周産期精神保健への誘い

  • ページ数 : 240頁
  • 書籍発行日 : 2015年11月
  • 電子版発売日 : 2016年7月8日
¥3,850(税込)
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商品情報

内容

注目の周産期精神保健的アプローチの実践書

周産期医療の目的は、種々の疾患あるいは障がいを抱える胎児やそれを持って生まれた赤ちゃんを救命することと同時に、生涯にわたって高いQQLが得られるようにすることである。
本書は、第1回日本周産期精神保健研究会の熱い思いをそのままに教育講演、シンポジウムおよび優れた要望演題を基にした、周産期精神保健的アプローチの実践書です。

>併せて読みたい『 周産期医療と生命倫理入門』はコチラ

序文

緒言

けいご君は二卵性双生児の弟であった。第12 生日に壊死性腸炎を発症した。腹壁は全体がはち切れんかりに暗赤色に腫脹し、レントゲン写真は腸管壁内ガス像、フィックスドループサインと非対称の腸管拡張像を呈し、開腹所見では広範囲の壊死性変化と壁内ガス像を認めた。これら所見も臨床経過も教科書的な極低出生体重児(出生体重1,008g)の壊死性腸炎であった。極・超低出生体重児の壊死性腸炎は初めてであった筆者は病院に泊まり込んで、新生児科の先生方とけいご君の治療にあたった。苦労の甲斐があって生後10 カ月で、短腸症候群にもならず退院にこぎつけた。そして新生児科で外来フォローされているけいご君を時々診せていただいていたが、双子の姉は丸々と肥えていたのに、けいご君は少しも大きくならなかった。病気のせいだと思っていたが、しばらくしてから新生児科の担当医から、けいご君は母親から虐待を受けているので施設に預けられたと聞かされた。何が悪かったのだろうか? 誰か悪いことをしたのだろうか? 否、誰も何も悪いことはしていなかった。ただ、みんなが無知なだけだったのだ。後日、新生児疾患を持っていることも、新生児期の長期入院も母児分離も、乳児期早期の発達の遅れもすべて、親からの虐待の危険因子であることを知った。

周産期医療の目的は、種々の疾患あるいは障がいを抱える胎児やそれを持って生まれた赤ちゃんを救命することと同時に、生涯にわたって高いQOL が得られるようにすることである。筆者らは出生体重1,000g の壊死性腸炎症例を救命することと短腸症候群を防ぐことだけに神経を集中していて、高いQOL を得ること、即ちけいご君の幸せとは何かを考えることを忘れていたのだ。この体験は、新生児外科を専門とする筆者に大きな教訓を与えてくれた。

平成22 年の第46 回日本周産期・新生児医学会で筆者は3 つの最重要テーマを設定し、一日1 テーマをシンポジウムとして午前の第一会場で、同時進行のセッションなしで取り上げた。「出生前診断と生命倫理」「SGA の病態と予防」と並んで「周産期からの虐待予防」をその最重要テーマの一つとした。周産期医療は出生前診断が前提となると言っても過言ではないが、小児外科疾患を例に取ればその7 割以上が出生前診断されるようになった今日、出生前診断に関わる生命倫理は周産期医療そのものの意味を問う重大な課題となっている。一方、重症疾患症例が周産期医療の進歩と担当医の献身的な努力によって救命され、良好な機能が温存されて退院したとしても、家で待っているのが親からの虐待だとしたら周産期医療の進歩と担当医の献身は一体何かという強い思いがあり、周産期医療における親の精神的サポートの必要性を痛感していた。これらのことが上記学会で「出生前診断と生命倫理」と「周産期からの虐待予防」を最重要課題とした理由である。

そんな折、新生児科医の堀内 勁先生、周産期専門の臨床心理士の橋本洋子先生が発起人となって周産期精神保健研究会を立ち上げるという話を耳にした。筆者は一も二も無くこれに参加した。当初、年2 回地方セミナーという形で、それぞれにテーマを決めてセミクローズの研究会が開催されていた。一方、より多くの胎児・赤ちゃんと家族にこの研究会の成果を享受してもらうためには全国規模の研究会が必要であると考え、第5 回地方セミナーが近畿で開催されることになったのを機に全国規模の研究会として第1回日本周産期精神保健研究会を平成25年11 月に大阪で開催した。耳慣れない「周産期精神保健」とは一体何をめざし、どう実践すべきかを知っていただくために、四つの教育講演、一つの特別講演と会長講演を企画した。教育講演のテーマは、「周産期医療と精神保健の出会い」(堀内 勁)、「周産期医療の場にこころの視点を」(橋本洋子)、「虐待死から考える周産期精神保健〜月齢1 ヶ月をむかえられないこどもたち〜」(宮本信也)および「周産期医療から学んだあたたかい心の意味するもの」(仁志田博司)であった。特別講演は、臨床哲学・心理学者で『「聴く」ことの力』の著者の鷲田清一先生に「聴くことの意味」をお話しいただいた。また、シンポジウムは、想定事例を元に多職種の医療従事者がいかに周産期精神保健に関わるか、言い換えると胎児・赤ちゃんと家族の心の健康をいかに支えるかをテーマにした「周産期精神保健〜私たちにできること〜」と、過去5 回の地方セミナーをもとに「周産期精神保健研究会の実践とこれから」の二つを企画した。要望演題は「多職種が関わった事例」とした。研究会は第1 回目であり、知名度は低かったはずにも拘わらず600 人に達する多職種の人たちの参加を得て、会場は熱い熱気に包まれた。周産期医療に精神保健的アプローチが必要だと感じていた人たちがいかに多いかということの証左であった。

