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抗HIV/エイズ薬の考え方、使い方、そして飲み方 ver.2

岩田 健太郎 (著)

中外医学社

  • ISBN : 9784498017832
  • ページ数 : 155頁
  • 書籍発行日 : 2019年4月
  • 電子版発売日 : 2019年4月10日
  • 判 : A5判
  • 種別 : eBook版 → 詳細はこちら
販売価格 (ダウンロード販売)
¥2,860 (税込)
ポイント : 52 pt (2%)

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商品情報

「元気なHIV感染者」「高齢者のHIV」が”普通”になりつつある現在、『 抗菌薬の考え方、使い方』のスピンオフ書籍が8年ぶりのアップデート!

HIV/エイズの診療は治療薬の進歩を背景に標準化され、予後も改善されています。しかしその一方で新規患者は増え続け、また予後改善に伴う患者の高齢化という新たな問題も浮上しています。本書では、旧版の内容をアップデートし、増え続ける「元気なHIV患者」に接する機会があるかもしれないプライマリ・ケア医、ナース、薬剤師、そして当事者である患者さんにとって必要な情報をリーダブルにまとめました。

■ 序文

抗HIV/エイズ薬の考え方、使い方、そして飲み方 ver.2 「はじめに」

「抗菌薬の考え方,使い方ver.4」が完成し,やれやれと思っているとき,中外医学社の岩松宏典さんに,「つぎは,HIVですね」と言われて,ぼくはそうですねえ,と生返事をしたのでした.

正直,HIVはもう終わったなあ,と思っていたので,いまいち気分が乗らなかったのです.

拙著「抗HIV/エイズ薬の考え方,使い方,そして飲み方」が出版されたのは2011年.この段階で,ART(抗レトロウイルス療法)はまあ,完成されていたといってよいでしょう.その後も新しい薬が次々に登場しましたが,それはすべて完成されたARTのマイナー・チェンジと言ってもよく,とくに「原則」や「世界観(パラダイム)」が変わったわけではありません.

同年には「ある日,ワタルさんはエイズになった.」という,まあ,一種啓発のための絵本も作りました(絵・土井由紀子).2013年には一般診療,救急外来などでのコモンな問題を扱った「HIV/AIDS患者のトラブルシューティングとプライマリ・ケア」という本も仲間と作りました(南山堂).さらに,2015年にはPaul Sax らの「HIV Essentials」を訳出しました(邦題「本質のHIV」メディカル・サイエンス・インターナショナル).また,ハリソン内科学とシュロスバーグの臨床感染症学の監訳,翻訳も行い,とくに「ハリソン」のHIV のセクションは自分ですべて訳出しました.70ページ以上の大セクションで往生したものです.とにかく,もうHIVについてこれ以上アウトプットは必要なかろう,という気分がぼくの中であったのです.

繰り返しますが,2011年の段階で,ARTはもう完成しているのです.いや,そうではないですね.1990年代,まだARTがHAART(ハート)と呼ばれていた時点で,そのコンセプトは完成していました.

HIV感染者の予後は劇的に良くなり,入院患者は激減し,患者は何年も外来に通ってくる馴染みの患者となり,その余命はHIV感染がない場合とほぼ同等と見積もられています(Trickey A, May MT, Vehreschild J‒J, Obel N, Gill MJ, Crane HM, et al.Survival of HIV‒positive patients starting antiretroviral therapy between 1996 and 2013: acollaborative analysis of cohort studies. The Lancet HIV. 2017 Aug 1; 4(8): e349‒56).

日本の感染症診療はわりと(少しはましになりましたが)悲惨です.予防接種や抗菌薬適正使用については,まだまだ申し上げねばならないことがたくさんあります.学会ガイドラインですら間違っていることが珍しくもありません.

一方,HIV/エイズに関していえば,日本の診療レベルは概ね標準化されているといってよいと思います.抗菌薬と異なり,ARTを扱う医療者は非常に限定的です.その多くは主要な臨床試験やガイドラインの内容を把握しています.また,国内でも質の高い「手引き」が定期的に改定され,そのコンテンツは米国やヨーロッパのガイドラインと上手にハーモナイズされています(http://www.hivjp.org/guidebook/).デタラメな抗菌薬の使用は日常茶飯事ですが,まったくデタラメなARTというのはめったにお目にかかることはありません.

おまけに,治療薬の進歩のおかげで,以前は気をつけねばならなかった薬の副作用や相互作用のリスクもだんだん目減りしてきました.かつては難解極まりないと思われたARTは,現在ではさして難しくはない治療です.ARTのハードルは着実に下がっているのです.医療者にとっても,患者にとっても.

