能が重要な役割を果たしていることは多くのセラピストが実感しているところです。手の動きの特徴は滑らかさと巧みさを備えていることですが、それを見えないところで支えているのが知覚です。しかし、実際に手を動かしているときは知覚の役割を明確には認識しておらず、失って初めて、その重要な役割に気づくのではないでしょうか。
臨床では、「動作をうまく行えないのは知覚に原因があるのではないか?」、「それを調べるためにはどのような知覚検査を選択したらよいのか?」、「検査をどのように実施したらよいのか?」、「実施した結果をどのように解釈して治療につなげたらよいのか?」など、多くの疑問が存在します。個々の症例に対応した実践を行うのは担当のセラピストですが、本書は、こうした疑問を少しでも解決する糸口となることを目指しました。筆者は養成校を卒業した1976年から、作業療法士として、重度で広範な知覚障害のある患者さんたちと向き合ってきましたが、その中で、なすすべのない無力感を味わいました。運動機能にはさほど問題がないのに、なぜものをつかむことができないのか、必要以上に強く握り込んでしまうのはなぜか、うまく道具を操作できないのはなぜか─。それから、知覚のリハビリテーションは筆者の研究テーマになりました。このような中で学んだことは、知覚の障害をみるのは容易ではないこと、しかし、みようと努力を重ねたとき、その障害はみえてくる、そして治療にいかすことができるということでした。本書の目的は、まさにそれを伝えることです。
2003年に『知覚をみる・いかす─手の知覚再教育─』を上梓させていただきましたが、今回、その内容を大幅に増補し、『新 知覚をみる・いかす』として、その伝えたいことをまとめました。そして、「手の動きの滑らかさと巧みさを取り戻したい」という積年の願いを込めて、副題とした次第です。
本書を通じて訴えたいこと、理解していただきたいことは、以下の通りです。〈第1章・臨床観察から理解する手の知覚障害と動作障害〉では、臨床でセラピストが日々遭遇する動作の障害を挙げ、その知覚障害との関連を解説しています。リハビリテーションを進めていくうえでの問題点を知覚の側面からとらえ、それを解決するための視点のもち方を「理解のポイント」に示しました。また、読者が経験した症例と重ね合わせながら、理解を深めてもらえるように工夫しました。これらを通して、まずは知覚アプローチの手がかりをつかみ、手の動作障害を知覚の側面からアプローチするきっかけにしていただけたら幸いです。〈第3章・知覚評価─検査項目の選択と実施、結果の解釈─〉では、個々の検査を解説するにあたって、多くの臨床家が知りたがっている「どのようなときにこの検査を行うのか」をまず提示し、「臨床でみられる問題点」と検査の選択が結びつくように工夫しました。そして、知覚検査で最も重要な観点である結果の解釈について、「結果をどうとらえ、治療につなげるか」という項目で解説を加えました。これらを参考にしていただくことで、実施した知覚検査の結果をどのように解釈し、それをどのように治療プログラムに反映させたらよいかを考える一助にしていただきたいと願っています。また、検査項目ごとに検査用紙を掲載しました。いずれも1ページに収まっており、検査の際に参照しやすくなっていますので、日常行っている検査手順や記録方法を見直すきっかけにしてください。
さらに本章では、これまで詳細に解説されることがなかった新しい知覚検査として、Three-Phase Desensitization Kitによる「知覚過敏の検査」や手の実用性を評価する「ローゼンスコア」など、いくつか新しい検査を盛り込み、詳細な解説を加えてあります。
〈第5章・知覚のリハビリテーション〉では、「知覚過敏に対する減感作療法」を加え、また、現在行われている末梢神経、中枢神経による「知覚再学習プログラム」を紹介しました。近年、知覚再学習においては、脳の可塑性を積極的に活用した方法が盛んに行われていますので、その実践にあたって理解しておくべき知識や手法の実際について述べています。また、「残存知覚を利用した識別知覚の再学習」として、知覚が障害されてしまっても残存しているモダリティや部位を見つけ、それをいかすための方略について解説を加えました。“知覚障害があってもその回復をすぐに諦めない”という臨床家としての姿勢を、そこからくみ取っていただければ幸いです。
