実験医学増刊 Vol.36 No.7 超高齢社会に挑む骨格筋のメディカルサイエンス

  • ページ数 : 230頁
  • 書籍発行日 : 2018年4月
  • 電子版発売日 : 2018年11月2日
¥5,940(税込)
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商品情報

内容

筋疾患から代謝・全身性制御へと広がる筋研究を、健康寿命の延伸につなげる。

超高齢社会の日本では,筋肉の量や機能を維持し健康寿命を伸ばすことが社会的に求められています。本書では,筋萎縮・肥大のメカニズムから代謝・臓器連関・筋疾患研究まで,骨格筋研究の最新知見をご紹介します。

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序文

はじめに


骨格筋研究は新たな時代へ


時代の要請―臨床的な側面

1986年,代表的な遺伝性筋疾患であるDuchenne型筋ジストロフィーの原因遺伝子であるジストロフィン遺伝子が単離された.これはpositional cloningの嚆矢であって,われわれはそれまで全く知るところのなかった細胞膜に関連した裏打ちタンパク質としてのジストロフィン,そして骨格筋生理・病理学を理解するための分子的な手がかりを手にすることができた.それ以来,筋ジストロフィーを中心とした筋疾患研究が骨格筋研究をけん引してきたと言えるだろう.ところが近年,その流れが大きく変わりつつある.1つには内閣府の高齢社会白書で明らかなように,「超高齢社会」のただ中にあるわが国では,要介護などの背景にある運動器の維持がきわめて重要な課題となったことだ.骨,軟骨の研究者からは,ロコモティブシンドロームが提唱され,一方,加齢に伴なう筋萎縮(サルコペニア)やフレイルなどの概念が医学的に確立されつつあることもあり,改めて骨格筋および細胞,組織,個体レベルの骨格筋研究の重要性が認識されるようになった.本増刊号では,特に序章を設けて「超高齢社会に向けて」と題し,骨格筋と時代背景をもとにした老化研究最前線に関して東京大学の田中栄先生を中心にまとめていただいた.


糖代謝,脂質代謝の鍵も骨格筋にあり

運動器としての骨格筋の機能に加え,代謝器官としての機能が注目されている.例えば慢性代謝疾患の代表である糖尿病の予防・改善のために運動,すなわち骨格筋が重要な役割を果たすことはよく知られた事実である.特にインスリンのシグナル経路,あるいは糖の骨格筋の細胞内への取り込みにグルコーストランスポーター4(GLUT4)が重要であることはよく研究されている.一方,脂質代謝についても,ミトコンドリアの観点からさまざまな新しい研究成果が生まれている.興味深いことに,近年の研究から,がん悪液質の病態の本質は脂質代謝異常にあることが明らかになりつつある.そこで,本増刊号では,第1章「骨格筋の代謝の調節機構」と題して,糖代謝と脂質代謝につき,がん悪液質も含めて,神戸大学の小川渉先生を中心にまとめていただいた.


骨格筋研究の基盤

奇しくもジストロフィン遺伝子の発見と時を同じくして行われたのが筋分化制御因子であるMyoD familyの発見である.この研究は発生学研究を出発点とし,当時最先端であったsubtraction cloningのような分子生物学的な手法を駆使して行われた.それによって単離されたMyoD family遺伝子は,非筋細胞を筋系細胞にconversionすることができるほどに強力なものだった.このtransdifferentiationの概念が,山中伸弥先生によるiPS細胞(induced pluripotent stem cell)の発見につながっているといっても過言ではない.

一方で,MyoD familyの発見を出発点として,筋の発生と再生の鍵を握っている筋衛星細胞(サテライト細胞)の位置付けが明瞭なものになった.筋疾患研究とともに,筋衛星細胞をもとにした筋再生研究が今日の骨格筋研究をけん引してきたことからもその重要性がうかがえる.この点については,大阪大学の深田宗一朗先生におまとめいただいている第2章「骨格筋の発生と再生」をお読みいただき,あわせてmesenchymal progenitorを発見6)された上住聡芳先生の稿(序章-5)をご参照いただきたい.


骨格筋量・質の調節機構

骨格筋再生の最も重要な組織幹細胞である筋衛星細胞は,損傷した骨格筋の修復にはかかわるものの,骨格筋量の増大(肥大)や低下(萎縮)では,中心的な役割を果たさないことが報告され,骨格筋量・質の調節機構は骨格筋線維そのもので起こるイベントが重要であることがわかってきた.骨格筋の肥大について主要な役割を担うmTORpathwayおよび萎縮の主要経路であるFOXOの発見に引き続いて,myostatinなど筋の栄養因子が次々に明らかになりつつあるが,それらについては私自身が担当した第3章「骨格筋量・質の調節機構」をお読みいただきたい.特に骨格筋が産生するmyokineの役割は,第4章の多臓器連関の中心的な概念としても,これからの研究が注目される分野である.


今後の筋研究展開の鍵-多臓器連関

これからの筋研究の展開を考えるうえで,鍵を握っているのは間違いなく多臓器連関である.第4章「骨格筋の他(多)臓器連関」についてはステロイドホルモンの作用機序を巡って骨格筋と肝,脂肪組織との臓器連関に関する先駆的な論文9)を発表された東京大学医科学研究所の田中廣壽先生におまとめいただいた.この章では骨格筋と最も近接した臓器である骨をはじめとし,脂肪,神経・精神活動,免疫との関連をまとめていただいている.また今後の研究を考えるうえでは認知症と運動の関連などが注目される.疫学的に,運動は糖尿病や肥満のみならず,認知症の予防効果をもつことが知られている.その背景としては脳血流量の増加のみならず,BDNF(brain-derived neurotrophicfactor)などの中枢神経系に影響を及ぼす栄養因子の関与が考えられ,それらの機構と,おそらくはmyokineやmicroRNAを介した骨格筋活動の関連の解明が期待されている.


