諸　言

私が高位脛骨骨切り術（HTO）を教わった時代はclosed wedge HTO（CWHTO）の全盛期であった．しかし長期間のギプス固定を必要とし，腓骨神経麻痺や骨癒合不全などの合併症の結果その数は減り年間700 件程度まで落ち込んだ．人工膝関節の除痛性能が優るようになったこともある．その後2000 年代になってopen wedge HTO（OWHTO）が導入され合併症が減り，術後のリハビリ期間が大幅に短縮された歴史がある．変形性膝関節症（OA）の治療として始まったHTOは現在では膝周囲骨切り術（AKO）に発展し，外傷後の下肢アライメント矯正，半月板修復術や関節軟骨再生などの成績向上のために併用される新たな取り組みも始まった．

本書は日本Knee Osteotomy and Joint Preservation 研究会のメンバーの先生方へ投稿を募って編集させていただいた．日頃の手術でどのように工夫したら手術操作が簡便になるか，安全になるか，そしてどうしたらさらに良い成績が得られるか，様々なアイデアを多くの方々がお持ちであると考え企画した．内容は中，上級者向けとなったが，多くのアイデアが集結していて読みがいのあるものに仕上がったと思う．以下に内容を簡単に紹介する．

大腿骨遠位骨切り術（DFO）は活動性のある比較的若い外反膝の患者に有効な手段である．Double level osteotomy（DLO）を含めて今後数が増えることが予想される．骨切り方法もmonoplane，biplane いずれが良いのか意見が分かれる．いずれにせよ安全に行うことができ，骨癒合も早く得られる方法が好ましい．DLO は手術の難易度も高く術前計画が重要である．巻末に掲載されているが熟読していただきたい．

脛骨粗面下骨切り術（DTO）は本邦においてポピュラーな術式となりつつある．OWHTO に比べて膝蓋大腿関節障害を起こしにくいという点で優れた方法であるが骨切り部の不安定要素が大きいことが難点である．骨癒合を早めるという観点からも今後の展開が期待される．

脛骨近位骨切り術はCWHTO から始まった．このカテゴリーの中には複数の術式がありAKOの基本である．OA の程度や分類によって選択する方法が異なる．ここでは3 つの術式が紹介されているが自分が得意とする方法を身に着け実践していただきたいと考える．

CWHTO の際には必ず腓骨骨切りまたは部分切除が必要となる．しかし膝OA 治療が優先されて腓骨が本来果たすべき役割が軽視されてきた感もある．今後は腓骨再接合も重要なテーマの一つとなることを願う．

ACL 不全を放置すると将来膝OA が起こることは知られている．特に膝内反変形や脛骨後方傾斜角が強い症例にはACL 再建に骨切り術を併用することが必要かどうか議論されてきた．OA 膝においてACL 再建を成功させるための工夫を述べていただいた．

HTO は高齢者の膝OA に対して行う手術と考えられてきたがその概念は時を経てAKO となり，さらには適応が半月板修復や軟骨再生にも拡大し，同時に患者層も高齢者から若い層へと広がってきた．AKO の成績をさらに向上させるため，膝関節を再生させるため，さらに新しいアイデアが今後も生まれるであろう．本書が皆様の膝OA 治療の一助となることを期待する．

2023年4月

さいわい鶴見病院関節外科
竹内 良平