特集にあたって

障害児入所施設で働く看護師が筆者に「学校に行っているときには，私たちが見たことのないこどもの顔がある」と教えてくれたことがあります。保育所や学校などの集団のなかで過ごすこどもたちは，友達や家族以外の大人と出会い，緊張感ももちながら，こどもそれぞれが遊んだり，勉強したり，ときには友達とけんかして悔しい思いをしたりするなど，さまざまな感情を経験しています。そのような人とのかかわりのなかで得られる感情を通して，こどものなかに社会の集団に所属しているという感覚が芽生えます。

しかし，一部のこどもたちにとっては，同年代と過ごすことを制限されている状況にあり，保育所や学校などに行くことが「当たり前」ではないことを，筆者は医療の現場から感じていました。障害や疾病をもち継続した医療が必要なこどもたちも，ほかのこどもたちと「共に育つこと」が大切であると多くの人が感じているにもかかわらず，その環境をつくるのは非常に大変で，困難があるのが現状です。

この現状に対して，2021年に「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が施行されました。このなかの第３条２に「医療的ケア児が医療的ケア児でない児童と共に教育を受けられるよう最大限に配慮しつつ適切に教育に係る支援が行われる」必要があると明記されたことから，急速に保育所や幼稚園，学校などでの医療的ケア児の受け入れが進められています。この法律の施行前に比べ，特別支援学級を含む小学校・中学校・高等学校に在籍する医療的ケア児は約1.5倍になり，ケアを実施する看護職員数2,000人を超えています1）。また，約４割の自治体で保育所での医療的ケア児の受け入れがされ2），保育所で働く看護職は年々増加しています。

障害や病気があっても，日常的に医療を必要としていても，こどもがこどものなかで育つために，看護が必要とされています。単純に看護師が配置されていればインクルージョンの環境がつくられるわけではありません。看護師の確保の問題だけでなく，看護師の雇用が保障されていなかったり，医療と異なる施設のなかでの看護師の専門性の向上が難しいなどの課題も生じています。

国連教育科学文化機関（UNESCO）はインクルージョンを「多様性に対する良い方法を見つけるための終わりなき探求」３） とし，プロセスであるとしています。インクルーシブ教育・保育は，配慮を必要とするこどもが従来の教育・保育の方法に適応することではなく，すべてのこどもたちが共に学ぶ方法を考え，新たな学び・育ちの場を創出することとされています。

本特集は，その創出に尽力している方々に日々の実践をご紹介いただきました。どの方も，たくさんの創意工夫で困難を解決し，そして新たに生じる課題について多職種・他機関と共に取り組みを続けています。本特集が，読者の方が新たなインクルージョンの場を創出するための一助となって，こどもがこどものなかで育つ場が広がることを願っています。

●文献●

1） 文部科学省：令和５年度学校における医療的ケアに関する実態調査結果（概要）．2024．

https://www.mext.go.jp/content/20240623-mxt_tokubetu01-000032436_2.pdf（2024年12月13日最終アクセス）

2） 厚生労働省子ども家庭局保育課：保育所等での医療的ケア児の支援に関するガイドラインについて．2024．

https://www.mhlw.go.jp/content/12204500/000995731.pdf（2024年12月13日最終アクセス）

3） United Nations Educational Schientificand Cultureal Organization：Guidelines for inclusion：Ensuring access to education for all. 2005，p 14．

https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000140224（2024年12月24日最終アクセス）

済生会横浜市東部病院人材開発センター小児プライマリケア認定看護師教育課程／小児看護専門看護師 鈴木千琴
Suzuki Chikoto