団塊の世代が後期高齢者となる2025 年に向けて、既にカウントダウンが始まっている。薬学部教育においては、15 年度４月から、10 年後のあるべき次世代の薬剤師像を描き、実務実習モデル・コアカリキュラムは薬学教育モデル・コアカリキュラム（ 2013 年改訂版、以下改訂版コアカリキュラム）に一本化された。医療現場では、地域包括ケアシステム構築に向け、医療・保健・介護・予防・生活支援などへの薬局薬剤師の参画が求められている。さらに、各地域の特性に応じた薬局薬剤師の創出・育成が急務であることは言うまでもない。

大学と医療現場が一体となった薬学生の卒前・卒後教育へのニーズは高まっている。しかし現在、大学と医療現場の双方に、乗り越えていかなければならない課題があるように思う。改訂版コアカリキュラムにおいては、その根幹に、薬剤師に求められる資質として、次世代の人材を育成できることが含まれている。ただし、そのような教育目標が設定されたものの、それを達成するための具体的な方略についてはまだ示されていない。教育目標にいかに到達するかは、現在、個々の現場に委ねざるを得ない状況である。今後は医療現場から大学への積極的なフィードバックが必要であろう。

医療現場においても、教育ニーズを満たす全てを提供できる施設はまだ少ない。自施設では提供できないことを他施設で提供するなど、人材・環境を可及的速やかに育成・整備していかなければならない。他職種との連携はもちろん、薬剤師同士の連携も不可欠である。

また、薬局薬剤師業界には、薬剤師確保、後継者問題などの人材創出・育成のみならず、競争の激化などの経営課題に加え、在宅医療をはじめとする地域医療への貢献などの課題も山積している。これらの課題を乗り越え、次世代に向けた明るい展望を見いだすために、皆で共に歩んでいくことを本書で呼び掛けたい。

本書では、改訂版コアカリキュラムや教育理論、薬局の基本的業務、今後重要度が増す患者対応の在り方、薬局実務実習の実際、また特色ある取り組みを先駆的かつ精力的に行っている薬局薬剤師の実践例などを紹介する。

薬局における多くの実習前・実習中の実務実習生、若手薬剤師に、本書を読んでもらいたい。一方、「みんなで次世代の薬剤師を育てる」という気概ある指導薬剤師と、研究・教育に携わる大学の先生方をつなぐ一書として、また、実習先でお世話になる医師、歯科医師、看護師、ケアマネジャーなどの多職種の方々が、薬学生の教育課程・薬剤師職能を理解する上での一助となれば望外の喜びである。

歴史をひもとけば、洋の東西を問わず、いつの時代も、指導者の教育の下、若手世代が社会変革の原動力となってきた。今、薬局薬剤師の存在意義に対する批判や、乗り越えねばならない課題は多く、薬局業界には逆風が吹いている。しかし、それは同時に薬局薬剤師の飛翔の時でもあろう。飛行機は離陸する際、空気抵抗なしに空高く上昇できない。問題はその抵抗に耐え得る翼があるかどうかである。今まさに、われわれ薬剤師は、それを試されている。

われわれ薬局薬剤師の取り組みに、常日ごろから寛容なるご理解をいただき、惜しみないご協力、ご指導をしてくださっている国民健康保険上川医療センター院長の安藤高志先生、北海道家庭医療学センターの先生方にはいつも感謝しております。また、本書を世に出すきっかけを与えてくださった上川医療センター副院長の堀哲也先生、日経ドラッグインフォメーション編集部（日経DI ）の佐原加奈子編集長に深謝いたします。

加えて、締め切りまでの期間が極めて短い中、快く執筆・監修にご協力いただきました皆様、薬局業務をサポートしてくれたスタッフ、ならびに編集の細部にわたりご指導・ご尽力くださった日経DIの小板橋律子副編集長に、心から深く感謝いたします。また、手の掛かる時期の子どもの育児、家庭を日ごろから支えてくれている妻に感謝いたします。

2015 年冬

センター薬局グループ
庵原 伸也