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高齢腎不全患者のための保存的腎臓療法
商品情報
内容
序文
序
日本人の平均寿命の延伸が続いている。2021年度末には女性87.7歳,男性81.6歳となった。1955年当時は,女性67.7歳,男性63.5歳であり,過去65年間に日本人の寿命は20年伸びたことになる。長寿の達成は,保健・医療の目指す目標でもあり,長寿化は慶賀すべき事象である。しかし光は陰を生み出す。長寿化に付随して,悪性腫瘍,認知症,心不全,フレイル等の疾患が増加し,高齢者はこれらの疾患をしばしば重複して負うことを余儀なくされる。
腎不全も高齢化が引き起こす疾病負荷のひとつである。わが国の維持透析患者数は増加の一途をたどり,約34 万人に上る。増加の主因は,糖尿病を代表とする生活習慣病の重症化と高齢化の進展である。透析導入年齢も高齢化しており,最多年齢層は75〜80歳である。透析患者の約70%が65歳以上,75〜80歳が40%,80歳以上が25%に上る。腎臓病診療は高齢者医療そのものである。
欧州,北米を中心として,腎代替療法(renal replacement therapy:RRT)を選択しない治療選択肢としてconservative kidney management(CKM:保存的腎臓療法)が確立されている。保存的腎臓療法は,腎不全に伴う合併症と,身体的,心理・精神的,社会的苦痛を軽減,解除することを目的としている。
高齢腎臓病患者は循環器疾患,脳血管障害,認知機能障害,フレイル等の合併症を有することが通例であり,悪性腫瘍合併率も増加している。腎代替療法としてわが国では90%以上において血液透析が選択される。透析は体外循環であり循環動態に大きな負荷を与える。そのため合併症を有する患者では,導入困難,見合わせを余儀なくされる場合も少なくない。また,定期的な通院自体が高齢患者,家族,介護者に大きな負荷となる。後期高齢者では,エンドオブライフ・ケアの一環として透析導入・見合わせを捉える必要がある。
腎不全に際して生命維持のために,透析療法が必須であることは自明である。しかしながら,全身状態不良により体外循環に忍容性を持たない場合だけでなく,患者の意思・尊厳を尊重し,人生の最終段階における医療に準じ,患者・家族の意思確認の上で,見合わせの決断を迫られる局面は少なくない。各種合併症を有する高齢患者において,透析導入によるADL,QOL,入院期間を含めた包括的な予後を予測することは困難である。予後予測の科学的なエビデンス,社会的なコンセンサスが不在ななかで,患者本人,家族,医療チームの共同意思決定(shared decisionmaking:SDM)によって,導入・見合わせ・終了が決定されているのが実情であった。決断を迫られる医療者への精神的な負荷も大きい。見合わせとなった場合の,保存的な緩和医療のあり方も,標準的なものは確立されていなかった。そのため,高齢腎不全患者への科学的エビデンスに基づく意思決定プロセスおよび,緩和医療の方法論の構築は喫緊の課題であった。
2019年AMED 長寿科学研究開発事業として「非がん高齢者の在宅における緩和医療の指針に関する研究」が公募された。日本腎臓学会,日本透析医学会が中心となり,緩和医療,生命倫理の専門家が加わり,「高齢腎不全患者に対する腎代替療法の開始/見合わせの意思決定プロセスと最適な緩和医療・ケアの構築」研究事業が採択された。
本書は3年間にわたる研究の成果をとりまとめたものである。
AMED 長寿科学研究開発事業プログラムスーパーバイザー飯島 節先生,プログラムオフィサー小久保 学先生には一貫して大所高所よりご指導いただいた。分担研究者,研究協力者各位の献身的なご尽力,査読の労をおとりいただいた関連学会,団体,AMED 事務局の御支援に深甚の謝意を表したい。昼夜を分かたずご尽力いただいた研究班事務局の辻田佐和子氏,藤井亜紗美氏にも心より御礼申しあげたい。
本書がわが国における保存的腎臓療法の普及の一助となり,高齢腎不全患者の良質な診療・ケアの実現に貢献できることを願っている。
2022年3月
日本医療研究開発機構(AMED)長寿科学研究開発事業「高齢腎不全患者に対する腎代替療法の開始/見合わせの意思決定プロセスと最適な緩和医療・ケアの構築」研究代表
一般社団法人 日本腎臓学会 理事長
柏原直樹
目次
第1章 高齢腎不全患者に対する保存的腎臓療法(CKM)
1.CKMの必要性
2.CKMの国際状況
3.高齢腎不全医療の現状と課題
1)腎臓内科医・透析医療からみた現状と課題
2)緩和ケアからみた現状と課題
4.透析の開始と継続に関する意思決定プロセス
第2章 高齢腎不全患者に対する共同意思決定(SDM)のあり方
1.SDMの考え方
2.カンファレンスの方法―CKMの選択を検討する事例を題材に
3.療法選択―腹膜透析を中心に
4.予後予測:予後予測法の活用
5.SDMの実際
1)「維持透析をやめたい」と患者が言うとき
2)認知機能が低下した患者のための意思決定支援
3)多職種連携によるSDMのあり方―維持透析の終了・看取りの症例を題材に
第3章 高齢腎不全患者に対するCKMのあり方
1.高齢腎不全患者の特徴,臨床像
2.高齢腎不全患者のCKMの概要
3.高齢腎不全患者の全身管理
1)電解質管理
2)水・体液管理,心不全
3)認知症・脳血管疾患
4)サルコペニア,フレイル
5)貧血管理
第4章 緩和ケア
1.緩和ケアの総論
2.緩和ケアのニーズ,アセスメント
3.身体的苦痛の緩和
1)疼痛
2)倦怠感と睡眠障害
3)尿毒症性掻痒症
4)悪心嘔吐
5)レストレスレッグス症候群
6)呼吸困難
7)便秘
8)浮腫
4.精神・心理的苦痛への対応:抑うつ,不安,せん妄など
5.スピリチュアルペインとスピリチュアルケア
6.CKM患者と家族への緩和ケアにおける心理社会的支援
7.家族等への対応
8.ライフスタイルとエンドオブライフケアを考える
第5章 長寿時代の腎不全診療の倫理と法的諸課題
1.エンドオブライフ・ケアの倫理
1)CKMの医療倫理―その人らしく最期まで生きることを支えるための倫理的視点
2)アドバンス・ケア・プランニング―エンドオブライフの意思決定支援
2.臨床倫理コンサルテーション
3.法的諸課題
第6章 多職種連携によるCKM
1.腎臓病療養指導士の役割
2.在宅におけるCKM
1)在宅におけるCKMのあり方
2)高齢腎不全患者における透析見送り/終了,緩和医療の実態
3.看護師の役割
第7章 公的支援,ソーシャルサポート
障害認定制度と医療費助成,介護保険
付録(漫画による導入部分)
1.カンファレンスの方法(2章2対応)
2.「維持透析をやめたい」と患者が言うとき(2章5-1)対応)
3.認知機能が低下した患者のための意思決定支援(2章5-2)対応)
4.多職種連携によるSDMのありかた(2章5-3)対応)
索引
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書籍情報
- ISBN:9784885637360
- ページ数:256頁
- 書籍発行日:2022年6月
- 電子版発売日:2025年1月8日
- 判:A4変型
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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