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- 医学のあゆみ292巻4号 生物学的相分離と計測技術
商品情報
内容
・アルツハイマー病抗体薬の開発はなぜ難航しているのか? 生物学的相分離をもとに,細胞生物学と分子生物学の狭間で起こる現象を紐解くことで,これらの疑問をうまく説明できることも多い.
・高分解能を追求する開発から一歩進んで,柔軟で動的な集合体をそのまま捉える新たな技術が求められる時代となった.本特集では,最先端の計測技術や,医療や創薬における新しいアプローチを解説する.
序文
はじめに
液-液相分離という溶液化学の古めかしい専門用語が生命科学の一流誌をにぎわすようになっている.液-液相分離とは要するに水と油が分かれる現象で,ドレッシングがわかりやすい.ドレッシングを振ると水の中に油の粒ができ,置いておくと時間とともに融合していく様子を思い浮かべることができるであろう.それと同じような現象が細胞内にも生じているという.細胞内でタンパク質やRNA が液-液相分離して形成された粒のことを液滴(ドロプレット)という.細胞内にあるドロプレットは,遺伝子の転写や翻訳,タンパク質のフォールディング,シグナル伝達,品質管理,代謝の反応の区画化や,物質の貯蔵や隔離など,生体物質の時空間的な制御をする場として機能していることが明らかにされてきている.このような細胞内に起こる相分離は,単純な分子による相分離や相転移とは区別し,生物学的相分離とよんだほうがいいかもしれない.
生物学的相分離を仮定して細胞内の現象を見直すと,分子だけではわかりにくい現象をうまく説明できることが多い.細胞内にはそもそも高濃度のタンパク質が必要なのか? 代謝のような複雑な酵素の連続反応がどのような仕組みで進むのか? タンパク質のリン酸化がどのようにシグナル伝達に関連するのか? ATP は細胞内でなぜ高濃度に存在するのか? ヒトのタンパク質の4 割以上は,なぜ立体構造を形成しない領域を持っているのか? そのような,いわゆる天然変性タンパク質はいったい何をしているのか? アルツハイマー病の抗体薬の開発がなぜ難航しているのか?
このような疑問に答えるためには,細胞生物学と分子生物学の間のスケールを理解するための相分離生物学が不可欠である.医療や創薬の分野でも,すでに神経変性疾患や抗がん剤などに対して新しい見方が提案されている.
今回の特集では,生物学的相分離を計測する先進技術と,それによって浮かび上がる新たな生命現象を研究する第一線の若手研究者に執筆を依頼した.これまでのタンパク質の計測は,分解能を高める方向に進歩してきたが,これからは柔らかい動的な集合体をそのまま計測できるような,新たなコンセプトを持つ計測技術が必要になる.
白木賢太郎
筑波大学数理物質系
目次
特集 生物学的相分離と計測技術
はじめに
白木賢太郎
ラマン顕微鏡を用いた相分離液滴のラベルフリー濃度定量
澁谷 蓮・他
シングルセル質量分析イメージングによる細胞の化学情報の可視化
大塚洋一
高速AFMを用いた分子集合体マニピュレーション
梅田健一
icroRNAによる遺伝子発現抑制と相分離
李 沛涵・他
凝集と相分離に基づく相分離工学の幕開け
延山知弘・吉田桃也
タンパク質液滴からの線維形成の速度論的解析法
福山真央
核内構造体によるゲノム機能制御 ─ 近接ラベリング法を用いて
栗原美寿々
O-ClickFCを用いた脂質代謝動態の遺伝子スクリーニング
土谷正樹
TOPICS
細菌学・ウイルス学
レトロウイルスによる胎盤形成:レトロウイルスが持つもうひとつの生き残り戦略
久保嘉直
社会医学
健康の社会的決定要因と医学
近藤尚己
連載
自己指向性免疫学の新展開 ─ 生体防御における自己認識の功罪22
LAG-3によるself-pMHCⅡ認識を起点とした恒常性維持機構の解明
丸橋拓海
細胞を用いた再生医療の現状と今後の展望 ─ 臨床への展開❽
間葉系幹細胞の磁気ターゲティングによる関節軟骨再生治療の開発
亀井直輔・他
FORUM
戦争と医学・医療10
戦争と看護 ─ 史実と体験から想起する
川嶋みどり
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書籍情報
- ISBN:9784006029204
- ページ数:70頁
- 書籍発行日:2025年1月
- 電子版発売日:2025年1月23日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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