〈第2章・体性感覚の神経生理学的基礎─手の知覚機能とその障害に関連して─〉と〈第4章・知覚障害の部位と特徴〉では、知覚を理解するために必要と思われる基礎的知識と知覚に関する今日的なトピックスを紹介しています。知覚に関しては、臨床における疑問はもちろんのこと、研究対象として解明すべき事柄がたくさん存在します。ぜひ、これらをお読みいただき、多くの刺激を受けて、読者自身の臨床、研究活動を発展させていただきたいと切に願っています。
「痛み」は、臨床家がその対応に苦慮している大きな問題の一つです。本書では、この問題に関し、第2章で「痛みの情報伝達の特異性」について、第5章で「手の痛みに対する知覚アプローチ」について、詳しく解説しました。これらの項目については、臨床、研究活動において長年「痛み」に取り組んでいる作業療法士の清本憲太氏に担当をお願いしました。清本氏とは、10年以上にわたり知覚の評価や再学習について議論を重ね、共同研究を進めてきました。本書の理解者の一人であり、最適な研究者に執筆をお願いできたと考えています。また本書では、はるか昔より知覚障害に対する検査やそのリハビリテーションに携わってきた偉大な先達の足跡を紹介しています。その歩みを今後の知覚のリハビリテーションの発展にいかしていただきたいという思いを込めて、第3章に「知覚評価の歴史的変遷」を、第5章に「知覚のリハビリテーションの歴史的変遷」を加えました。これは、40年有余にわたって知覚を研究テーマとし、多くの研究者、臨床家の研究成果を間近にみてきた筆者にとって、おこがましいながらも、使命感にも似た思いで書かせていただきました。多くの先覚から直接指導を受けることができ、たくさんの事柄を学ばせていただいたことに感謝を捧げ、敬意を払う意味でも、本書に書き残しておきたいと考えたからです。作業療法士の鎌倉矩子氏は、「過去からの教訓を読み取って現在にいかすというのも、思考の鍛錬の一つのかたちである」と語ったことがあります。ぜひ、偉大な巨人たちの肩を借り、その上から、知覚の評価やリハビリテーションの先を眺めていただき、その気づきを、臨床、研究、教育の場にいかしていただけたら、これ以上の喜びはありません。
知覚機能やその評価、治療について、わかりやすく読者に伝えるという能力に乏しい筆者にとって、本書完成までの道のりは困難な作業の連続でした。協同医書出版社の戸髙英明氏は、編集者という立場だけでなく、最も厳しい読者という立場からも容赦のない注文や的確なコメントをくださいました。最後になりましたが、そのご支援と忍耐力に深く感謝申し上げます。また、本書を世に出すことを許可してくださった木下攝会長、中村三夫社長に感謝申し上げます。
なお、古くから筆者らの臨床活動、研究活動を支えてくださった作業療法士、澤俊二氏(金城大学医療健康学部作業療法学科教授)と甲山博美氏(デイサービス・アレグリア管理者)には、今までいただいたご支援、ご協力に対して改めてお礼を述べたいと思います。
これら多くの方々に支えられて、改訂を思い立ってから8年もの歳月をかけ、やっと本書を完成させることができました。ご指導いただきました多くの皆様に深く感謝申し上げます。知覚のリハビリテーションのさらなる発展を祈念して。
2019年7月
編著者 中田眞由美
目次
第1章 臨床観察から理解する手の知覚障害と動作障害 [中田眞由美]
1.知覚情報をつくっているのは自らの手の動き─手の動きと識別の関係─
1-1 手の動きと識別の関係とは
1-2 探索・識別のために必要な知覚情報をつくっているのは自らの手や腕の動き
1-3 手には2種類の触覚がある
1-4 識別動作と手の動き
1-5 触覚、固有感覚の見分け方
1-6 識別機能を調べるための検査とは
1-7 触行動の診かた
1-8 識別機能を改善するには
1-9 まとめ
2.対象物への手の不適合が生じるのはなぜか?─知覚と手のフォームの関係─
2-1 ひとの手は多様なフォーム形成能力を備えている
2-2 フォーム決定に重要な役割を担っている手の知覚
2-3 手のフォーム形成の障害─対象への不適合とは─
2-4 手のフォームを調べるための検査
2-5 手のフォームの改善
2-6 まとめ
3. 触覚が鈍くなるとなぜ過剰に力を入れて把握するのか?─触覚と固有感覚の関係性─
3-1 静的触覚と把持力の調節
3-2 把持力は必要最小限に調節されている
3-3 過剰な把持力は固有感覚による代償である
