Gノート増刊 Vol.3 No.6 もっと踏み込む 認知症ケア

  • ページ数 : 310頁
  • 書籍発行日 : 2016年9月
  • 電子版発売日 : 2018年12月7日
¥5,280(税込)
ポイント : 96 pt (2%)
今すぐ立ち読み
今すぐ立ち読み

商品情報

内容

教科書には載ってない目前の問題の解決方法を見つけ出すためのヒントが満載、「困った!」に効く事例集!

BPSDが治まらない,家族が介護でダウン寸前,多職種連携が進まない…など,認知症にまつわる種々の問題への対応を多彩な事例で解説し,要点を“レシピ”として紹介します.

Gノート最新号・バックナンバー・増刊号はこちら

序文

ある日,診療所に79歳の女性が紹介状を持っていらっしゃいました.近隣の開業医で高血圧,糖尿病を内服加療されていましたが,その先生のリタイアを機に当院に紹介になったのです.88歳の夫も同伴です.夫は自身も胸部大動脈瘤と高血圧の定期診察のために,隣町の総合病院に定期通院していましたが,非常にお元気で自家用車も運転していました.高齢のため手術せずに経過観察している動脈瘤も,何年も大きさが変わらず非常に落ち着いているとのことでした.家族は他に独身の54歳の息子がおり,同居していましたが,仕事が忙しくほとんど会わないような生活でした.

何度目かの受診の際に,毎回同じ話をされること,投薬の管理が怪しいことに気づき,MMSEを施行したところ,20点と低下していました.夫や息子に相談し,精査や場合によっては専門科受診をと何度か勧めたものの,「今は特に困っていない,薬の管理は他の者で対応できる.近所に認知症であることを知られたくない」と言って聞かず,結局そのまま経過を観察することとなっていました.

それから1年経ったある日,息子から「母が急に玄関で排尿しだして困っている」と連絡がありました.往診して様子をうかがったところ,急性期疾患の発症はなさそうで,認知症の増悪に伴うBPSDと判断,再度家族と相談し,ようやく納得され,専門科を受診することになりました.しかし,本人は病院受診を嫌がり,続く検査のたびに病院に連れていく夫の負担は大きかったようです.その後抗認知症薬を投与されるも,攻撃的になるなどの有害事象が発生し,なかなか病状が落ち着かない日々を送っておられました.

そんなある日,夫が突然の胸痛にて救急搬送されました.懸命の治療の甲斐なく,数日で亡くなってしまいました.胸部大動脈瘤の破裂でした.後で聞いたところによると,妻の対応に追われだしてから,夜もろくに眠れず,血圧が上昇していたとのことでした.突然夫の支えを失った本人は,独語が増え,閉じこもり傾向が極端に強まり,食事もろくに食べようとしなくなり,急速に介護の手立てが必要になりました.この状況に,息子は会社を早期退職せざるをえない状況となってしまったのでした.


これは私が実際に経験した,思い出深い事例です.皆さんはこの事例,どのように思われましたか?皆さんなら,どのように対応しますか?この事例の結末が「悪い」結末だったとして,誰のせいでしょうか?本人?家族?地域?あるいは,私でしょうか?

この事例には,さまざまな問題が潜在しています.本人や家族の問題.専門職や行政,住民などの地域の問題.詳述しておりませんが,当時私は,教科書的に精一杯誠心誠意対応したつもりです.それでも,本人,家族,地域とうまくケアを進めることができませんでした.何がダメだったのか,何が足りなかったのか,教科書には書いてありませんでした.

日本全国,人も,家族も,地域も,それぞれ違います.認知症はその三者からさまざまな影響を受けますので,患者さんにも,家族にも,地域にも,多種多様に発現します.同じ「アルツハイマー型認知症」の患者さんでも,全国に全く同じ事例というのは存在しないのではないでしょうか.このような状況の打開を,教科書やマニュアル,ガイドラインだけに求めるというのは,無理がある話なのではないでしょうか.

