IDストレッチング(individual muscle stretching;個別的筋伸張法)初版を出版してから早くも約7年が経過した.おかげさまで,初版は医療職のみならずスポーツ関係者の方々にも愛読され,利用していただいている.その間,IDストレッチングは臨床での経験や各地で指導しながら気づいた点について検討し改良を加え,今回,三輪書店のご好意で第2版を出版させていただくことになった.
第2版の特徴は,①IDストレッチングの理論的背景を加筆したこと,②IDストレッチングの効果をより高めるため,疼痛抑制法を加えたこと,③IDストレッチングの対象とする筋を増やしたこと,④IDストレッチングの方法を改善したこと,⑤各筋のイラストを加えたこと,⑥IDストレッチングの効果をより持続するために,ホームエクササイズとしてのアクティブIDストレッチングを一部紹介したこと,などである.
IDストレッチングが軟部組織を中心とした慢性的な疼痛に対する治療法の一つとして利用されていることは嬉しい限りであるが,それ以上に理論的背景を理解しながら,疼痛を軽減あるいは消失させ,関節可動性の改善,パフォーマンスあるいはQOLの向上などの効果を実感できる人たちが増えたことは喜ばしい限りである.
軟部組織由来の疼痛は,今まで軽視されがちであったが,2000年から始まった「運動器の10年」世界運動と同時期に米国議会で決議された「痛みの10年」の各運動により,軟部組織由来の疼痛が大きく注目されている.一方で,神経生理学分野での痛み領域の研究は目覚ましく発展しており,軟部組織治療の理論的背景がさらに確実になると思われる.
慢性的な疼痛は神経因性や心因性のものを除くと,画像や検査値で判断できる疾患自体の病理学的変化が直接関与する場合,疾患自体の病理学的変化に重複し,画像などでは判断できない軟部組織の機能的変化が原因とする場合,軟部組織の機能的変化単独により発生する場合が考えられる.軟部組織の機能的変化は,画像で捉えることができないため,その評価には問診・触診・運動検査が非常に重要となる.これらの評価の精度を高めるためには,解剖学・神経生理学などの基礎知識が必要である.関節可動域や筋力などの低下がみられた時,その改善策として骨頭の動きや運動負荷に直接結びつけるだけでなく,関節の動きを制限している要因あるいは筋力が発揮できない要因について評価することが重要である.
読者の皆様がIDストレッチングの方法を本書により習得され,保健・医療・福祉領域あるいはスポーツ領域で活用されることを望むが,それ以上に,本書の内容を職場の上司や同僚にも理解していただき,治療法の一つとして用いるためには,解剖学・神経生理学などの基礎知識に精通し,疼痛抑制や筋伸張の理論的背景を第三者に説明できることがさらに重要であると考える.このことにより,本書に提唱させていただいている方法を一つの基礎として,自分自身の治療方法が生まれてくるものと考える.
軟部組織の治療は,まだまだ発展段階にある.多くの方々がこの領域に興味をもっていただき,理論的背景を基礎として,互いに議論することにより,より軟部組織の治療が発展し,痛みやパフォーマンスの低下に苦しみ,その結果,QOLが低下している人々に対して,少しでもお役に立つことができれば,望外の喜びである.
最後に,第2版の出版に多大なご理解とご協力をいただいた三輪書店・青山 智氏,濱田亮宏氏,幾度ものイラスト修正に快く応じていただいたイラストレーター・中野朋彦氏,写真撮影にご協力いただいたカメラマン・酒井和彦氏,モデル・木下芳美さん,快く撮影現場を提供していただいたユマニテク医療専門学校長・浅井友詞先生,そして,いつも陰ながら応援してくれている家族に感謝いたします.
2006年 2月
鈴木 重行