HIVはもういいよ,とぼくが思ったのは,まあ,そうした事情のためでした.岩松さんには悪いけど,ぼくは他にもたくさんやることあるんだよねー.まあ,そんなふうに考えていたのです.

が,ぼくは甘かった.

きっかけは,些細な偶然でした.

2018年12月,ぼくは大阪で開催されていた日本エイズ学会に参加していました.学会はいつもの会議場でやっていたのですが,大阪市中央公会堂で仲野徹先生と久坂部羊先生の興味深いトークショーがあることを知り,ぼくはこれを聴きに行ったのでした.

ちょっと早くついたので,三階のパネル展示を見ることにしました.大正7年(1918年)にできたという公会堂は,風情があってとても居心地のよい建物です.

そこで展示されていたのが,メモリアルキルトと「Legends of AIDS Community」という,これまでエイズ問題に取り組んでいき,そして鬼籍に入った人物たちの紹介展示でした.

メモリアルキルトと言っても若い人たちはご存じないかもしれません(やれやれ,「若い人たち」とかいう歳になっちまったよ).この話は本文にちょこっと出てきます(本文2ページ).

で,数十年ぶりにこのメモリアルキルトを見て,ぼくは昔の「初心」をちょっと思い出しました.

そして,同時に思い出したのです.まだまだ「HIVはもういいよ」とか,調子のいいこと言ってる場合じゃないぞ,と.

ARTはほぼほぼ完成されたHIV感染治療法で,ほとんどの患者でうまくいきます.では,現在の日本で何がうまくいっていないのか.

一つは,新規感染発生予防です.本稿執筆時点では,日本でみつかる新規HIV感染者は毎年1,400人前後と横ばい状態が続いています.

新規患者のコンスタントな増加.HIV感染者の予後は非常によく,長生きする時代です.要するに,これは総患者数の純増を意味しています.

これが,もう一つの問題を生みます.純増した患者たちの高齢化です.

ARTがもたらした劇的な予後の改善のおかげで,患者は死ななくなりました.よって,彼らは高齢化します.糖尿病や高血圧を合併するようになり,がんを発症するようになり,血液透析を必要とするようになり,長期療養や在宅診療を必要とするようになります.

現在は,とんがって先鋭的なエイズ拠点病院で,やはりとんがって先鋭的な専門家がARTを提供していればよいわけですが,こうしたエッジの効いた拠点病院で包括的な患者ケアを継続することはできなくなります.元気なHIV感染者は数を増し,高齢化してコミュニティーに広がるようになります.

そのとき,彼らはARTを止めることはできません.ARTはHIV感染の治療効果抜群ですが,「治癒」はもたらさないからです.

現在でも,HIV感染者に対するパニックと拒否反応は普遍的です.「あれは,専門家が見る病気」と突き放しているわけで,これだけ医学が進歩しても,彼らに対する医療現場での無知偏見はさして進歩していないのです.

現実には,感染対策的にHIV感染者に特別なことをする必要は何一つありません.一般病棟でも,外来でも,緩和ケア病棟でも,在宅でも.あるいは,職場や学校でも.ぼくはいろんな場所から「今度,HIV感染の方を紹介されるのですが,医学的にどう対応したら良いでしょう」と問い合わせを受けます.ぼくは「他の方と何一つ対応を変える必要はありません.むしろ,差別などないよう,社会的対応を丁寧にやってください」とお願いしています.

本当なのです.出血したときはどうするんだ,みたいな質問もされますが,血液を直接手で触れないなど,「標準予防策」をきちんとやっていればよいので,「他の人」と対応は同じです.おまけに,ARTを内服して血液中のウイルスが検出できなくなった方からは,まあまず新しい感染が起きることはありません.

だから,例えば,HIV陽性者でも普通に医療行為はできます.しかし,非常に残念なことに,HIV感染を理由に医療者の雇用を拒む医療機関は現在も存在します.直接的に,あるいは都合の良い言い訳をこしらえて,彼らは感染者が自由に仕事をし,患者に貢献するのを拒むのです.医療現場が無知や非科学的態度を許容してはいけないのですが.

現在でも,ぼくは病院の診療部で,看護部で,事務部門で,病院長ら執行部で,緩和ケア病棟で,在宅医療現場で,薬剤部で,透析センターで,HIV・エイズについての説明会や講演会を繰り返しています.繰り返している,ということは,こうした「常識」がきちんと医療現場に流布していないことを意味しています.「拠点病院」による患者の「囲い込み」の功罪の「罪」の部分です.エイズ拠点病院は形質的,あるいは実質的な患者の囲い込みをそろそろ止めて,感染者を一般の医療現場やコミュニティーに還元していく必要があるのです(拠点病院の問題については岩田健太郎,土井朝子,日笠聡「AIDS診療拠点病院の現場と展望」日本エイズ学会誌2018年第3号にまとめているので,ご参照ください).

