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オックスフォード睡眠医学ハンドブック
Guy Leschziner (編) / 立花 直子 (監訳) / 丸善出版
商品情報
内容
睡眠時無呼吸、レストレスレッグズ症候群、睡眠時遊行症、ナルコレプシーなど患者の年齢や性別、診療科を問わず日々の診療で遭遇する睡眠関連疾患にどのようにアプローチをかければよいのか、精神科、脳神経内科、呼吸器内科、小児科、耳鼻咽喉科、歯科などと、さらに労働衛生の観点からもコンパクトにまとめられている。眠りや目覚めに問題のある患者にいったい何が起きているのか。その診察、検査、マネージメントなどを患者・症状ごとに記している。睡眠診療にかかわるすべての臨床家に必携の1冊である。
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序文
監訳者序文
本書『OXFORD HANDBOOK OF SLEEP MEDICINE: THE ESSENTIAL GUIDE TOSLEEP MEDICINE, FIRST EDITION』はオックスフォード大学出版会がシリーズとして刊行しているOxford Medical Handbooksの中の一冊である.この本との出会いは全くの偶然であり,2022年秋に監訳者が主催していた輪読会で使う本をネットで探していたときにひっかかってきたものである.しかし,この本を翻訳しよう,いや,翻訳するべき,翻訳は自分たちの使命であるとまで思い詰めるに至るには16 年の前史がある.この前史についてはかなり長くなるのであとがきで述べる.原書の序文にもあるように,睡眠医学は非常に若い学問分野であり,いろいろな既存の医学領域や疾患とつながっているが,睡眠が主要な脳機能の1 つであることから,1953年のKleitman とAserinskyによるREM睡眠の発見以来,睡眠ポリグラフィ(PSG)を用いた生理学的研究が主流であった時代が長く続き,その手法を臨床に応用する形で睡眠医学が確立されていった.脳波抜きでてんかん診療が成り立つのか? 心電図を取らないで循環器疾患を診療することができるのか? と自問していただくと答えが明らかなように,専門的な睡眠診療にはPSGが必須である.しかし,この手法は脳波や心電図に比べ,一晩の睡眠状態を観察し,記録し,7~8 時間に及ぶ記録を解析する必要があり,すべての医療機関で取り扱えるものではない.このことが多数の医師に睡眠診療への取り組みを躊躇させ,本来,脳機能を扱う科とされている脳神経内科,精神科においても睡眠医学に取り組む医師は少数に留まっている.一方,世界中を見渡しても,医学部に睡眠医学としての講座がある国はごく少数であり,それも他の科に間借りしている場合が大部分で,明らかに睡眠医学はまだ医学の中で「必要なもの」として認知されていない.そのような状況のもと,睡眠関連疾患に罹患しているが,未診断に終わっている患者は多数あり,より多くの医療従事者に睡眠医学を知ってもらう必要がある.このジレンマの中,Oxford Handbook シリーズにSleep Medicineが入ったということは,非常に大きな前進であり,少なくとも英国とその文化圏では,今後睡眠医学が独立して認知されていくのではないかというきざしを感じさせる一冊である.本書は学ぶべきことをコンパクトにまとめてあり,若手医師,プライマリケア従事者,睡眠を専門としない医師,産業医,メディカルスタッフや職場の健康管理従事者にも役立つ内容になっている.もちろん,すでに睡眠関連疾患を専門に診療されている医師にも新しい視点を得るための教科書として十分機能するであろう.
本書の翻訳内容にはいくつかの注意点がある.
1つ目は,当然だが原書は英国の医療制度に合わせて書かれていることである.英国は,社会保険方式ではなく,National Health Service(NHS)という税方式の健康サービス制度で運営されているため,国の医療資源配置計画に基づいてプライマリケア医(正確にはgeneral practitioner, GP)が配置され,居住地に応じて担当GPが一義的に決まり,GPを通じてより専門的な医療が受けられる地域基幹病院に紹介される.私的保険を基盤としていることでPSGを大量にルーチンで行えるスリープラボを核として成り立っている米国とは大きく事情が違い,国民皆保険ではあるが,どの医療機関に対してもフリーアクセスである日本とも異なっている.できる限り訳注にて対応したが,英国の医療事情が加味されていることで,日本の実情に合わないところがある点について,ご了承いただきたい.
2つ目はどの翻訳語を使うかということである.睡眠医学は多数の領域とつながっており,特に精神医学との接点は大きい.近年,精神医学ではICD-11 やDSM-5-TRに準じて日本語の訳語の調整が進んでおり,疾患名については最新のものにそろえるとともに,他の専門分野の医師やメディカルスタッフにもわかりやすい翻訳語になるように努めた.その他の用語も,各診療科の方針や現状に即した訳となるよう努めた.また,日本ではsleep disorders もsleep disruption もsleep disturbance もすべて「睡眠障害」と訳されてしまい,逆に「睡眠障害」という単語が出てきたら,いったい何を指しているのかを文脈から絶えず解釈しなければならず,このことが学習の大きな妨げになっていると考え,本書からは「睡眠障害」を排している.そして3 つ目は,食欲や睡眠覚醒にかかわる神経伝達物質として1998年に発見されたオレキシン/ヒポクレチンのダブルの呼び名である.この神経ペプチドは,米国の2 つの研究グループによって同定され(Sakurai T, et al. Cell. 1998; 92(4): 573-575.とdeLecea L, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 1998; 95(1): 322-327.),前者のグループは食欲を意味するギリシャ語orexis からオレキシン(orexin)と,後者のグループは視床下部(hypothalamus)由来であることからヒポクレチン(hypocretin)と命名した.ほぼ同時期に発表されたことから,どちらの名称も用いられ,原書でも各章の担当者によって異なる語が用いられている.したがって,原書の記載にならって翻訳している.