3-4 持続的な把持および把持力の調節機能を調べるには
3-5 把握動作の維持と把持力の調節を改善するには
3-6 まとめ
4.手は動いている面から何を感じているのか?─貫通触面を感じる手─
4-1 ペットボトルのキャップを締めるとき手は何を感じているのか
4-2 机上に置かれたおはじきを指で動かすとき指尖は何を感じているのか
4-3 おはじき動作の困難と知覚障害
4-4 貫通触を調べるための知覚検査とは
4-5 知覚を改善するための練習とは
4-6 貫通触面を感じるために必要なこと
4-7 まとめ
5.道具の操作に必要な手の知覚─遠隔触とは?─
5-1 手が操作する道具とは
5-2 道具は把握できるのに、その操作が困難なのはなぜか
5-3 道具操作に必要な遠隔触とは
5-4 ドライバー操作における表面触と遠隔触
5-5 道具操作の障害─表面触、遠隔触を物体の操作に利用できない手─
5-6 道具操作の遠隔触を調べるためには
5-7 表面触と遠隔触を有効に利用する
5-8 まとめ
6.失われたことに気づきにくい防御知覚─外傷の危険の増大と治癒の遷延─
6-1 組織損傷から生体を守る防御知覚とは
6-2 外傷の危険の増大と治癒の遷延
6-3 自覚されにくい防御知覚の障害
6-4 防御知覚はどのように検査したらよいか
6-5 熱傷・外傷予防の患者指導
6-6 まとめ
第2章 体性感覚の神経生理学的基礎─手の知覚機能とその障害に関連して─ [中田眞由美]
1.神経生理学的基礎
1-1 ヒトの手には2種類の触覚がある─触覚受容器の特徴と反応様式とは?─
1-2 体性感覚の脳内における情報処理とは?
1-3 体性感覚野が損傷されると触知覚はどのように障害されるのか?
2.触覚受容器とその特徴
2-1 身体に加えられた外力はどのようにして感じるのか?
2-2 触られた部位はどのようにしてわかるのか?
2-3 触覚刺激の強弱はどのようにしてわかるのか?
2-4 順応の速い受容器はどのような情報を伝えているのか?
2-5 微細な刺激でも刺激の加え方によっては閾値を低下させることができる─加重効果とは?─
3.触覚と空間分解能
3-1 指に加えられた2カ所の刺激はどのようにして識別することができるのか?
3-2 ひとの皮膚はどのくらい正確に空間をとらえることができるのか?─「空間分解能」の種類と閾値─
3-3 粗さはどのようにして識別できるのか?
4. 末梢神経回復後の触覚検査と触覚受容器の関係─触覚検査の結果は皮下の受容器の回復をどのように反映しているのか?─
5.運動錯覚によって明らかにされた運動感覚の情報処理
5-1 手は動いていないのに、動いているように感じてしまうのはなぜか?
5-2 錯覚経験に強弱をつけることはできるのか?
5-3 両手の運動錯覚とは?
5-4 物体に接触している手に運動錯覚が生じると何が起きるか?
5-5 両手で物体を持ったときに運動錯覚が生じると、物体の認識はどのように変化するのか?
6.物体の把握と知覚による制御
6-1 把握した物体の形態はどのように識別しているのか?
6-2 物体を把握するときの手のフォームはどのように決められるのか?
6-3 容器の中から物体を取り出すにはどのような知覚情報が必要か?
7.脳の可塑性─皮質における知覚の可塑性的変化と再構築─
7-1 動物における機能再現部位の再編成とは?
7-2 「手は自らの脳を形成する」とは?
7-3 知覚刺激による皮質の共活性化とは?
7-4 触覚刺激の共活性化は皮質にどのような変化をもたらすのか?
7-5 足指を指に移行したとき知覚はどのように変化するのか?
7-6 求心路を遮断すると何が起こるのか?
8.視覚障害と点字触読
8-1 点字触読者の触覚識別能力が鋭敏なのはなぜか?
8-2 点字の触読指には定位の誤認識がある?
8-3 点字触読にはどの程度の触覚機能が必要なのだろうか?─糖尿病による中途視覚障害者における指の触知覚と点字触読─
9.加齢による知覚の変化
9-1 振動刺激に対する感受性は加齢により変化するのか?
9-2 触覚閾値は加齢により変化するのか?
9-3 2点識別の値は加齢により変化するのか?
9-4 ピックアップ検査は加齢の影響を受けるのか?
9-5 運動感覚は加齢により変化するのか?
10.身体を使った重さの判定
10-1 ひとはどのように身体を使って重さを判定しているのか?
