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- 新興医学出版社
- 精神科「フライング診断」を乗り越える 鑑別と併存診断のケーススタディ
商品情報
内容
これから野戦病院でどんどん経験を積んでいこうという段階である。
さすがにそのころには、典型的であれば統合失調症やうつ病、あるいはパニック症などの
診断に困ることはないかもしれない。しかし、外来やリエゾンで往診した患者を前にして、
症状が複雑で定型的でない、診断を下すには情報が足りないなど、困惑することも少なくない。」
本書の「はじめに」で著者が記したこの言葉に、
若い精神科医だけでなく多くの医師がうなずき、同意するのではないだろうか。
そして、一度下した診断が経過をたどっていくうちに「違っていたか」と思い始めたり、
紹介されてきた患者の診断名に疑問を抱くといったことも、よく経験するだろう。
そんな “一見すると○○症と診断してしまうかもしれないが、
よく症状を見たり観察していくと△△症の診断になる” という51の症例を紹介した書籍である。
「少し臨床経験も積んできて、診断にも慣れが生じてしまっている…」
「時々やってくる複雑な症状を抱えた患者さんに対応できる自信を持ちたい!」
「めったに遭遇しない珍しい症例のことをよく知っておきたい!」
こんな思いをお持ちの方であれば、必ず役立つと1冊になっているはず。
ぜひご一読をお薦めしたい。
※既刊『ガイドラインになりリアル精神科薬物療法をガイドする』と併せて読めば
精神科臨床のさらなる理解につながります。
序文
はじめに
精神科を専攻して2,3 年経てば,そろそろ1 人で外来を担当させられることになるであろう。これから野戦病院でどんどん経験を積んでいこうという段階である。さすがにそのころには,典型的であれば統合失調症やうつ病,あるいはパニック症などの診断に困ることはないかもしれない。しかし,外来やリエゾンで往診した患者を前にして,症状が複雑で定型的でない,診断を下すには情報が足りないなど,困惑することも少なくない。あるいは前医から引き継いだ患者の診断名にしっくりこないこともよく経験する。経過をしばらく見ているうちにだんだんと正確な診断に近づくこともあれば,ますます診断が混乱してくることもある。
こんな時に鑑別診断の本を読むと,フローチャートのような図(ディシジョン・ツリーというらしい)が出てきて,順番に判断していけという。精神医学の習いたてならともかく,こんな単純なものは実際の診療場面ではとても役に立たない。複数の症状のある患者では,直線的な診断の進め方はできない。そもそもこのような本はなにかお説教くさく読んでいてもおもしろくない。ひとりの患者の診察にたっぷりと時間をかけることができ,さらに血液検査や脳画像検査がその場ですぐにオーダーできるような臨床場面であるのならば可能かもしれないが。また,すべての症状を系統的に聞いていくという構造化面接を行えば症状の見落としは少なくなるかもしれないが,研究場面以外で行うことは現実的ではない。このようなアプローチはそのうちAI にお任せすることになるであろう。
本書は精神科医になりたての医師を対象とした鑑別診断のための症例集である。興味深く読んでもらえるように,またわが国の精神科診療の現場に合うように意図して作成した。一部は自分の失敗体験の事例から,他は引き継いだ患者の診断に失礼ながら疑問を持った事例などをもとに作成している。ただしこれらは筆者が経験した複数の患者を合成したり細部を大幅に変更したりしているので,実際の症例ではない。したがって,診断に必要な情報は詳しいが,それ以外の情報は少ない。人工の症例なのでところどころ不自然なところがあるかもしれない。しかし,内科や救急科における初診患者のよくある鑑別診断のように,すべての情報を提示した上で診断を進めていき,最後に決定的な検査所見で診断が確定するという推理小説のような体裁にはなっていない。読者は本書の症例を読み続けることによって筆者がどのように診断し(あるときは誤診し)ていったかをなぞっていってもらいたい。症状の聞き取り方が足りない,客観的な情報をすぐに集めるべきであった,検査をすぐ行うべきであったなどという著者へのツッコミはむしろ歓迎したいところである。
また一見よくある症例のように見えて,経過や諸検査を経て最終的にごくまれな病名や病態にいたるというような,引っかけ問題も避けた。本書の中にはまれな診断名のつくものもあるが,これは知らなければいけないという意味ではなく,そういう病気のあることを知っていると臨床の面白みが深まることを期待したものである。
症例は外来や総合病院の救急で遭遇するものが多くなっている。これは筆者の経験の偏りということもあるが,精神科病棟の入院では診断は複数の医師やメディカルスタッフの参加するカンファレンスで検討されることになるであろう。またそのときは診断よりも治療が優先されることになるはずである。このような理由で本書での扱いは少なくなっている。
診断は最終的にはDSM‒5 やICD‒10 に基づいている。ただしいちいち症状のどれが診断基準のどこに相当するかまでは書いていない。特殊な症例ではいわゆる「従来診断」も付記している。一部には診断途中で確定しきれていないものもある。また併存症については臨床的に重要と思われるものを主として記載し,議論が複雑にならないようにした。そのため正確にはさらに併存症を付け加えてもよい症例もある。なお,併存症の概念は混乱しがちなので,項を変えて詳しく記述している。