本書の翻訳には多くの人たちがかかわっており,何らかの形で監訳者とつながりがあり,若手の多くは,関西電力病院での定例睡眠勉強会やオンライン勉強会の構成員である.睡眠診療に直接は携わっていない人たちも入っているが,自分の診療に睡眠を取り入れようという意欲に満ちており,今後,睡眠医学と各々の科の懸け橋となってくれることを期待している.同様に本書の読者の方々の多くは,睡眠診療に従事していないかもしれないが,日常臨床の中に睡眠医学を取り入れ,そのおもしろさを周囲の人々に伝えるための教材として本書を利用していただけたらと思う.
2024 年9月吉日
立花 直子
原書序文
Foreword
睡眠医学は非常に新しい分野です.1970年代初頭に睡眠関連疾患が登場したとき,それは非常に稀な病気であり,大学病院など学術研究を担う施設が担当するものと考えられていました.最もありふれた疾患である睡眠時無呼吸症候群は,1975年頃まで名前すらありませんでした.1990 年代初頭まで,ほとんどの研究者が,睡眠時無呼吸症候群は女性には起こらないと信じていました.
一世代後,まわりの誰かが睡眠関連疾患にかかっていることを誰もが知っていますが,ほとんどの国の医療制度は,診断と治療を必要とする非常に多くの症例に対応できるようになってはいません.何百万人もの睡眠関連疾患患者に対応できる専門家が不足しているのです.GP(general practitioner),看護師,呼吸療法士は,患者のマネージメントにおいて,ますます重要な役割を果たすようになっています.
Guy Leschziner教授とその同僚は,私たちを睡眠医学の未来に導く素晴らしい本を執筆しました.そこでの専門家の役割は当然のことながら,複雑で稀な睡眠関連疾患の症例に対応することです.ほとんどの場合,最初に患者を診察する医療者はGPですが,睡眠関連疾患患者はあらゆる科の医師やメディカルスタッフのところにやってくるでしょう.たとえそれが主訴でなくても,医師は常に睡眠について患者に尋ねるべきです.本書によって,患者との関わり方や,重要な兆候や症状をどのように引き出すのかを学べるでしょう.そして本書は,専門医の診察が必要でないかもしれない患者の診断とマネージメントを一般医が自信をもって行う方法や,専門医の治療を受けるためにいつ紹介すべきかを知るのに役立ちます.
睡眠関連疾患は80種類以上あります.一般的な睡眠関連疾患のほとんどは,本書で詳しく説明しています.本書は医師と患者の両方に役立ちます.おそらく,家庭医の診察室を訪れる患者の少なくとも10%は睡眠関連疾患を抱えています.医師が週に100人の患者を診察する場合,1年間に500人の睡眠関連疾患患者を診察することになります.どれほど多くの睡眠関連疾患が見逃され,治療されなかったのか想像してみてください.本書は,この臨床上の重要なニーズを満たすための重要な第一歩なのです.
Meir Kryger, MD, FRCPC
Professor, Yale School of Medicine
Co-Editor, Principles and Practice of Sleep Medicine
Author, Mystery of Sleep
目次
第1章 睡眠の神経生物学
第2章 睡眠関連疾患への診療アプローチ
第3章 睡眠医学における診断のための検査
第4章 不眠症の臨床的側面
第5章 不眠症の心理療法
第6章 不眠症の医学的マネージメント
第7章 睡眠呼吸障害
第8章 睡眠呼吸障害と関連疾患
第9章 睡眠呼吸障害の内科的マネージメント
第10章 睡眠呼吸障害に対する歯科的アプローチ
第11章 睡眠関連呼吸障害への外科的アプローチ
第12章 閉塞性睡眠時無呼吸の治療のための新しいアプローチ
第13章 レストレスレッグズ症候群と周期性四肢運動異常症
第14章 ナルコレプシー
第15章 その他の中枢性過眠症
第16章 概日リズム睡眠・覚醒障害
第17章 睡眠時遊行症とその他のNREMパラソムニア
第18章 REM 睡眠行動異常症
第19章 その他のパラソムニア
第20章 小児期の不眠症
第21章 定型発達の小児における一次性睡眠問題
第22章 小児の神経障害と睡眠
第23章 睡眠と認知
第24章 睡眠と頭痛性疾患
第25章 睡眠とてんかん
第26章 睡眠と痛み
第27章 睡眠と精神疾患
第28章 睡眠に影響する薬物
第29章 睡眠と職場,そして運転
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書籍情報
- ISBN:9784621310069
- ページ数:360頁
- 書籍発行日:2024年10月
- 電子版発売日:2024年10月25日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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