本増刊でめざしたのは,認知症の「教科書」ではありません.想定されるさまざまな状況を分類し,それに対するケアのなかから,ほかの事例に共通して参考になる要素を紡ぎ出し,教科書には載っていない目前の問題の解決方法を見つけ出すためのヒントを集積し,シェアすることをめざした事例集(レシピ集)です.第1~3章は,中堅~ベテランの総合診療医の先生方に,章ごとに,患者さんの問題,ご家族の問題,地域の問題と分類したうえで,実際に経験された事例をもとに,具体的なケアの内容とそのポイント,ケアチームの構成,うまくいったこととうまくいかなかったことなど,多くのヒントを頂戴しております.第4章では,各方面で認知症に関係してご活躍の専門家の皆さまに,それぞれの視点から,コンピテンシーや認知症ケアへの思い,総合診療医に求めることなど,多くのメッセージを頂戴しております(詳しくは8ページ「このレシピ集の使い方」をご覧ください).紡ぎ出されたPearlは,総合診療医のみならず,各科の専門医の先生方や,医師以外の認知症にかかわる皆さまにも非常に有用なものであると考えています.本レシピ集が,認知症にまつわる皆さまの困惑の解決に少しでも役立つことを,心から願っています.

最後になりますが,非常にお忙しいなか,特殊なテンプレートにもかかわらずご執筆を賜りました総合診療医の先生方,各方面の専門家の先生方に,心より御礼申し上げます.先生方の貴重なご経験や思いが,読者のなかに受け継がれていくことを確信しています.


2016年7月

福井大学医学部 地域プライマリケア講座

(高浜町国民健康保険 和田診療所)

井階友貴

目次

このレシピ集の使い方

第1章 患者さんの問題に対するレシピ集

オーダー1 認知症が心配な患者さん

オーダー2 認知機能が急激に悪くなった患者さん

オーダー3 抗認知症薬投与を迷う患者さん

オーダー4 抗認知症薬の副作用に悩む患者さん

オーダー5 抗精神病薬投与を迷う患者さん

オーダー6 向精神薬の副作用に悩む患者さん

オーダー7 生活習慣病を合併している患者さん 〜糖尿病を例に

オーダー8 食事を食べない患者さん

オーダー9 食事をつくれない患者さん

オーダー10 運転をやめない患者さん

オーダー11 薬を飲んでくれない患者さん

オーダー12 家族の介護や提案を拒否する患者さん

オーダー13 介護サービスを拒否する患者さん

オーダー14 物盗られ妄想のひどい患者さん 〜BPSDへの対応 ①

オーダー15 徘徊のひどい患者さん 〜BPSDへの対応 ②

オーダー16 昼夜逆転のひどい患者さん 〜BPSDへの対応 ③

オーダー17 暴言・暴力のひどい患者さん 〜BPSDへの対応 ④

オーダー18 抑うつ症状のひどい患者さん 〜BPSDへの対応 ⑤

オーダー19 不安の強い患者さん 〜BPSDへの対応 ⑥

オーダー20 不潔行為のひどい患者さん 〜BPSDへの対応 ⑦

オーダー21 独居の患者さん

オーダー22 認認世帯の患者さん

第2章 ご家族の問題に対するレシピ集

オーダー1 認知症を心配するご家族

オーダー2 認知症を受け止めきれないご家族

オーダー3 中核症状を理解してくれないご家族

オーダー4 BPSDを理解してくれないご家族

オーダー5 投薬を拒否するご家族

オーダー6 介護負担を抱え込むご家族

オーダー7 介護力のないご家族

オーダー8 家族内の意見がまとまらないご家族

オーダー9 患者さんに関心のないご家族

第3章 地域の問題に対するレシピ集

オーダー1 多職種連携が不十分な地域

オーダー2 病診連携が不十分な地域

オーダー3 多職種のメンバーが不足している地域

オーダー4 行政・地域包括支援センターとの連携が不十分な地域

オーダー5 関係者のモチベーションが不足している地域

オーダー6 住民の活動が盛り上がらない地域 〜認知症の人にやさしい地域づくりをしよう

オーダー7 認知症に対する理解のない地域

第4章 専門家のレシピを見てみよう!