そのときに,ちょっと大事なのがARTです.ARTは専門家のもの,という前提があり,これが「HIVは難しい」「HIVはうちでは無理」の観念を作ります.

まだまだ,ARTやHIV啓発のニーズはあるのです.海外のガイドラインや国内の「手引き」など内容の質は担保されていますが,英語のガイドラインを読めない人は多いし,「手引き」は網羅的であるがゆえに非専門家にはハードルが高く,多くの人にとっては「ちんぷんかんぷん」でしょう.

よって,本書は「街場」の薬剤師さんやナースや,HIV見たことない,なんだか怖い......でもできればちゃんと診たい......というプライマリ・ケア医たちを念頭に置いて作りました.あ,それともちろん,患者さんの役にも立つように.ちゃんとニーズはあったのです.ぼくがそれを直視していなかっただけで.

というわけで,本書はふだんぼくが周辺の医療機関のスタッフたちに「誰にもわかるHIV」的なレクチャーをするときの薬の部分を中心にまとめました.11年の本を仕立て直したわけですが,やりがいのある仕事になったと思います.

なお,本書の内容は,若干国内外のガイドラインとは異なるものになっています.

それはぼくの新薬に対するプリンシプル(原則)に基づいています.先回りして結論だけ申し上げておくと,「新薬は2年は寝かせろ」ということです.

これはHIVのみならず,すべての抗菌薬や抗ウイルス薬,あるいは高血圧,糖尿病,すべての治療薬にアプライしている原則です.日本の薬の使い方の本質的な問題の一つでもあります.

そういうわけで,本書を読めば,ガイドラインに書いていないことも会得できますから,スレッカラシのHIV屋さんも,本書からなにかゲットできるものがあるかもしれませんよ,まじで.


2018年12月

岩田 健太郎

■ 目次

第1章 エイズ治療の世界に触れてみよう

1 ぼくとHIVのささやかな歴史

2 なぜ,抗HIV薬は「わかりやすく」なったのか

抗HIV薬の名前は複数ある

抗HIV薬は組み合わせて使う

ARTを実際に使ってみよう

3 ARTのざっくりな様相

INSTIとは

日本におけるHIV/AIDS

4 HIVのしくみ,ARTのしくみ

HIVとは何か

エイズとは?

大切なのは,CD4とウイルス量

HIV感染・エイズの自然歴

エイズの診断

いつからARTを始めるか?

実際の治療例

アイリス(IRIS)とは何か?

ARTとお金の話

Dual therapyの可能性

実際のARTの始め方

何を目標にするか?

副作用の問題

耐性の問題

ARTはいつまで飲むのか?いつになったら止めてもよいか?

ART治療がうまくいかないときは?

5 耐性検査とは?

薬剤耐性検査の読み方

6 ARTの基本骨格

第2章 抗HIV薬各論

1 インテグラーゼ阻害薬

ラルテグラビル(RAL)

ドルテグラビル(DTG)

エルビテグラビル(EVG)/コビシスタット(COBI)

Bictegravir

2 NRTI

ラミブジン(3TC)・エムトリシタビン(FTC)

アバカビル(ABC)

テノホビル(TDF)

ジドブジン(AZT)など,その他のNRTI

3 NNRTI

エファビレンツ(EFV)

リルピビリン(RPV)

4 プロテアーゼ阻害薬(PI)

ダルナビル(DRV)

5 CCR5阻害薬

マラビロク(MVC)

第3章 さまざまな合併症のことなど

1 結核になったら

2 B型肝炎(HBV感染)の合併時は......

3 C型肝炎合併例

4 肝機能が悪いときのART

5 腎機能が悪いときのART

6 妊婦および小児

7 プライマリ・ケアとHIV

相互作用のチェック

メンタルヘルスのスクリーニング

内分泌代謝疾患のチェック

薬を使わない治療も選択肢に

性感染症のチェック

予防接種のチャンスを逃さない

がんのスクリーニング

骨密度

非HIVのコモンな問題に気をつける

食事

ペット

8 急性レトロウイルス症候群

9 針刺し対応,レイプ対応

10 神経症状がある場合

11 脂質異常の治療

12 日和見感染(OI)やその他の合併症の治療

予防薬

OIの治療(コモンなもの)

おわりに

参考文献

索引

【付録1】抗HIV薬一覧(よく使うもの)

【付録2】よく使う薬剤組み合わせ

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