第2巻の序
この『プライム脳神経外科』シリーズは,これまでにないユニークな方針で編集されています.ひとつには図を多用して,視覚的にわかりやすい本を目指しています.イラストの質にはとことんこだわり,タッチや色使いまで事前に吟味して統一した方針で描画しています.手術記録を描く時に,例えば手術動画をキャプチャして,ある場面を見えるままに記録しても,多くの場合手術の内容はよくわかりません.手術記録を描くとは,様々な場面をつなぎ合わせて,わかりやすいように頭の中でシェーマ化して構成されたものを提示することになります.本書でも,そのようなシェーマ化されたイラストを多用しています.一方で,文章は簡潔を旨として箇条書きを中心に構成されています.手術の前に本書をパラパラとめくり,頭にイメージをたたき込んで手術に臨むような使い方を想定しています.また,執筆陣も臨床の最前線で活躍している将来の脳神経外科を担う第一級の若手脳神経外科医を起用して,教科書的で網羅的なものでなく実践的でポイントを押さえた技術書を目指しています.
さて,第2巻では「脳虚血」をテーマとしています.脳虚血の手術手技のカテゴリーを見れば,極論するとバイパス術と頚動脈内膜剥離術(CEA),血管内治療ではステントと血栓回収となり,一見バリエーションは少ないのですが,いくつかの工夫を加えることにより内容に厚みを増しています.ひとつには,総論的な事項や内科的治療についても取り上げました.また,手術手技には流派のようなものがありますので,ひとつの手技でも複数の執筆者にお願いし,なるべく多くの方法が学べるようにしています.
内容構成としては,まず総論的事項として,第Ⅰ章と第Ⅱ章に脳虚血の病態と診断についてまとめてあります.次いで頭蓋内血行再建術の手技として,STA─MCA anastomosis,OA─PICA anastomosis,STA─SCAバイパス術,もやもや病の間接血行再建術を取り上げています.頚動脈病変の治療としてCEAと頚動脈ステント留置術(CAS)の治療選択を述べていただいた後に,まずCEAの基本手技やその応用,術中モニタリングと術中診断,術後過灌流障害の対策について解説していただきました.次いで,CASについて,ステントの種類と使い分けについて解説していただいた後に,PRECISEⓇ,PROTÉGÉTM,Carotid WALLSTENTTM MonorailTMEndoprosthesis など実際のデバイスの使い方を紹介しています.さらに,プロテクションデバイスについてもその種類と使い分けにはじまり,FilterWireⓇ EZ,SpiderFXTM,CarotidGUARDWIREⓇ,Mo.Ma UltraTM,OPTIMOTMの使い方について解説していただきました.ステントについては術前後の治療も大切ですので,周術期抗血栓療法,ステント血栓症とプラークシフトについても取り上げています.
近年,デバイスの進歩が著しい急性期脳梗塞の血管内治療についても,まず,血栓回収デバイスの適応と各方法の使い分けについて解説した後に,PenumbraⓇ,SolitaireTM,TrevoⓇなど実際のデバイスの使い方について解説していただきました.頭蓋内動脈の狭窄の治療として,頭蓋内動脈ステント留置術(WingspanⓇ)とballoon PTA(GatewayTM,UNRYUTM)を取り上げました.最後に,内科的治療法についても取り上げ,急性期と慢性期の抗血小板療法や抗凝固療法をそれぞれ解説していただきました.
末筆になりましたが,ご多忙にもかかわらず,快く御執筆をお引き受け下さいました著者の皆様にこの場をお借りして厚く御礼を申し上げます.また,本書の編集を担当していただいた三輪書店の久瀬様に感謝申し上げます.本書が皆様の日常診療に必須の一冊となることを願っています.
2017年8月
東京大学 脳神経外科
斉藤 延人