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- Cブックス 右手にメスを 左手には筆を
商品情報
内容
「特別な才能がなくとも、努力を惜しまなければ高い目標も達成できる」と著者は語る。医師として目標を持ち、生きていくことは、決して楽なものではない。時につらく、時に厳しい現実と向き合うことだろう。
本書は、若くして臨床留学した著者が、これまでの経験と医師として身に着けるべきスキルのすべてを語る。
序文
Introduction
医師として、患者さんの訴えを聞き、触診し、聴診器で心臓の鼓動を聴き、そしてメスを握って手術をおこなう。これらの臨床行為を通じて患者さんの治療に携わることは、医師としての基本的かつ重要な役割、つまり使命そのものを十分に果たしています。それだけでも、医師としての責任を全うしていると言えるでしょう。しかし、時には筆を持ち、思索を深め、論文に一筆を興ずることも医師の役割の一つだと思います。たとえ一本の論文であっても、それによって疾患や病態に対する理解が深まり、その結果として聴診器やメスを持つその手に一層の輝きが加わります。すなわち、日常の臨床からヒントを得て論文を書くことは、転じて自身の臨床能力を飛躍的に向上させると私は信じています。つまり、日常の臨床活動と学術活動は切り離されたものではなく、むしろ密接に絡み合い、互いに補完し合う関係にあるのです。
この関係性を象徴するものとして私は、「右手にメス、左手に筆」と表現してみました。これは言い換えれば、「利き手で臨床活動、もう片方の手で学術活動」という意味を込めています。最近では、この臨床活動と学術活動の両立は、医師のみならず他の医療専門職の間でも関心を集めています。特に外科領域における「Academic Surgeon」という考え方はその一例です。外科系の学会でも、文武両道(文:研究、武:臨床)の道を歩む医師・外科医を育成する重要性が強調されています。これは、外科医は単に技術的に手術をおこなうだけでなく、その手技を科学的に評価し、手術成績をデータに基づいて裏付けていくことが大切だという表れだと思います。そして、そのデータに基づく評価をもとに、手術手技をさらに発展させていく姿勢が求められ、手術は一度成功すれば終わりというものではなく、常にデータに基づいた見直しと改善が必要で、この過程を通じて外科医はより精密で効果的な治療・手術を患者さんに提供できるようになります。また、外科医個人としても業績を積み上げることは、自らのキャリアを形成し、医師としての経験、知識、技術をさらに向上させるとともに、より多くの患者さんを救うための道を切り開くことにもつながります。
そして時には、左手に持つ筆は単に文章を書くための道具としてだけではなく、対象を描写するための道具にもなり得ます。外科医がおこなう手術は、頭の中で、あるいは紙の上で、筆を使って構築したイメージを現実の手術台でメスを使って体現する行為です。これは小学校の図画工作や、中学・高校での美術の授業、さらにはアートそのものに通じるものがあると考えます。私自身、祖父が美術の先生であり、母が書道家、父が建築士という家庭環境で育ったため、美術やアートは幼少期から常に身近な存在でした。祖父とはよく新聞の広告紙の裏側に一緒に絵を描き、祖父の部屋の壁には祖父が描いた絵画が飾られていました。母は書道教室や小中学校、大学で書道の授業で教鞭をとっていて私自身も書道を習い、母親の書道部屋にはたくさんの書が飾られていました。父親にはよく週末に建設現場に連れて行ってもらい、いろいろと教えられ、父の部屋には製図用紙が製図台に置かれていました。幼い頃によく美術館に連れて行ってもらった経験は、今でも私にとって大切な思い出です。その影響もあり、現在でもアートや美術館巡りを心から楽しんでいます。アートの歴史や考え方に触れ、美術鑑賞をする時間は、私にとって特別で、心が豊かになるひとときです。
そして医師として、特に外科医として働く中で、「外科手術とアート」というテーマをよく目にするのは、これら二つの分野にいくつかの共通点があるからだと考えています。
