はじめに
人口減少に伴う労働力不足は、日本全体が抱える大きな問題点となっています。もちろんクリニックなどの医療機関においても例外ではありません。
大手企業が『週休3日制』『在宅勤務可能』『保育士がいる保育スペースの提供』『出勤の際にペットの同伴可能』など、勤務条件を充実して人材の獲得に躍起な中で、規模のことだけを考えたら零細企業と言わざるを得ないクリニックは、ますます応募が減っている状況です。
「5年前は求人誌に広告出したら20〜30人の応募があったけど、今はせいぜい3〜4人、しかもよい人材となると、ほとんどいないなぁ...」
遠い目をして、このように言う院長は決して少なくありません。
そんな状況ですので、本当は正社員を雇用したい思いはあるものの、あまりの募集の少なさにパートスタッフを採用しているクリニックは多くありますし、「パートだとボーナスを払わなくてよいので、パート中心のスタッフ構成にしている」という考えの院長も一定数います。
一方、育児や介護など様々な理由によって「本当は正社員で働きたい気持ちもあるけど、すぐにそれは難しいからひとまずパートとして働きたい」という人もいますので、クリニックがパートスタッフを雇用するというのは現実的によくあることです。
私は2005年からクリニック専門の経営コンサルタントとして活動してきましたが、概ね正社員よりもパートスタッフの方が「当事者意識」が低いことが多いです。
ちなみに、本書における「当事者意識」とは、「クリニックで起こっている全ての出来事は、自分に関係があるという意識のこと」を指し、逆に、「私はその日休みだったから知りません」「私は看護師であって、受付ではありませんので、それは私の仕事ではありません」「そのことは私は知りません」などの感情を「非当事者意識」と表現します。
こう考えると、ほとんどのパートスタッフは「非当事者意識」で働いていることがわかります。何かの悩みがあって本書を手に取られた院長先生も「こ、これは、うちのスタッフのことが書いてあるじゃないか!」と思うかも知れません。
現実的な話として、パートスタッフよりも正社員の方が勤務日数が多く、勤務時間が長いこともあり、仕事に費やす時間やエネルギーが多いので当事者意識になりやすいのに対し、パートスタッフは「まだ子供が小さいから、無理なく働きたい」「子供が小学校から帰ってくるまでの間、仕事をしたい」「親の介護もあるので、長時間仕事ができない」など、何らかの制約の中で仕事をしています。よって「ここから、ここまでが、自分の仕事」と、仕事に対する境界線が正社員のそれと比べてはっきりしていることが当事者意識を低くしている一因です。
しかし、だからと言って「うちはパートスタッフが多いんだから、当事者意識が低いのは仕方がない」で済ませてしまっては「人口減少」「保険点数減少」「競合クリニックの増加」「ネット社会の今、患者がクリニックを選ぶ時代」など、年々厳しくなるクリニック経営環境において、長く生き残っていくことはできません。
私は2011年に創業し、これまで7年間会社経営をしておりますが、秘書・事務スタッフのほとんどがパートスタッフです。この経験を通して確信していることは「どうせパートスタッフだから...」という固定観念がパートスタッフの当事者意識の低下を加速化させ、逆に、パートスタッフ中心の組織でも、必要な対策を講じればプロフェッショナルチームは作れるということです。
本書はこれまでの13年以上に渡るクリニック経営コンサルタントとしての、そして7年以上に渡る自身の会社経営の経験を基に、パートスタッフ中心のクリニックがプロフェッショナルチームになる13の手法をご紹介します。
社会人になってからのセミナー参加、他院・他業種見学、そして読書などの、いわゆる「勉強や学び」というのは、実践のためにするものです。本書に紹介している手法をひとつでも多く実践し、貴院がさらにプロフェッショナルチームに近付いたとしたら、著者として、これ以上の喜びはありません。
アンリミテッド株式会社 代表取締役
医経統合実践会 主宰
根本 和馬