特集編集にあたって

心臓は血液を全身に送り出し， 末梢の組織で二酸化炭素を回収し， 肺でガス交換を行うというポンプ機能をもちます． しかし， 何らかの障害によりその機能が破綻した心不全で， 内科的治療では循環を維持できないほど重篤な場合に， 心臓のポンプ機能や肺機能を代替するのが体外循環です．

体外循壊にはさまざまな種類があります． 循環もしくは， 循環と肺機能を補助·代替するものが一般的でしたが， 近年はわが国でも重症呼吸不全に対する VV ECMO (extra­corporeal membrane oxygenation : 体外式膜型人工肺）が積極的に行われるようになってきましたまた， 一部の施設では， 重症心不全に対する治療や心臓移植への bridge として， 補助人工心臓 (ventricular assist device: VAD) が選択されるようになってきました．そのほかに代表的なものとしては， 圧補助の大動脈内バルーンパンピング (intraaortic balloon pumping : IABP), 流置補助の経皮的心肺補助装置 (percutaneous cardio­pulmonary support : PCPS) があります． 本書では， 心臓のポンプ機能の改善を体外から補助するという点で， 重症心不全患者に対するペースメーカ治療の一つである心臓再同期療法 (cardiac resynchronization therapy : CRT) も含めています．

体外循環に用いられる機器はどれも複雑な医療機器です． 体外循環によって生命を維持している患者は， 心臓のポンプ機能だけでなく， さまざまな重要 臓器も障害されています． 集中治療領域の看護師は， そのような重症患者の生活の質と機能を維持•向上するためのケアを実践します． また， 体外循環の管理は看護師だけではできません． 医師や臨床工学技士， 患者の状況によっては理学療法士などの他職種との連携が必要です． とくに体外循瞑施行中の早期離床には， 実施可能かの判断から安全な離床まで多職種の密な協力関係が重要になります． 安全かつ患者にとって必要なケアを選択するための臨床判断には， 共通意識をもって多職種と協働することが重要ですが， それには体外循壊に関する知識は不可欠です．

本書は， 体外循環施行中の患者をケアするために必要な各機器の基本的な知識， 臨床判断 に欠かせない管理のポイント，さらにケーススタディを通して実際の看護ケアの方法を学ぶことができます． 執筆には， 体外循爛の臨床現場でこ活躍されているエキスパー トの方々に協力していただきました． 本書が， 体外循環管理に携わる方々の一助になれば幸いです．

山中源治（榊原記念病院 看護部主任）、道又元裕（杏林大学病院 看護部部長）