序
◆ 私もリハは苦手でした......
私も,最初から家庭医療学やリハビリテーション(以下,本増刊全体を通して「リハ」とします)医学を学びたいという考えがあったわけではなく,「内科全般を広く診て身近な人の助けになりたい」という考えで医師としての研修をはじめました.
初期研修では総合内科医をめざし,救急外来や各科病棟で多彩な症状や疾患の診断学を重点的に学びました.また,「体だけでなく心も癒やしたい」と考え,リエゾンコンサルテーションを通して心理面の評価やケアを身につけ,心身一如モデルなども学びました.
後期研修に入り,主治医として多くの患者さんを診るようになると「診断だけついても適切な治療が導入できない,さまざまな事情を抱えた一人の人間」に対して,責任をもって対応しなければならない場面にたくさん遭遇しました.特に家族関係の評価や経済的・介護的問題の対応について学ぶ必要を痛感していた卒後4年目のとき,家庭医療をずっと学んでいる外部の家庭医療専攻医と一緒に病棟で働く機会に恵まれました.病棟患者さんに対して家庭医療を適用することで「これ以上は医師には何もできない.あとは家族の責任,日本社会の問題だ!」と諦めていた多くの問題が解決していく事例を目の当たりにし,自らも家庭医療学の教科書を読みはじめ,生物心理社会モデルの理解と実践応用が進みました.
後期研修後半では,地方中小病院や診療所,そして周辺地域での健康問題にも関心が広がりました.地方ではまだ珍しかった総合診療医として在宅・介護にかかわる他職種から相談を受けることも増え,実践を通して地域ケアや予防医療・介護学なども学ぶことができ,一定の対応ができるようになりました.また,加齢そのもののために余力が落ちてきた患者さんに対する老年医学や,死が避けられない人たちに対する緩和医学にも手を広げ,総合診療医特有のmultimorbidity やpolypharmacy の対応なども磨いてきました.
しかし,それでも「心身が言うことを聞かず自立した生活はできないが,まだ寿命までは遠い.かといって治療で元気になれるわけでもないため,亜急性期〜療養病棟や在宅で長く停滞している人」に何もできないという無力感が残りました.いつかは急変などで状況が悪化するであろうことは明らかにわかっている人たちなのに,予防や緩和にいくら詳しくても何も提供できる対策がなく,「急変待ち」となってしまっていることへの罪悪感すら抱えながら日々淡々と回診をして,成立しないコミュニケーションに苦笑いをしていました.
そんな課題を抱えたままでもやがて後期研修は終わり,リハを含めたポートフォリオをまとめ,7年目には晴れて家庭医療専門医(総合診療医の専門医資格)に認定されました.しかし,「リハは学べてないな.苦手だな」という思いが強いままでした.どうやら,全国の家庭医療専攻医も,状況は似たようなもののようです.
<中略>
◆ おわりに
本書を通して,まずは全国の家庭医療専攻医が書くリハポートフォリオが,単に「回復期リハ病棟でたまたま担当した事例を内科レポート風にまとめただけ」から「総合診療医らしい幅広い視点とリハの深い機能評価と生活機能向上・支援の視点を融合させたもの」にレベルアップするきっかけを提供できればいいなと思っています.また将来的には日本プライマリ・ケア連合学会の家庭医療後期研修プログラムを運営している全国各地の施設で,学術集会やセミナーで,そして学術誌や商業誌などでも「総合診療医のリハ」が深められ,共有され,発展していくことを期待しています.
2017年1月
北海道勤医協 総合診療・家庭医療・医学教育センター
勤医協札幌病院 内科・総合診療科
佐藤 健太