スペシャリスト1 愛こそはすべて 〜認知症専門医のレシピ

スペシャリスト2 認知症を鑑別し,糖尿病との悪循環を防ぐ 〜老年内科専門医のレシピ

スペシャリスト3 BPSDの精神症状を適切に見極め,対応する 〜精神科専門医のレシピ

スペシャリスト4 GP-精神科医-多職種訪問チームモデル 〜在宅医療専門医のレシピ

スペシャリスト5 認知症ケアにおける医療・介護連携 〜医師会のレシピ

スペシャリスト6 生活者として寄り添い,対話する 〜訪問看護師のレシピ

スペシャリスト7 最期まで,尊厳ある生き方を支える 〜ホームホスピスのレシピ

スペシャリスト8 その人らしく生きることを支援する 〜ケアマネジャーのレシピ

スペシャリスト9 「やるしかない」の覚悟で挑む,暮らしを取り戻すための支援 〜介護福祉士のレシピ

スペシャリスト10 サービス付き高齢者向け住宅「銀木犀」の認知症ケア 〜高齢者住宅運営者のレシピ

スペシャリスト11 認知症による行方不明を地域で見守る 〜地域包括支援センターのレシピ

スペシャリスト12 高齢者関連の民間事業経営でふれた「生老病死」の教えとともに 〜益田市長 山本浩章のレシピ

スペシャリスト13 地域包括ケア時代の認知症ケアを考える 〜社会学者のレシピ

スペシャリスト14 自ら学び,地域の医療を守り育てる 〜住民組織・団体のレシピ

スペシャリスト15 ひとりでは抱えきれない,社会で看る認知症 〜認知症患者・家族団体のレシピ


索引

便利機能

  • 対応
  • 一部対応
  • 未対応
便利機能アイコン説明
  • 全文・
    串刺検索
  • 目次・
    索引リンク
  • PCブラウザ閲覧
  • メモ・付箋
  • PubMed
    リンク
  • 動画再生
  • 音声再生
  • 今日の治療薬リンク
  • イヤーノートリンク
  • 南山堂医学
    大辞典
    リンク
  • 対応
  • 一部対応
  • 未対応

対応機種

  • ios icon

    iOS 10.0 以降

    外部メモリ:31.1MB以上(インストール時:67.5MB以上)

    ダウンロード時に必要なメモリ:124.4MB以上

  • android icon

    AndroidOS 5.0 以降

    外部メモリ:48.5MB以上(インストール時:121.2MB以上)

    ダウンロード時に必要なメモリ:194.0MB以上

  • コンテンツのインストールにあたり、無線LANへの接続環境が必要です(3G回線によるインストールも可能ですが、データ量の多い通信のため、通信料が高額となりますので、無線LANを推奨しております)。
  • コンテンツの使用にあたり、M2Plus Launcherが必要です。 導入方法の詳細はこちら
  • Appleロゴは、Apple Inc.の商標です。
  • Androidロゴは Google LLC の商標です。

書籍情報

  • ISBN:9784758123167
  • ページ数:310頁
  • 書籍発行日:2016年9月
  • 電子版発売日:2018年12月7日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

まだ投稿されていません

特記事項

※今日リンク、YNリンク、南山リンクについて、AndroidOSは今後一部製品から順次対応予定です。製品毎の対応/非対応は上の「便利機能」のアイコンをご確認下さいませ。


※ご入金確認後、メールにてご案内するダウンロード方法によりダウンロードしていただくとご使用いただけます。


※コンテンツの使用にあたり、M2Plus Launcher(iOS/iPhoneOS/AndroidOS)が必要です。


※書籍の体裁そのままで表示しますため、ディスプレイサイズが7インチ以上の端末でのご使用を推奨します。