臨床動作分析―PT・OTの実践に役立つ理論と技術

  • ページ数 : 432頁
  • 書籍発行日 : 2018年5月
  • 電子版発売日 : 2020年1月17日
¥6,600(税込)
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商品情報

内容

基本概念は、〝治す“ではなく、〝運動学習”。
①生態心理学の知見、②動作や神経系の階層構造、③臨床を融合させた、最新のリハ技術


生態心理学的な考え方の導入で、われわれのアプローチは患者を〝セラピストが治す”という考えから、患者が能動的に活動して自分の身体を知り、環境を探索して知覚することで環境に適応した動作の仕方を見つけ出すことを誘導・援助する、つまり、〝動作の学習を支援する”という方向に大きく転換した。しかも、生態心理学的な考えの導入により、意識した認知的な動作の学習だけではなく、意識できない無自覚なレベルでの運動や動作の学習の必要性も明確に捉えることができた(略)。
身体と重力、支持面の関係を重視するクラインフォーゲルバッハの運動学と生態心理学的な概念はきわめて相性がよく、われわれの治療技術の工夫・改善に大きな力となった。
(冨田昌夫氏、『序文』より)

序文

理学療法士として常に感じていることがある.それは,トータルしてもたかだか40年という活動期間でかないのに,アプローチに対する患者の反応が大きく変化しているということである.ある時期はアプローチがうまくいき,自分がやればどんな患者でもよくなると有頂天になったことがいく度もあった.しかし,それがしばらく続くと,いつの間にかなぜか思うような変化が引き出せない患者が多くなってしまう.同じように働きかけているのに手応えがなくなり,治療効果も少なくなってしまうのである.患者の動作能力が変わる手応えを感じ,充実した治療が行える時期,頑張っても,頑張っても変化しない患者をどうしようと悩み,くやしい思いばかりしている(壁にぶち当たる)時期を繰り返し,そのつど,壁をぶち破りながらいまに至っているというのがセラピストとしての実感である.そして,いまも不安や恐怖のため自分の持っている動作能力を十分に発揮することができない患者をどうすればよいのか,大きな,大きな壁にぶち当たってもがいている.

幸いなことに,筆者はスイスで働き,病院に併設された卒後教育センターで理学療法に関する多くの知識,技術を学ぶことができた.帰国後もすばらしい上司に恵まれ,筆者と同じように臨床に夢中になり,臨床を通して喜びや悩みを感じる多くの仲間に巡り合い,「臨床動作分析研究会:どぶ研」というグループを作ることができた.どぶ研では頭でっかちにならずに,実際に身体を動かすことでセラピストに必要な身体を作り,患者と一緒に動く誘導の技術を工夫し,伝え,学ぶという臨床に密着した活動を続けることができ,いまもまだ続いている.壁にぶち当たっても,グループの勉強会で知恵を出し合い,実際に身体を動かしながら議論を繰り返すことでなんとか乗り越えてこられたと思っている.

本書にて上西啓裕氏,池田吉邦氏に紹介いただいているとおり,スイスから帰国した後,数年の間は運動学的,運動力学的に動作を分析,クリニカルリーズニング(臨床推論)に基づいたクラインフォーゲルバッハの運動学を応用した,動作能力改善を目的とした治療からスタートした.現在では運動機能だけを評価治療するのではなく,ストレスや痛みの不安,転倒・転落の恐怖といった無自覚に引き起こされる自己防衛,自己保存の反応への対応と自己報酬系への働きかけをメインとした,治療的に運動の学習を促す情動・報酬系へのアプローチへと変遷してきている.変遷したといっても,どれかを否定して変わったのではなく,患者の重症化,高齢化や患者を取り巻く環境が病院完結型のリハビリテーションから地域完結型のリハビリテーションへと移行する過程での,治療対象の幅の広がりや入院期間の短縮に対応するための変遷である.ベースはクラインフォーゲルバッハの運動学におきながら,壁にぶち当たるたびに徐々に進化してきた.

自分たちの行った治療の効果をどのように評価していくか,これはわれわれにとってきわめて重要な課題であるが,われわれはリハビリテーション工学関連のスタッフから多くの支援をいただいた.彼らとの活動を通して,動作分析や治療を進める際に運動学的な分析にとどまらず,運動力学的に分析,治療する習慣が身についたと感じている.重力と支持面の関係をきちんと捉えながら,患者の治療を展開するクラインフォーゲルバッハの運動学を実践していくうえで大きな助けとなった.