骨格筋疾患研究の行方

これまでの骨格筋研究を支えてきた筋疾患研究は,これからどのような方向に向かうのだろうか.筋ジストロフィーに対する基礎的な治療研究をもとに,リードスルー薬,エキソン・スキップ,ウイルスベクターを用いた遺伝子治療などが臨床試験の段階にある.第5章では,国立精神・神経医療研究センターの青木吉嗣先生に「骨格筋疾患研究の最前線・展望」と題しておまとめいただき,将来の治療の発展性について興味深い記事が揃った.東京大学医学部の戸田達史先生を筆者のお一人とする糖鎖異常の研究に関する記事(第5章-3)をはじめ注目を集める筋疾患研究の話題を一覧できる.


筋研究の技術を基盤に

筋研究の将来を見据えた展開を考えていたわれわれは,多くの同士と語らい2015年1月,日本筋学会を設立することができた.この学会の設立目的の1つは,この分野の研究の振興を計り,若い研究者たちに研究交流の場を提供することである.同年8月を皮切りに,これまで計3回の学術集会を開催することができたが,その際に痛切に感じられたのは筋肉系の細胞の培養技術や組織としての骨格筋の解析技術をこの研究分野に参入しようとしているアカデミアや企業の多くの若手研究者に広く共通した技術として提供することの必要性である.そこでこの増刊号では,第6章「骨格筋の解析技術の基本・進展」で,国立精神・神経医療研究センターの埜中征哉名誉院長の骨格筋の標本に関する基本的な技術を中心に第一線でご活躍されている研究者の皆さんに5編の記事を叙述していただいた.


本増刊号では,日本筋学会に所属されている研究者を中心として,骨格筋の研究分野で原著論文の執筆をはじめとして活発に研究活動を進めている方々に,ご執筆いただいた.近年,筋ジストロフィーなどの筋疾患研究から,時代の要請を受けた健康長寿をめざした研究へのパラダイムシフトが起こりつつある).この増刊号を通じて,われわれの現在,それから未来の健康に関する問題を,骨格筋の立場から解明し,貢献できるきっかけとなるよう祈ってやまない.


武田 伸一

目次

序章 超高齢社会に向けて:骨格筋と老化研究最前線

Overview.ヒトは筋肉から老いるか?

1.ロコモティブシンドロームとサルコペニア:住民コホート研究ROADから

2.フレイルとサルコペニア

3.筋骨格系の老化と骨折,転倒―骨粗鬆症とサルコペニア

4.慢性腎臓病・透析患者におけるサルコペニア―筋腎連関をめぐる最近の知見

5.幹細胞・前駆細胞から見る骨格筋老化―幹細胞は筋の老化にかかわるのか?

6.ミトコンドリアからみた骨格筋の老化

第1章 骨格筋の代謝の調節機構

Overview.骨格筋の代謝の調節機構

1.骨格筋とエネルギー代謝制御

2.脂肪酸代謝とがん―悪液質における筋萎縮

3.糖代謝制御における骨格筋の役割

4.脂質代謝と骨格筋―筋肉のオートファジーとエネルギー代謝

第2章 骨格筋の発生と再生

Overview.筋発生・再生研究のめざす先

1.筋の再生能力とその進化:イモリ研究が示唆すること

2.骨格筋発生の分子制御機構

3.筋幹細胞の維持機構解明から制御へ

4.クロマチン構造が規定する骨格筋分化

第3章 骨格筋量・質の調節機構

Overview.骨格筋萎縮の克服のための基礎研究

1.骨格筋の量と機能を決定する分子メカニズム

2.アンドロゲンによる骨格筋制御―ドーピングから治療まで

3.神経筋接合部(NMJ)の形成・維持機構と筋力低下・筋萎縮に対する新たな治療戦略

4.骨格筋収縮・代謝特性の制御

第4章 骨格筋の他(多)臓器連関

Overview.生体システムの制御における骨格筋と他(多)臓器の連関

1.骨格筋活動と精神疾患

2.骨格筋と褐色脂肪とのクロストーク

3.骨と筋肉の恒常性と全身性制御

4.骨格筋による局所神経免疫相互作用「ゲートウェイ反射」の活性化

第5章 骨格筋疾患研究の最前線・展望

Overview.難治性筋疾患の治療法開発

1.筋萎縮治療薬開発の現状

2.遺伝性筋疾患に対する治療薬開発の最先端

3.リビトールリン酸糖鎖異常型筋ジストロフィーの病態解明と治療法開発

4.iPS細胞を用いた筋ジストロフィーの治療研究

5.ゲノム編集技術を利用した筋ジストロフィー研究および治療戦略

第6章 骨格筋の解析技術の基本・進展

1.骨格筋標本の作成・基本染色・電子顕微鏡的検索

2.骨格筋の定量的解析技術―筋線維数,断面積,筋線維タイプの定量解析,および,筋再生実験

3.骨格筋の機能解析(筋肥大・萎縮誘導モデル,運動・筋機能評価,筋張力測定)

4.骨格筋特異的Creドライバーマウスの特徴と骨格筋研究への利用

5.骨格筋からのサテライト細胞の単離法

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書籍情報

  • ISBN:9784758103701
  • ページ数:230頁
  • 書籍発行日:2018年4月
  • 電子版発売日:2018年11月2日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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