10-2 ひとはどの程度の重量の違いを識別できるのだろうか?
11.侵害刺激から身体を守っている仕組み─侵害受容器とは?─
12.温度の識別─温覚、冷覚はどのように感じているのか?─
13.義手のゴム手袋を自分の手のように感じる─ラバーハンド錯覚─
13-1 ラバーハンド錯覚とは?
13-2 ラバーハンド錯覚の誘発に必要な条件とは?
13-3 ラバーハンド錯覚と身体保持感覚の関係とは?
13-4 ラバーハンド錯覚の神経基盤とは?
13-5 ラバーハンド錯覚の強さの指標とは?
13-6 ラバーハンド錯覚はどのようにして誘発するのか?
13-7 ラバーハンド錯覚の臨床適用への可能性は?
14.痛みの情報伝達の特異性 [清本憲太]
14-1 痛み、温度の情報はどのように伝えられるのか?
14-2 痛み調節の仕組み─痛みが強くなったり弱くなったりするのはなぜか?─
14-3 複合性局所疼痛症候群─神経支配に一致しない強い痛みとは?─
14-4 幻肢と幻肢痛─存在しないのに感じるのはなぜか?─
第3章 知覚評価─検査項目の選択と実施、結果の解釈─ [中田眞由美]
1.知覚評価の歴史的変遷
1-1 触錯覚から生まれた2点識別検査
1-2 理論的な知覚検査から機能的な知覚検査へ
1-3 馬尾からモノフィラメントへ─触覚閾値検査の発展─
1-4 セメスワインスタインモノフィラメントの結果の解釈
1-5 絞扼性神経障害に対する知覚検査
1-6 その他の知覚検査─持続的な触・圧覚の検査─
1-7 触知覚と手関節位置覚の識別検査
1-8 ローゼンスコア
1-9 知覚過敏の検査
1-10 知覚評価の発展とその実施
2.手・上肢の知覚障害の診かた
3.知覚検査の実施に際して
3-1 知覚検査を実施する場所と時間帯
3-2 検査に先立って調べておくこと
3-3 実施上の注意
4.知覚検査の実際
4-1 知覚モダリティの検査
4-2 指の誤局在(mislocalization)の検査
4-3 手の識別知覚(tactile gnosis)の検査
4-4 手の実用性の評価─ローゼンスコア─
4-5 知覚過敏の検査─Three-Phase Desensitization Kitによる検査─
4-6 客観的検査
第4章 知覚障害の部位と特徴 [岩崎テル子]
1.体性感覚障害はどうして生じるのか
1-1 体表で感じる知覚障害─末梢神経性知覚障害─
1-2 体表の知覚障害部位をたどれば脊髄に行き着く─脊髄分節および後根損傷による知覚障害─
1-3 2大感覚伝導路─障害の現れ方が異なる中枢神経性(大脳と脳幹部)知覚障害─
2.部位別にみた知覚障害の分布
2-1 頑固で強い痛み─単一末梢神経損傷による知覚障害─
2-2 手袋靴下型感覚脱失─多発性神経損傷による知覚障害─
2-3 神経根・神経叢病変─皮膚分節に一致した知覚障害─
2-4 脊髄損傷─損傷部位による多様な知覚障害─
2-5 ワレンベルグ症候群─脳幹部障害─
2-6 不快な激痛─視床症候群─
2-7 全か無か─大脳の知覚障害の傾向─
第5章 知覚のリハビリテーション [中田眞由美]
1.知覚のリハビリテーションの歴史的変遷
1-1 物体を利用した識別再訓練
1-2 防御知覚障害と保護プログラム
1-3 神経生理学に裏づけられた知覚再教育の幕開け
1-4 知覚のリハビリテーションの体系化
1-5 知覚過敏と減感作療法
1-6 知覚再教育の発展
1-7 手と脳─知覚再学習の新たなる幕開け─
1-8 知覚のリハビリテーションの進展
2.知覚のリハビリテーションのとらえ方
2-1 理論的背景
2-2 治療的アプローチのポイント
3.知覚のリハビリテーションの実際
3-1 防御知覚障害に対する指導
3-2 知覚再学習プログラム実施の基本原則
3-3 知覚再学習プログラム
3-4 手の動作学習プログラム
3-5 手の痛みに対する知覚アプローチ [清本憲太]
4.まとめ
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書籍情報
- ISBN:9784763995216
- ページ数:420頁
- 書籍発行日:2019年9月
- 電子版発売日:2024年6月4日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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