作業療法士とのかかわりから運動療法室での変化を生活場面に落としこみ,生活場面でのニードを拾い上げ,より広い視野で患者に向き合えるようになったと考えている.作業療法士とのかかわりを通して,「どぶ研」の進む方向がバイオメカニカル一辺倒ではなく,環境への適応を促し,自立した生活を促進するために生態心理学的な概念をとり入れる方向へと大きく舵を切るきっかけとなったのである.

生態心理学的な考え方の導入で,われわれのアプローチは患者を"セラピストが治す"という考えから,患者が能動的に活動して自分の身体を知り,環境を探索して知覚することで環境に適応した動作の仕方を見つけ出すことを誘導・援助する,つまり"動作の学習を支援する"という方向に大きく転換したのである.しかも,生態心理学的な考えの導入により,意識した認知的な動作の学習だけではなく,意識できない無自覚なレベルでの運動や動作の学習の必要性もあるということを明確に捉えることができた.生態心理学の先生方とは「リハビリテーションと生態心理学の融合研究会」を組織し,現在も活動している.

そして,嚥下障害の治療で耳鼻咽喉科とのかかわりを通して発生・発達学的な概念の重要性も強く認識できるようになったのである.身体と重力,支持面の関係を重視するクラインフォーゲルバッハの運動学と生態心理学的な概念はきわめて相性がよく,双方を連携させることで,われわれの治療技術の工夫・改善に大きな力となっている.

すべての動物に共通した生態学的な環境への適応という概念は,すでに述べたように,人にとってもたいへん重要なことである.しかし,人には人特有の社会的な生活がある.クラインフォーゲルバッハの運動学と生態心理学的な発想を土台にしながらも,人間特有の問題を避けてしまっては患者の治療はきわめて偏った,限られたものになってしまう.現在は下條潜在脳機能プロジェクトの発想や脳低温療法開発者,林成之氏の発想,そして,木村晃久氏のループ,マルチモーダルな知覚の連携の知見をとり入れて,大脳辺縁系や大脳基底核,そしてドーパミン神経群の働きや情動系,報酬系の働きを考慮した治療的な運動学習を促すアプローチを工夫,発展させている.

今回は,これまでの経緯を振り返り,われわれが応用している知識や技術を整理するだけでなく,患者へのアプローチに関しても具体的にわかりやすくまとめてみたい.アプローチに対する基本概念は,治すのではなく,運動学習と捉えることである.アプローチを運動学習と捉えれば,回復にみられる変化の過程には進化(系統発生),個体の発生・発達の過程を応用できる.発達はできないことをやるのではない,ちょっと努力すればできることに,興味や意欲を持って,繰り返し挑戦し続けることで新しい機能を生み出していく過程である.どうやればできるかイメージし分析的に行うのではない.そのとき可能な動作で知覚循環

し,感覚調整的に動作を生み出す(自己組織化する)のである.

われわれは学習を発達的な学習だけでなく,大きく2つに分けて考えている.

1)発達的な学習である.生態学的環境で,情動的な価値観に基づいた定位や生きるための文脈が強い動作を体験的に習得する(暗黙知・実践知に基づいた生きるための動作の学習)

2)社会的環境で自分の信条や趣味,宗教,道徳など生態学的環境で生きるというよりは,社会的にいかに生きるか社会的価値観や文脈が優位な動作や行為の学習(認知に基づいた日常動作や行為の学習)

生きるための動作は系統発生的に学習した過程で,個体はそれを形成し直しているだけである(ボトムアップ的に行われるもので,個体の意図や能力で学習の方法が容易に変えられるものではない.一度できるようになると,その後は通常トップダウン的に行う).社会的な行為の学習は意図的に行う学習で自分の知識や価値,イメージに基づいてトップダウン的に行う通常健常者が行っている運動学習である.

生きるための動作の学習,行為の学習をどのように治療の中で展開していくか考える過程で避けて通れなくなったのが,動作や神経系の階層性(階層構造)という発想である.いままで何気なく使ってきた「動作」という言葉であるが,今回は基本動作と日常動作を明確に分けて考えることにする.また,ほかの動物と違う「人」の治療では,情動系,報酬系(情動・報酬系)に対するアプローチの重要性もいままで以上に強調している.認知系と情動系を協調させるシステムを検討し,治療に取りこむためにはどうしても生きるための恒常性維持機能(ホメオスターシス)や自己保存の反応,自己防衛反応から考え,多くの無自覚な機能(潜在認知)について考慮しなければならなくなった.われわれが当然のこととして教わってきた認知できること,意識できること(顕在認知)がわれわれの行動の基本になっているという考えそのものに疑問を投げかける結果にもなってきた.

