まえがき

日本の予防医療は，はっきり言って問題だらけです．

「これからは予防が大事です！」という主張を聞くことが増えました．それには私も賛成です．しかし，「何をどうやって予防するの？」と聞かれたとき，科学的根拠をもとにきちんと議論できる人は本当に少ない．

「予防が大事です」→「人間ドックを受けましょう」

「予防が大事です」→「腫瘍マーカーを測りましょう」

「予防が大事です」→「サプリを摂りましょう」

どの推奨も科学的には正しくありませんが，「なんだか悪いことではない」ようにも聞こえます．このような勧めをする医師には，ビジネスのためなど他意をもってやっている人もいるでしょうが，ほとんどは心から人々の健康を推進したいと考えているはずです（たぶん）．

問題は，予防医学の基本的思考が身についていないことだと思います．それもそのはず，私自身，予防医学なんて，医学部で習った覚えがありません（授業を聞いていなかっただけかもしれませんが...）．そして，医師としても臨床現場で予防医学を構造的に学び，システマチックに実践する機会は滅多に（まったく？）ありません．

「それなら独学で！」と思って成書を検索してみるも，予防医学をきちんと学べる書籍がほぼ皆無ではありませんか．だからこそ，本書の意義があるのです．本書を読んでもらえればわかると思いますが，予防医学の考え方は臨床医学と似ている部分も多いです．その一方で，決定的に異なる部分もいくつかあります（詳細は本書を読んでくださいね！）．ある程度の予防医学の「型」を身につければ，エビデンスに精通していなくとも，日本の予防医療の現状が「いかに問題だらけ」なのかわかります．

本書の企画をいただき，制作を通じてお世話になった丸善出版の堀内志保さん，程田靖弘さんにはまさに感謝の気持ちでいっぱいです．遅々として進まぬ執筆にいくつもの週末を犠牲にするも，常に（叱咤激励しながら）暖かく見守ってくれた妻には頭が上がりません．尊敬する徳田安春先生には推薦のことばをいただき，心より感謝します．

本書は，アメリカで活躍する日本人医療従事者が情報発信するプラットフォーム『あめいろぐ』を書籍化したシリーズの第一弾です．世界の第一線で活躍するメンバーたちが，最新のエビデンスをもとに切れ味鋭く語っていきます．第二弾以降も，ぜひお楽しみに．

ちなみに，『あめいろぐ』（http：//ameilog.com）の「あめいろぐカンファレンス」コーナーで，本書のことを取り上げます．医療経済学・医療政策学の専門家である津川友介先生，家庭医療・老年医学の専門医である樋口雅也先生とともに，予防医学について政策，エビデンス，臨床の観点から熱い議論を交わしますので，こちらも乞うご期待です．

日本初の（ライトタッチな）予防医学専門書である本書を参考にしていただき，日々の診療の中で「正しい」予防医療の実践を目指してください！

2017年11月吉日

シリーズ監修・著　反田 篤志