はじめに
「研修医が栄養療法を学ぶのに何か良い本はありますか.」
2009 年9 月,初期研修医に対して行った栄養療法の勉強会の最後に,こんな質問を受けた.ところが,言葉につまってしまった.思いあたる本がなかったからである.
昨今,日本中の病院で栄養サポートチーム(NST)が盛んに活動しており,栄養療法にこれまでになくスポットライトが当てられている.実際に本屋へ行ってみたり,インターネットで検索したりすれば,栄養療法の本をたくさん見つけることができる.しかし,そのほとんどがNST のメンバー に向けてのものだ.NST がどのようにして栄養療法を行うか,という視 点で書かれている.だから,研修医が勉強するには,やや敷居が高い.ほ かならぬ自分自身が違和感を覚えながら,それらの本で勉強していた.栄 養療法はNST だけのものではないからである.
私は,臨床研修必修化が始まった2004 年5 月から医師として働きだした.幸運にも初期研修のときの指導医が栄養療法に積極的だったため,最初から栄養療法に興味をもって取り組むことができた.'06 年4 月から栃木県済生会宇都宮病院で勤務するようになり,夏からはNST 委員会に所 属するようになった.そこから本格的に栄養療法を学ぶようになり,同 時に周囲のスタッフに対して栄養療法の勉強会を主催する機会が多くなっ た.その後も継続的に栄養療法の実践,普及に一生懸命取り組んでいたら, '09 年4 月からNST 委員会の委員長をやることになった.そして,どう したらもっと多くの人に栄養療法の有用性を伝えられるかを考える時間が 増えていった.そんなときにはじめに示した質問を投げかけられた.この 言葉が本書を生み出すきっかけとなった.
本書は,「研修医」と「しみず」の対話が各テーマの導入部となっている.これから栄養療法を学ぶ人たちにとって,「研修医」の示す栄養療法に対する懐疑的な態度は,共感する点が多いだろう.この「研修医」の言葉は,自分自身が研修医のときに疑問に感じていたことを思い出しながら書いた ものだ.一方,「しみず」の言葉は,栄養療法を学び,実践してきた今の 自分の意見を正直に書いたものである.すなわち,本書は,過去の自分の 疑問に対して,今の自分が答えていくという形式で進んでいく.それは, 私自身がいつも栄養療法の有用性を疑いながら,学び,実践してきたとい う過程を示している.
主に初期研修医に向けて書いた内容であるが,わかりやすいテーマから進んでいくので,医学部5,6 年生にも十分に楽しめるのではないかと思う.また,後半になるにしたがって高度な内容になっているので,NST に携わるコメディカルの方々にも,知識の確認として使ってもらえるのではな いだろうか.そして,何よりアンチ栄養療法,アンチNST の方々に本書 を読んでいただきたい.栄養療法は,「いつでも,どこでも,誰でも」実 践できるきわめて身近なものである.アンチになるのは,あまりにもった いない.
本書が,たくさんの人たちにとって栄養療法により深く触れるきっかけになるのならば,これに勝る喜びはない.
2010年12月
清水 健一郎