スポーツはプロ・アマの一部のスポーツ選手のみが行うものではなく，幅広い年齢層の国民が楽しむものとなっている．スポーツ人口の増加に加え，プロスポーツを意識した選手の低年齢化が進むとともに，高年齢者も積極的にスポーツを楽しむようになり，スポーツ人口の年齢層も広がってきている．2006年のスポーツ白書によると，20代における実施率の高いスポーツ種目のベスト3は，ウォーキング，ボウリング，ゴルフ，10代のそれは，サッカー，バスケットボール，バドミントンであり，行われているスポーツ種目は年齢層により異なっている．しかし，1,000万人以上の人々がバスケットボール，水泳，ゴルフを行い，ウォーキングを実施する人々の数は驚くべきことに2,000万人を超えている．

スポーツ活動を行う目的は，心身の健全な発育，競技レベルの向上，ストレス解消，疾病予防や疾病後のリハビリテーションなど，それぞれの年齢層，あるいは個人により異なる．スポーツは一般に精神，身体に好影響を与え，有益に作用するが，各個人に適した条件で行わないと有害にも作用する．間違った理論や方法に基づくスポーツ傷害も，スポーツ人口の増加とともに増えてきている．

スポーツ医学は，運動に起因する問題点を包括的に洗い出し，解明を目指す基礎医学から臨床医学に至る学際的な分野である．そのなかで，運動器疾患に対する診断，治療，予防を行う専門家である整形外科医は，スポーツ医学の発展において中心的役割を担う義務がある．将来も増加するであろうスポーツ傷害をいかに治療し，また予防するかは，整形外科専門医にとってきわめて重要な課題である．

個々の整形外科医はスポーツ傷害のテーマに積極的に取り組んできたが，残念ながらその多くはある領域の専門家であっても，身体のすべての部位のスポーツ外傷，障害を総合的に診断し，治療する整形外科医ではないことも事実であろう．

この《最新整形外科学大系》23巻『スポーツ傷害』は，脊椎，上肢，下肢などの 身体部位別の章を第一線で活躍する整形外科医の先生方に，また，スポーツ医にとっ て最低限必要な運動生理学，年代別の問題点，メディカルチェック，熱中症，貧血， オーバートレーニング症候群，スポーツと循環器疾患・呼吸器疾患，突然死を基礎医 学系ならびに内科系のそれぞれの分野の代表的な先生に執筆していただき，きわめて 充実した内容になっている．

本書によりスポーツに関する一層高いレベルの医療が社会に供給され，国民に福音をもたらすものと確信している．

2007年9月

広島大学大学院医歯薬学総合研究科整形外科学教授 専門編集
越智 光夫