監修の序
厚生労働省で3 年に一度実施している国民生活基礎調査からも明らかなように,国民の自覚症状の上位を腰痛や肩こり,関節痛などの運動器障害が占めている.実際の受診病名別でも腰痛は高血圧の次に多い疾患にランクされている.さらに,関節症や転倒・骨折が要支援・要介護の原因として大きく関与していることも明らかとなっている.これらの運動器疾患・障害は高齢化と共に増加の一途を辿ることは間違いなく,整形外科医の果たす役割,責任は極めて大きい.実際,運動器に疾患や障害を有する子供からお年寄りまで,多くの患者さんが整形外科外来を受診し,また入院治療を行っているのが現状である.
一方,近年特に医療界では国民への的確で安全・安心な医療の提供が医療側に強く求められている.診断には問診,視診,触診などの診察に加えて,特に運動器疾患・障害には各種画像検査法は必須の補助診断法となっている.画像検査も以前は単純X 線のみであったが,その後CT そしてMRIが臨床応用され,それらも今や三次元立体画像から組織型まである程度判断できるまでになっている.さらには特殊な画像処理をすることにより高磁場MRI を用いて夢であった脊髄投射路まで描出可能なところまで来ている.以前は全く描出不可能であった病変が今や鮮明に映し出される時代になったと言っても過言ではない.診察をおろそかにして画像検査のみに頼ることは決して良くないことであるが,補助診断法として有効活用することは必要なことである.CT やMRI は,今後もMDCT やMR myelography,MR angiography,拡散テンソルtractography などを含め幅広く発展し,病変部位をより詳細かつ鮮明な画像として描出してくれるものと期待している.さらには,PETやSPECT などの核医学検査を加えることで,腫瘍性病変などはより早期に確実な診断が可能となっている.
そこで今回,運動器の各分野で多くの臨床経験を有し,現在も第一線で活躍中の我が国トップレベルの整形外科医に資料提供と執筆をお願いし,整形外科領域の画像診断のレファランスとして,「1.関節─上肢─」「2. 関節─下肢─」「3. 外傷」「4. 骨・軟部腫瘍」「5. 脊椎・脊髄」「6. 小児」の6 冊からなるシリーズ書籍『アトラス骨・関節画像診断』を刊行することとなった.本書は整形外科画像診断の教科書としてバイブル的存在に成り得るものであり,その内容も,日常良く遭遇する疾患・外傷から専門性の高い稀な疾患までを全て網羅し,鮮明な画像と共に,その疾患の「概念」「特徴と読影のポイント」「Question & Answer」「ワンポイント」などでわかりやすく説明されている.
本書が整形外科を志す若手医師,専門医を目指す整形外科医,常日頃一般診療に携わっている整形外科医,そして学生教育を担当している整形外科医の座右において頂いて,運動器を扱う整形外科の診療,教育の一助となれば幸いである.
2010年 6月
戸山 芳昭
序
最近は電車に乗ると,たとえ乗客が沢山いても結構孤独を楽しむことができる.みな携帯やゲーム機に熱中し,自分の世界に完全にひたっているからである.直観的なイメージや動画でなければ集中できない世代が増えている.学生の講義用レジュメも硬い論文形式のものはもはや受け入れられず,講義スライドをそのままほしいという声が多い.そして当然,整形外科学の雑誌執筆や教科書の改訂ごとにカラフルな画像を増やす方向で書き直しを迫られる昨今である.そこにこの図解アトラス集である.まさに流れの先端というか象徴的な企画と言える.この企画が中外医学社から提案されたのが丁度2 年前のことであった.上述したような講義スライドそのままのレジュメで育った若い医師層をターゲットにするならば,この企画に駄目だしする理由は無い.
そこで依頼された小児整形外科分野において47 項目を網羅して挙げ,執筆依頼させていただいたのがおよそ1 年前である.私が小児整形外科専門医たる自覚を持って活動してきたこの30 年の間,沢山の小児整形外科専門医の方々と接してきたから47 項目といえども最適と考える執筆候補者を選ばせて頂くにあたってさして苦労はなかった.初め,画像は数枚,文章は漫画の吹き出し程度の量でというので,それなら楽だと私自身もいくつかを引き受け,執筆者にもその線でご依頼したと思う.しかし実際頂いた原稿をみると立派な論文になっているものも散見される.
さて整形外科ではいずれの分野も高齢時代で医療需要は増加するばかりである.しかし,ただ一つ患者数が減少してゆきつつあるのが小児の整形外科であり,一般の整形外科医にとってはなじみがますます無くなりつつある分野であろう.しかしそれだから余計知らないではすまされない分野ということもできる.数少ない子供を親や祖父母や沢山の大人が取り囲んであれやこれやと悩み,やきもきするのである.上記のようにネットなどから疾患情報や治療情報まで,場合によっては主治医よりも豊富に親が手に入れている可能性のある時代である.何らかの解決を求めて子供を整形外科に連れてくる親と,相談を受ける医師との間にはいやでも緊張感が漂わざるをえない.整形外科医にとって小児は避けて通れないがそれならば座右のテキストはできるだけ網羅的で,ネット情報よりも正確で専門的で,かつ一見して理解しやすいものが望まれる.
この特集がそういう評価を得るとともに,特に小児整形外科の項が頻繁に開かれるなら幸いである.
またこの企画が各疾患の記述の簡略さを特徴として全整形外科疾患を網羅するのであれば,将来,急いで参照したいと思う医師に6 編の大著の中から苦労して該当疾患を拾い出すという手間をはぶかせるために,辞書的なものとして疾患をたとえば「あいうえお順」に並べて編集し直すのも一考の価値があるのではと考えている.
2011年 1月
浜西 千秋