序文

本稿では，癌治療におけるバイオマーカーの最新情報を各分野のスペシャリストに執筆いただきました。バイオマーカーには，新たに発生するがんを予測し早期発見につなげることや，根治術後の再発リスクを予測し術後補助療法の必要性の決定，さらに治療中の病勢評価などさまざまな役割があります。それらは，適切な治療薬や治療方法の提供，そして不必要な治療を避けることにつながり，医療経済的にも非常に有益なものです。泌尿器領域においては，前立腺癌において畠山真吾先生に，自身のグループで開発したS2,3PSA％検査を中心に，実際の使用方法や意義について詳細に解説いただきました。尿路上皮癌については，猪口淳一先生に現状使用されているバイオマーカーから，自身で研究している活性型PKCα，さらにctDNAへの期待について解説いただきました。腎細胞癌については北野滋久先生に日常診療で使用できる簡易なものから，遺伝子発現・変異について記載いただきました。

本特集のもう1つの目的は，泌尿器癌以外の癌腫の現状を理解することで，われわれのこれからのバイオマーカー研究を発展させることです。そのために，それぞれの分野のトップランナーの先生に解説いただきました。肺癌については宮本信吾先生，大腸癌については三島沙織先生，癌腫を問わず全体的なバイオマーカー研究について橋本直佳・吉野孝之先生，また最新研究の1つとして植田幸嗣先生に細胞外小胞を利用したリキッドバイオプシーについて詳細に記載いただきました。遺伝子レベルでの治療方法の階層化，ctDNAを用いた個別医療など泌尿器癌バイオマーカー開発に非常に参考になる情報が本書に詰まっております。

読者の皆様の診療と研究に役立つことを願い，また，執筆いただきました著者の皆様に感謝いたします。

東京女子医科大学泌尿器科
高木　敏男