ほとんどの精神疾患には診断特異的な症状や徴候はない(内科疾患のようにゴールドスタンダードとなるような検査所見や特異的な身体所見はない)ので,筆者の最終診断が必ず正解であるとも言い切れない。そもそも精神科の診断体系は固い基礎の上に作られたものではない。精神科が対象とする人の心の病がそんなに簡単に分類できるはずもない。病気を診断していくという作業とともに,人の心を理解して治療を進めていくという姿勢は精神科治療そのものだからである。
診断の手順や記載の仕方(主訴,現病歴,生活歴,家族歴,既往症,現症などの体裁)や診断の際に重要な面接法やマナーなどについても言及していない。これらについては他書を参照されたい。いやむしろ経験ある先輩の診察風景を見学することによって身につけてもらいたい。また,診断名をどのように患者に伝えるかについても言及していない。これは「病名告知」自体がすぐれて治療にかかわる問題だからである。
治療に関しては多くは簡単に目標を提示することにとどめた。正しい診断が行われさえすれば正しく治療され最終的に病気が治るというのが医学の原則である。しかし,現実の治療は個々の症例によって大きく異なっており,架空症例という限界があるので具体的な治療法までは記載していない。
なお本書では鑑別診断の始まりとして,紹介されてきた患者や引き継いだ患者の診断に疑問を持つという体裁で始まるものもある。しかしこれは必ずしも前医の診断が間違っていたというわけではない。たしかに「後医は名医」というように,後になるほど情報が増えていって正しい診断がしやすくなるのは事実である。前医の時とは患者をめぐる状況がまったく異なっていたり,あるいは患者が重要な症状を話していなかったりすることもある。自分自身も前医と同じようなことをしてしまっているという自戒を忘れないようにしたい。
2024 年10 月
仙波 純一
目次
はじめに
本書をお読みいただくにあたって
各項目のスタンプについて
テーマ1 抑うつ症との鑑別が必要な症例
1.うつ病が先行した双極症
2.うつ病に隠れていた社交不安症
3.うつ病と見誤った甲状腺機能低下症
4.高齢者のうつ病とされた低活動性せん妄
5.うつ病が前駆したパーキンソン病
6.高齢者のうつ病が先行したアルツハイマー型認知症
7.アパシーが前駆したアルツハイマー型認知症
8.季節性感情障害
テーマ2 統合失調症との鑑別が必要な症例
9.統合失調症のカタトニアと見誤った抗NMDA受容体脳炎
10.統合失調症とみられていた心的外傷後ストレス症(PTSD)
11.統合失調症と診断されていた解離症
12.単純型統合失調症とみなされていた自閉スペクトラム症
13.皮膚寄生虫妄想を示した躁病
14.昏迷状態を示した祈祷性精神病
15.敏感関係妄想
16.隠されていたfolie à duex(共有性精神病性障害)
テーマ3 不安症・強迫症・解離症・衝動制御症との鑑別が必要な症例
17.パニック症とみられていた社交不安症
18.パニック症とみられていた解離症
19.不安症と見誤った前頭部髄膜腫
20.強迫症から統合失調症への発展
21.高齢者の身体症状症が前駆したレビー小体型認知症
22.心因性発熱とみられていた意図的な症状作成
23.ためこみ症
24.間欠爆発症
25.全生活史健忘
テーマ4 摂食と睡眠・覚醒の障害との鑑別が必要な症例
26.摂食症の背後にある自閉スペクトラム症
27.摂食症とされていたオルトレキシア
28.うつ病が疑われた概日リズム睡眠・覚醒障害
29.非定型うつ病とされていた特発性過眠症
30.睡眠関連摂食障害(SRED)と摂食症
31.レム睡眠行動障害とみられていたてんかん発作後もうろう状態
テーマ5 パーソナリティ症との鑑別が必要な症例
32.ボーダーラインパーソナリティ症と見誤った双極症
33.適応反応性の背後にある回避性パーソナリティ症
34.自己中心的な言動で周囲を困らせる認知症患者
テーマ6 神経発達症との鑑別が必要な症例
35.うつ病になって受診した自閉スペクトラム症
36.繰り返す気分変動から双極症と見誤ったADHD
37.過剰に落ち着かないのをADHDと見誤った不安症
38.ADHDとされているがボーダーラインパーソナリティ症?
39.被害関係妄想を呈した成人ADHD
テーマ7 脳器質疾患による精神症状との鑑別が必要な症例
40.「ヒステリー発作」とみられていた前頭葉てんかん
41.救急受診患者の発作はてんかん発作か変換症か?
42.シャルル・ボネ症候群からレビー小体型認知症への移行
43.成人になって診断された結節性硬化症の精神症状
44.意識障害の診断から高齢者のカタトニアへ
45.アルコール使用症から生じたマルキアファーバ・ビミャーミ病
テーマ8 薬物の副作用と精神疾患の鑑別が必要な症例
46.下半身の落ち着きのなさはレストレスレッグス症候群,それともアカシジア?
47.じっとしていられないのは統合失調症の精神症状,それとも遅発性ジスキネジア?
48.向精神薬によるメージュ症候群
49.うつ病の悪化あるいは抗うつ薬による賦活症候群?
50.せん妄と見誤られた薬剤性の過眠
51.てんかん患者に見られた体感異常症
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書籍情報
- ISBN:9784880029368
- ページ数:288頁
- 書籍発行日:2024年12月
- 電子版発売日:2024年12月6日
- 判:A5変型
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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