はじめに

近年の肩関節外科手術は，不安定症に対する安定化手術，腱板断裂に対する手術，変形性肩関節症やcuff tear arthropathyに対する人工肩関節置換術に大別できる．これらのうち，近年の目覚ましい鏡視下手術の普及発展により，不安定症と腱板断裂に対してはほとんどが鏡視下に手術が行われるようになった．不安定症においては骨欠損への対応や，ラグビーなどのコリジョンアスリートに対しては，術後成績向上のために烏口突起や腸骨を用いた骨移植が行われるようになった．これも当初は直視下で行われていたものが，最近では盛んに鏡視下で行われるようになってきている．腱板断裂においては，関節鏡の普及により肩甲下筋腱断裂が大きく認識され，全腱板修復術の30～40％程度の症例で肩甲下筋腱修復が行われるようになったこと，また，スーチャーブリッジ法の導入で手技の簡便化が図られたことが近年の進化といえるが，一次修復不能な広範囲断裂やcuff tear arthropathyに対する治療は長年の課題であった．ところが，本年の4月より念願のリバース型人工肩関節がわが国についに導入され，cuff tear arthropathyに対する手術治療の決定打となることが期待できるほか，今まで治療に難渋していた，複雑な上腕骨近位端骨折，骨折続発症，関節リウマチなどに対する治療においても大きな効果が期待でき，これらの分野においても世界水準の手術治療が提供できるようになった．

そこで本書では，①反復性肩関節脱臼に対する手術，②腱板断裂に対する手術，③人工肩関節置換術の適応と術式というように3つの項目を章立てし，国内外のエキスパートに執筆していただいた．わが国が得意とする反復性肩関節脱臼や腱板断裂の鏡視下手術については，国内の気鋭の先生方に執筆をお願いした．一方，われわれの経験が乏しい腱移行術や人工肩関節に関しては，筆者が懇意にしている経験豊富な欧米のエキスパートにお願いした．したがって，本書は現時点で最もupdateなワールドクラスの肩関節外科手術書であり，多くの肩関節外科医にとってのバイブルとなると確信している．

2014年6月

菅谷啓之

発刊に寄せて

はじめに

編集・執筆者一覧

WEB動画の視聴方法

1 反復性肩関節脱臼に対する手術治療総論

2 反復性肩関節脱臼に対する基本手技としての鏡視下Bankart法

3 反復性肩関節脱臼に対する補強措置としての腱板疎部縫合および Hill-Sachs Remplissage

4 反復性肩関節脱臼に対するDAFF変法

5 ラグビー選手の反復性肩関節脱臼に対するBristow変法

6 ラグビー選手の反復性肩関節脱臼に対する鏡視下Bristow-Bankart法

7 反復性肩関節脱臼高度骨欠損例に対する骨移植術─後方アプローチから前方アプローチへ

8 肩腱板断裂に対する鏡視下肩峰下除圧術─適応と術式

9 後上方部腱板断裂に対する鏡視下手術

10 前上方部腱板断裂に対する鏡視下手術

11 一次修復不能な肩腱板広範囲断裂に対する大腿筋膜を用いた鏡視下パッチ法

12 一次修復不能な肩腱板広範囲断裂に対する小径人工骨頭置換術と肩甲下筋腱部分移行術

13 一次修復不能な肩腱板広範囲断裂に対する広背筋移行術─適応・術式・成績
Latissimus Dorsi Transfer for Irreparable Massive Rotator Cuff Tears

14 変形性肩関節症に対する術式選択
Shoulder Arthroplasty for Primary & Secondary Osteoarthritis ― When & How

15 変形性肩関節症に対する人工肩関節全置換術（TSA）①
Total Shoulder Arthroplasty for Primary Shoulder Osteoarthritis (1)

16 変形性肩関節症に対する人工肩関節全置換術（TSA）②
Total Shoulder Arthroplasty for Primary Shoulder Osteoarthritis (2)