臨床医のためのパブリックヘルス

  • ページ数 : 178頁
  • 電子版発売日 : 2011年4月5日
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商品情報

内容

臨床医にとってリアルな問題だけをとり上げ、パブリックヘルスのコンセプトを紹介した「臨床医のためのパブリックヘルス」が電子書籍になりました。

序文

臨床医がパブリックヘルス的な視点を持つこと

 臨床医の多くはすでにパブリックヘルス(公衆衛生)においても重要な役割を担っている. それもそのはず. 医師法第1条には,医師の職務として「医療及び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し,もって国民の健康な生活を確保する」とある.

 ではパブリックヘルスとはなにか. 小児外科医であり,レーガン大統領のもとで公衆衛生局長官を務めたEverett Koopは,「医療はすべての人にとってある時不可欠になる. パブリックヘルスはすべての人に常に必要である」と述べた. 医療とパブリックヘルスは分けられるものではない. 臨床医は臨床の現場で病気の人を身近に診て,患者やその家族と対話することによって,その地域社会で起きていることや課題にも精通できるというパブリックヘルスの実践においても最適な場にいる.

 臨床医は患者「個人」を主に対象とするが,パブリックヘルスが対象とするのは,患者全体や,地域社会などの「集団」である. 臨床医がパブリックヘルスの考え方やツールなどを習得することにより,さらに臨床が活き,地域の健康にも寄与することができる.

 また,多くの臨床医が経験する「どうして予防できなかったのか」,「どうしてこうなるまで放っておいたのか」,「どうして無関心なのか」といったことも,集団としての特徴をみるパブリックヘルス的な視点から考えるとその背景が見えてくるであろう. 背景が見えてくると,それに対する解決策の検討や改善が行える. そのための取り組みを地域ですでに実践している臨床医も多いが,医師になってからもパブリックヘルスを学ぶ場がもう少しあれば,より多くの臨床医が,より様々な分野で,地域での取り組みをさらに活発に行うようになることが期待される.

 医師は医療機関においてリーダーである. そのリーダーが集団や地域をより意識しながら仕事をすることができれば医療機関の周辺だけでなく,地域においても活動することができる. グッドプラクティスであれば全国に紹介され,さらにその活動が他の地域へ移植され,患者のため,地域のため,国民のために寄与することができる. しかし,集団や地域を一人で相手にすることは難しい. それゆえ,医師だけではなく,様々な医療従事者,そして地域や患者との連携を常に意識しなければならない.

 もう一つ臨床医にとってパブリックヘルス的な視点の必要性を痛感させるのは,主要な臨床系の雑誌であるNew England Journal of MedicineやLancetといった雑誌にはほぼ毎号といってよいほどパブリックヘルスに関する論文や記事があることである. 臨床医がこのような記事にもっと関心を持ち,読み解き実践する能力を持つことが世界的にも求められているといえる. 米国では,パブリックヘルス的視点を臨床医が学ぶことを医師会などでも推奨している.

 医療も大きく進歩しているように,パブリックヘルスも大きく進歩している. しかし,これまでは臨床医が診療の中でパブリックヘルスの知識の必要性を再認識したときに,臨床医がもう一度パブリックヘルスを学ぶためのテキストはあまりなかった. そうしたこともあってか非常に熱心な臨床医の中には一念発起して病院を退職・休職して国内や海外の公衆衛生大学院に進学することもあるようである. しかし,できればもっと身近にパブリックヘルスの考え方やツールを学べることが理想である.

 本書の編集のきっかけは,専門医などを取得した臨床医で「個人」に対する診療の修練を積み,地域や社会などの集団に関心が向いてきたのでパブリックヘルスの考え方やツールを学ぶ場が手軽にあれば良いという声であった. それゆえ,執筆者のほどんどは,臨床医としての経験があり,キャリアの比較的早い時期になんらかの形でパブリックヘルスに関わりをもったことのある対象読者と同世代の医師たちである. 臨床医が忙しい合間でも読みたくなるように,わかりやすく解説いただいた. もちろん研修医や専修医などの若手の医師や医学生,またベテランの医師にもお読みいただければこの上ない喜びである.

 本書は6部構成とした.1. 集団の健康をとらえる公衆衛生の視点,2. 地域での感染症や災害などの健康危機管理,3. 医療制度や様々な職種との連携から見える日本の医療を動かす仕組み,4. 臨床データを活用してさらに多くの患者に活かす試み,5. 最近のトピック,6. さらに公衆衛生を学ぶ場,である.

 パブリックヘルスは幅広いため本書においてすべての項目を取り上げることができない. 疫学や高齢者,障害者,精神保健などすでに個別の良書が多く出されており,またある程度の分量が必要であると考えた項目はあえて取り上げなかった.

 本書が「医療崩壊」という言葉で表わされるような閉塞感がより実感されてくるなかで,勤務している医療機関を拠点にしながら地域医療の再生の一助になれば幸いである.

 なお,本書の出版にご協力いただいた中外医学社の岩松宏典氏と久保田恭史氏に感謝いたします.