このようなとてつもなく大きな壁に向かって,それでも前に進みながら,現在の到達点をみていただき,多くのご意見をいただけることを期待している.本書では壁にぶち当たるというコラムも準備した.誰にでも起こるいき詰まり,これを感じて悩んだとき,われわれの仲間は何をして,どのように乗り越えたのかを知っていただくことは,きっと皆さんを勇気づけてくれるものと確信している.

最後になりましたが,三輪書店編集室の小林美智さんには,遅れる原稿を忍耐強く待っていただき,未完成なものを根気よく整理,修正してなんとか出版までこぎつけていただきました.まだ1冊の本として筋の通らないところを残しながらも完成できましたことに深く,深く感謝申し上げます.


2018年4月吉日

編者を代表して 冨田 昌夫

目次

序文

第Ⅰ章 実践的評価 治療の理論と解釈

1 壁を破る ! ループという発想

2 皮質との関係―脳の中のループ回路

3 行為との関係

4 クラインフォーゲルバッハの運動学の治療的応用

1.姿勢・動作の理解と観察の視点

2.パーキングファンクション(構えと知覚)

3.ダイナミックスタビライゼーション

4.運動様式(ブリッジ・テンタクル, 運動の拡がり)

5.バランス活動

5 生態心理学・アフォーダンス

第Ⅱ章 実践的評価 治療

1 壁を破る ! ループという発想

1 基本動作の持つ意味―動作の階層構造に秘められた身体性

2 動作分析の目的と動作の捉え方

1.探索活動と治療的誘導

2.6つの「みる」―同調への手がかり

3.身体間コミュニケーションの経験と練習方法

4.プレーシング

3 姿勢と移動動作

1.背臥位

2.寝返り動作

3.起き上がり動作

4.座位姿勢

5.立ち上がり動作

6.歩行

4 応用動作分析―活動への介入技術

第Ⅲ章 実践例 疾患別 事例別アプローチ

1 壁を破る ! ループという発想

1 典型的な運動機能障害の片麻痺患者への知覚循環に基づいたアプローチ

2 Pusher syndromeを呈した左片麻痺患者の治療介入 ―知覚循環に基づいた運動機能障害へのアプローチ

3 脳卒中片麻痺―知覚循環に着目した立位姿勢へのアプローチによる歩行改善

4 外傷性脳損傷―主観性を視野に入れた臨床動作分析

5 高次脳機能障害―脳外傷による発動性低下を伴った四肢麻痺者へのアプローチ

6 頚髄損傷―C4頚髄損傷者に対するアプローチ再考

7 頚髄損傷―知覚循環に基づいた運動機能障害へのアプローチ

8 在宅C4頚髄損傷者の姿勢調整方法の検討

9 四肢切断―ADLアプローチと二次障害の予防

10 骨折―自分なりの運動を自己組織化するためのアプローチ

11 変形性股関節症―人工股関節全置換術後患者に対する治療的誘導について

12 膝前十字靭帯損傷―床上動作を通じた下肢と体幹の協調活動の促通

13 変形性股関節症―運動の拡がりを捉える

14 関節リウマチ―体幹の動的安定性を基盤とする動作の獲得

15 摂食嚥下障害―気づきを促す環境設定により,長期的に嚥下機能の改善がみられた症例

16 めまい―基礎的定位から空間定位を促した両側前庭機能障害例

17 認知症―基本動作からのアプローチ

第Ⅳ章 壁にぶち当たったときの体験

1 壁を破る ! ループという発想

1.「想い」―いまがあるのは冨田先生との出会いがすべて

2.「している動作」に向けて

3.大切なのは守・破・離と原点回帰

4.諦めず続ける!!

5.仲間と継続は力なり

6.もう1つの視点で診てみること

7.病棟との連携―褥瘡予防の観点から

8.「6つのみる」による変化

9.機器操作スイッチのフィッティング―神経難病の事例から

10.自分が変わり, 相手が変わる

第Ⅴ章 まとめ

1 壁を破る ! ループという発想

本書のまとめ

あとがき

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書籍情報

  • ISBN:9784895906265
  • ページ数:432頁
  • 書籍発行日:2018年5月
  • 電子版発売日:2020年1月17日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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