特集にあたって

多臓器不全（multiple organ failure：MOF）は，脳，心，肺，肝，腎，消化管の解剖学的な障害のみならず内分泌系，凝固線溶系，免疫系などの生理学的なシステムの障害が複雑に絡み合った結果で生じる。救急・集中治療領域では，MOFという言葉は広く使われ，生体にとって複数の重要臓器が障害されて機能しなくなり，生命維持に障害を及ぼす状態とされてきた。臓器障害数と死亡率の関係でもVincent JLらは，臓器障害数の増加に伴い死亡率も増加することを報告し，3臓器以上の臓器障害が起こるとその死亡率は50％を超えるとしている。今回の特集は重症化した敗血症からの臓器不全，臓器障害の発症メカニズムを中心に最新の知見をまとめることを目的に企画した。

まず，多臓器不全発症のメカニズムについて政所祐太郎先生に執筆いただいた。敗血症の初期には，一酸化窒素（NO）の過剰産生により血液分布異常性ショックが臓器障害の誘因となり，活性酸素などによる血管内皮傷害やグリコカリックスの破綻で血管透過性亢進や微小循環障害を来すことが臓器障害のメカニズムの1つであるとしている。

敗血症関連脳障害発症の主なメカニズムを黒田泰弘先生に解説いただいた。炎症性サイトカインの放出が血液脳関門（blood-brain barrier：BBB）の破壊を引き起こし，免疫細胞と炎症性メディエータが脳内に入り，びまん性の神経炎症が惹起されマイクログリアの過剰な活性化が起こるとしているが，急性期の機序は低酸素脳症，代謝障害，微小血管やBBBの変化，神経伝達物質の調節障害などが複雑に関与していると思われる。

敗血症性心筋症のメカニズムは長谷川大祐先生に依頼した。心エコーの普及などで左心室収縮機能障害，拡張機能障害，さらに右心室機能障害などの特徴が明らかになっているが，病態のメカニズムについては，心筋虚血，PAMPs，炎症性サイトカイン，NO，DAMPsなどをあげている。

敗血症性ARDSのメカニズムは，血管内皮と肺胞上皮の損傷，アポトーシス，酸化ストレス，微小循環障害のほか免疫学的メカニズム，炎症性サイトカインなどの因子が関与しているとされており，大下慎一郎先生にまとめていただいた。

敗血症でみられる肝内胆汁うっ滞，DICといった兆候は急性肝不全と共通し，病態の背景には免疫応答の亢進（サイトカインストーム）が存在するとしており，これらの兆候の病因を理解してコントロールできるようにすることの有用性を，井上和明先生から解説いただいた。

敗血症からの急性腎障害（SA-AKI）発症のメカニズムについては森山和広先生に依頼した。

SA-AKIは，Sepsis-3とKDIGOの診断基準を同時に満たす病態で，全身性炎症や制御不能な宿主反応，好中球の活性化や微小循環障害などのメカニズムが関与しているとしている。

最後に，敗血症からDICを来すメカニズムについて，最新の知見を含めて十時崇彰先生に解説いただいた。

以上，敗血症からの臓器障害発症のメカニズムを各臓器でまとめていただいた。これらの知識は救急・集中治療に携わっている多職種の方々にも必ず有益な情報となると思う。ご多忙の中を各先生方ともにわかりやすくかつ精力的にご執筆いただき改めて深謝申し上げます。

池田　寿昭