2010年 9月

編者ら

目次

第1章 集団の健康をとらえる公衆衛生の視点〈和田 耕治〉

氷山の一角に対するハイリスクアプローチ

集団全体へのポピュレーションアプローチ

集団の健康を守る公衆衛生の変遷

公衆衛生の枠組み

臨床医が公衆衛生の視点を持つこと

第2章 健康危機管理

1. 健康危機管理とは ? 〈星 佳芳 緒方 裕光〉

目の前の患者を見つつ,世界を考える. think globally,act locally

公衆衛生行政担当者と協調的に行動する

臨床医が経験した,健康危機の実例

情報を収集する

2. 感染症と公衆衛生 〈高橋 亮太〉

「気付く」ためのツール: サーベイランス

「異常な増加」への対応: アウトブレイク調査

危機管理としての感染症対策

リスクコミュニケーション(risk communication)

3. 災害医療と公衆衛生 〈中出雅治〉

災害医療の歴史と現状

なぜ災害医療に公衆衛生 ?

公衆衛生の視点からみた災害医療

豆知識

第3章 日本の医療を動かす仕組み

1. 厚生労働省の役割,業務とは ?〈渋谷 克彦〉

厚生労働省で働く人たち

厚生労働省の業務

政策決定

国(厚生労働省)と都道府県(保健所),市町村の役割

厚生労働省における医系技官

臨床医と厚生労働省の接点

臨床医と公衆衛生行政官との連携

2. 保健所の役割〈古屋好美〉

保健所の業務その1―法令に基づく定型的業務

現在の業務その2―地域医療連携

現在の業務その3―健康危機管理

保健所の役割の変遷

3. 健康保険と医療費〈富塚太郎〉

保険というもの

保険の目的

リスク選択,逆選択,リスク調整

応能負担と応益負担

自己負担分の意図

健康保険制度の国際比較

日本の医療財源と医療費

4. 臨床におけるプライマリ・ヘルスケアの実践 〈高山 義浩〉

プライマリ・ヘルスケアの5原則

事例:佐久地域におけるエイズ拡大防止に取り組む

5. 産科医師の減少と産科医療を救うための制度設計 〈太田 寛〉

立ち去り型サボタージュ

産婦人科における病院の集約化

産科施設数の推移,産婦人科医数の推移

なぜ,産科の現場から立ち去るのか

産婦人科の救急現場からの撤退を促進した「事件」について

産科医療体制の有効な対処とは

第4章 臨床データの活用

1. 診療の質と公衆衛生の考え方〈東尚弘〉

診療の質の評価がなぜ必要か

評価における構造・過程・結果の視点

過程の評価のススメ

診療ガイドラインと診療の質評価指標(quality indicator: QI)

がん診療における診療の質評価指標(quality indicator: QI)の作成研究

どうやって診療の質の評価結果を生かしていくのか

2. 臨床研究支援と公衆衛生
(ナショナルセンターの独立行政法人化を通して) 〈田中剛〉

独立行政法人国立精神・神経医療研究センター
 (National Center of Neurology and Psychiatry)とは

Translational Medical Center(TMC)の試み

生体試料管理について

患者登録について

臨床研究者の育成支援について

知的財産(知財)管理について

第5章 最近のトピック

1. エビデンスに基づく公衆衛生
 (Evidence Based Public Health)〈和田耕治〉

エビデンスに基づく医療と公衆衛生の違い

公衆衛生のエビデンスの種類

エビデンスに基づくガイドラインができるまで

地域や現場で実施する際に留意すべきこと

新型インフルエンザでの公衆衛生施策

2. 臨床に活かす行動変容の理論 〈坂本 宣明〉

行動変容とは何か

各個人の健康認識を高める方法

個人や集団には行動変容を起こす準備段階(ステージ)がある

人とのかかわりの中で行動を変えていく

環境改善による行動変容

集団に健康情報を伝えていく,教育を実施する

3. 臨床医が知っておきたい「健康の社会的決定要因」 〈近藤 尚己〉

社会経済的地位と健康

雇用形態・就労環境と健康

社会的ネットワーク: 人とのつながりが命を救う

社会のあり様と健康: 住む街で健康が決まる

SDHを臨床にどう生かすか

4. 政治と医療との接点 〈冨岡 慎一〉

戦時中から終戦後まで

戦後拡大路線の時代

医療費抑制政策の時代

日本医師会について

第6章 キャリア―臨床医がさらに公衆衛生を学ぶためには―

1. 公衆衛生をさらに学ぶ場―総論 〈和田 耕治〉

学会に参加してみる

短期セミナーに参加してみる

2. 東京大学大学院公衆衛生学修士課程の紹介 〈坂本 宣明〉

コースの概要

大学院生の状況と修了後の進路

修了者としての感想

3. 海外で公衆衛生を学ぶ 〈北川 洋〉

米国公衆衛生大学院へ向けての準備

臨床医が海外の公衆衛生大学院で学ぶメリット

臨床医にとってのキャリア上の位置づけ

索引

コラム

知っておきたいデータ

(1)医療従事者数と医療費 〈太田 寛 和田 耕治〉

(2)患者についての主なデータ 〈太田 寛 和田 耕治〉

(3)国民全体のデータ 〈太田 寛 和田 耕治〉

知っておきたい法律

(1)感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(

感染症法)と予防接種法 〈渋谷克彦〉

(2)法律と政令と省令の違いは ?通知と通達と告示とは ? 〈渋谷 克彦〉

(3)医師法と医療法 〈渋谷 克彦〉

産業保健 〈河津 雄一郎〉

病気の決定要因「BIGGEMS」〈和田 耕治〉

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書籍情報

  • ISBN:9784498071100
  • ページ数:178頁
  • 書籍発行日:Invalid date
  • 電子版発売日:2011年4月5日
  • 判:A5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
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