まず、外科手術とアートはともに「精密な技術の追求」が求められます。外科手術はミリ単位の正確性が要求され、安全な手術をおこなうためにはその技術をいかに早く習得・向上させて、それを持続することができるのかが重要です。一方、アートにおいても、細部へのこだわりや精密さが作品の質を高め、その分、微細な技術が求められます(時には大胆なこともありますが)。この点で、外科医とアーティストは共通の認識、そして精神を持っているといえます。例えば、私が研修医・フェロー時代に取り組んだ手技・手術の一つに、冠動脈吻合があります。8-0 というとても細い針糸を使って、細かい血管を繋ぐ作業は、まさにアートのような繊細さと集中力が求められます。
次に、「日々の練習と実践;経験の積み重ね」も重要です。外科手術においては、技術の向上には毎日の手技の練習と手術室での実践経験が不可欠であり、その練習と実践によって技術が徐々に磨かれていきます。同様に、アートにおいても、技術や表現力の向上には継続的な練習と制作経験が必要であり、作品を重ねることでスキルが向上します。これらのプロセスは、どちらも職人技とも言える粘り強い努力を必要とします。私が心臓外科医として多くのトレーニングを積んできた背景には、まさにこの「職人気質」を強く意識しています。職人のような洗練された技術を磨くこと、そして外科医としてその技術を日々の手術に応用することが、患者さんの命を救うための最大の武器となるのです。
また、「創造性と問題解決能力」も共通しています。外科手術では、頭の中で構築された立体的なイメージをもとに対象を操作・修復し、手術によって修復された機能美・形態美を兼ね揃えた作品(臓器)を完成させます。また手術中に予期せぬ問題が発生した際には、それまでの経験や知識に基づいた対応能力が求められます。アートにおいても、創造的な発想と独自の表現方法で作品を作り上げ、これまでの時代の流れから新しいアイデアやアプローチを柔軟に探求することが重要です。このように、どちらも創造的なプロセスを通じて問題を解決し、手術や作品を完成させるという点で共通しています。外科手術において、特に難しい手術をおこなう際には、自分にとって新しい技術や方法を試すことが必要となり、その過程でも創造性が求められる場面が少なくありません。
最後に、これは独自の視点だと思いますが、「多視点での考え方」が挙げられます。外科手術では手術室において外科医だけでなく、麻酔科医、症例にかかわる内科医、看護師、臨床工学技士などさまざまな視点から手術が構成されます。外科医はこれらの視点を意識して手術を総合的に管理し、最終的には手術を成功に導く必要があり、そのためには鋭い観察力と洞察力が必要だと考えます。一方アートにおいても、多様な視点から物事を捉え、それらを表現することで豊かな意味を持つ作品が生まれます。例えば、セザンヌは異なる角度から対象物を観察し、多視点を画面上で融合させる手法を確立しました。その後ピカソはキュビスムの理論を通じて、物体をさらに多面的に分解・再構築し、多視点からの新しい表現を追求しました。
このように、まず対象を「造る」という点で、精緻な技術の追求、その技術の向上、経験の積み重ね、創造的な発想といった複数の共通項を、外科手術とアートは持っています。そして最後に述べた「多視点での考え方」では、外科医は日常臨床や手術において、診療に携わる多くの職種の視点を意識しチームワークを発揮して、患者さんにとって最良の結果を導き出す必要があります。
本書では、右手に持つメスを臨床活動、左手に持つ筆を学術活動と見立て、日常臨床における臨床と研究のバランスを考察します。特に、学術活動が、臨床医の本職である臨床活動にどのような影響があり、それをどのように活用するのかを探求します。次に、私自身の海外臨床留学の経験を通して、右手と左手のバランスの重要性、そして特に重要な場面で、右手と左手を上手に使いこなす方法について詳しく解説します。そして最後に、外科医がアートの考え方をどのように日常臨床や手術そのものに組み込むことができるかについて考察します。ここでは、アートの考え方が手術技術や周術期治療、そして外科医としての心構えにどのように役立つのかを詳しく分析し、外科医としての新たな視点を考えていけたらと思います。