本書は、その第1 回日本周産期精神保健研究会の熱い思いをそのままに教育講演、シンポジウムおよび優れた要望演題を基に、周産期精神保健的アプローチの実践に役立つことを目的に企画したものである。

ちなみに、第46 回日本周産期・新生児医学会のもう一つの最重要課題「出生前診断と生命倫理」は『周産期医療と生命倫理入門』(メディカ出版、2014)にまとめ刊行した。

和歌山県立医科大学第2 外科学長特命教授

窪田昭男

目次

・緒言

・執筆者一覧

【第1章 周産期精神保健がめざすもの】

◆1 周産期から学ぶあたたかい心

◆2 親子の物語とNarrative Based Medicineと

◆3 周産期医療と精神保健の出会い

◆4 周産期医療の場にこころの視点を

◆5 虐待死から考える周産期精神保健

◆6 精神科医からみた周産期精神保健

【第2章 親子の物語がはじまる時 私たちにできることは?】

◆ 想定事例

◆1 18トリソミーの子どものいのちを支える-患者会の立場から

◆2 母と子の繋がりを守る医療技術を提供する-産科医の立場から

◆3 妊婦の健康を支援する-助産師の立場から

◆4 ともに喜び、ともに悲しむ-新生児科医の立場から

◆5 個別的ケアをチームで支える-NICU看護師の立場から

◆6 「こころの視点」を守り「つながり」を支援する-臨床心理士の立場から

◆7 外科的治療が必要な場合の配慮-小児外科医の立場から

◆8 「日々の暮らしと育児」の安心を届けたい-地域保健福祉センター(行政)の立場から

◆9 社会福祉の立場から、生活の営みを支える-MSWの立場から

◆10 新生児・乳幼児期のリハビリテーション-理学療法士の立場から

◆11 その人らしい、その家族らしい、納得のいく選択と適応を助ける-臨床遺伝専門医の立場から

◆12 「生きることを支える」ということ-第1回日本周産期精神保健研究会を通して感じた想い

【第3章 周産期精神保健の実際】

◆1 多職種連携ことはじめ:骨形成不全の一事例を通して

◆2 胎児が疾患を合併した周産期において、多様な支援により肯定的になった一例

◆3 多職種による「小児在宅支援プログラム」の事例:家族から学ぶ

◆4 うつ病合併妊娠・多胎である特定妊婦への関わり

◆5 虐待ハイリスクと考えられたが、多職種で連携し、自宅での育児を支援した事例

◆6 超低出生体重児への多職種による家族支援

◆7 母児関係構築に困難を来した事例への多職種の関わり

◆8 在宅維持期における多職種連携の課題:在宅人工呼吸器を必要とする重症心身障がい児の事例より

◆9 養育困難事例に対する多職種連携による円滑な支援体制の構築

◆10 震災後に思いがけない出産を経験し、子どもとの新たな人生に踏み出した一事例

◆11 新生児仮死における家族支援:チーム医療をめぐる倫理的課題

◆12 地域の在宅支援につながり、NICUから在宅に移行できた事例

【第4章 周産期精神保健の窓を通して】

◆1 胎児緩和ケア

◆2 "周産期advance care plan"の構築を目指す当院の試み

◆3 周産期のグリーフケア

◆4 周産期における社会的対応の重要性:ハイリスク特定妊婦と精神保健

◆5 在宅移行支援に向けて:子どもと家族の心理・社会的な橋渡し

◆6 新生児科医が周産期精神保健に求めてきたもの

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書籍情報

  • ISBN:9784840454674
  • ページ数:240頁
  • 書籍発行日:2015年11月
  • 電子版発売日:2016年7月8日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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