Fumiya Yoneyama
目次
【第1章 文武両道を目指して ―右手にメスを、左手には筆を―】
臨床活動
0 バランスを保つ
1 内科学はすべての基本 ─初期研修中、全力で取り組む価値あり─
2 若いうちは焦る必要はない
3 初期研修中に心がけること ─信頼獲得とプレゼンテーション─
4 To Do Listでまず整理する
5 ベッドサイドでの観察力、洞察力、第六感そして多視点
6 ロールモデルをこまめに設定する
7 循環器学の面白さ ─シンプル、そして論理的─
8 教育は常に右手(臨床)の中に
学術活動 ─論文執筆の重要性─
0 論文のネタは日々の臨床から、転じて臨床能力の向上につながる
1 まずは上司と一緒に論文を書く
2 「論文→臨床」 ─論文を臨床に組み込む─
3 仮説の確信も日々の臨床から
4 誰でもすぐに書ける、論文の書き方
5 学会発表と論文執筆について
6 シェーマ・イラストの描き方と伝え方
【第2章 海外臨床留学 ―情報と戦友―】
目標設定と自己投資
0 海外臨床実習に向けて
1 英語学習の動機、目標の設定 ─因果関係を明らかにする─
2 同志とともに勉強:USMLE勉強会
3 いざアメリカでの病院実習 ─人生の岐路と目標にいくつかの起爆剤を設定する─
留学準備 ─自分がコントロール可能なこと─
0 「情報収集」と「自己プロデュース」
1 情報収集:チームWADA
2 情報収集:病院見学
3 わたしの病院見学戦略 ─兵は拙速を聞くも、未だ巧久しきを睹ざるなり─
4 「見せる」ことと、「見せられない」こと
5 「自分が何をしたいか」よりも「自分に何が求められているか」を重視したほうが、時にうまくいく
6 興味・関心の幅を広げ、自分の可能性を狭めない
留学後 ─いかにして生き残るか─
1 いざ留学開始
2 小児心臓外科という世界の現実と特殊性
3 自分の武器を磨いて活かす ─己を知り彼を知れば百戦殆うからず─
4 自分の武器の強化のため、苦労することはスペシャリストに任せる
5 新キャンパスで、ひとりで、心臓外科を立ち上げろ ─初期研修での教訓を活かす─
【第3章 手術とアート ─Artisan and Artist─】
常に手技の練習をしやすい環境を整えておく ─手術は手順─
0 外科手術の向上
1 まず練習環境を整える ─日々の生活に運針を溶け込ませる─
2 具体的なトレーニング方法
3 外科医が外科医である理由、職人らしく生きる
4 手術は手順 ─技術のその先に─
5 イメージトレーニング
6 良いメンターに出会う
手術手技大会への挑戦 ─Challengers’ Live Demonstrations─
1 若手心臓外科医の登竜門 ─Challengers’ Live Demonstrations─
2 外科とスポーツ ─練習に裏打ちされる本番─
3 いざ参る、Challengers’ Live Demonstrations決勝戦!
外科医のためのアート理論
1 手術記録あらため「手術ノート」の作成
2 美術史から学ぶ表現方法
3 セザンヌから学ぶ、多視点とは
4 一枚の絵画:一枚の手術ノートを作成する
5 まず「シンメトリー」の考え方を、実際の手術で意識する
6 そして、「多視点」の考え方を実際の手術で意識する
〈Column〉
・“右手にメス、左手にはYouTubeを” 北原大翔
・“Footsteps” 平松祐司
・“A君との出会い” 米山文弥
・“Challengers’ Live Demonstrationsを今まで主宰して” 夜久 均
・“伝えるチカラ” 末次文祥
・About the Author
・Conclusion
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書籍情報
- ISBN:9784840487665
- ページ数:240頁
- 書籍発行日:2025年2月
- 電子版発売日:2025年1月30日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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