まえがき
2008年4月から、特定健診・特定保健指導制度が始まりました。この健診制度は、いわゆる生活習慣病の発見ならびに生活指導による予防を目的としています。最近は、この生活習慣病はもとより、メタボリックシンドロームという言葉が国民に広く浸透してきています。
メタボリックシンドロームは、日本内科学会や関連学会から診断基準が発表され、ウエスト周囲径(男性85cm以上、女性90cm以上)、脂質代謝異常、高血圧、空腹時高血糖のうち、2つ以上を満たすものとされています。
また、メタボリックシンドロームは心血管疾患、糖尿病、腎臓病などを発症するリスクが高いといわれており、なかでも糖尿病や慢性腎臓病が進行すると、その結果腎不全をきたし、ひいては人工透析を余儀なく受けざるを得なくなります。
そこで国は政策として、国民が特定健診の受診とすみやかな特定保健指導を受け、メタボリックシンドロームを予防することを推奨しています。
さて、現在、透析療法を受けている患者は全国で25万人おり、毎年1万人以上の透析導入患者がおります。その背景には、糖尿病患者の急激な増加が影響しています。糖尿病患者は推計で約700万人ともいわれています。糖尿病は合併症として心血管障害や脳血管障害の発生の増加、やがて腎機能障害の進行を招き、先に述べたように結果的に透析療法を受けなければならない患者が増えています。
本書では、透析療法(血液透析・腹膜透析)を受ける患者の看護について、透析の基礎知識から生活指導までを写真と図表をふんだんに活用し、具体的にわかりやすく説明しています。
特に腹膜透析は、日本では導入している病院は多くないようですが、当院では積極的に導入しており、その実際についても詳しく説明しています。
さらに当院では腹膜透析に関する院外からの研修生を受け入れるために「研修プログラム」を作成し、それに基づいて、現在研修を実施しています。
本書を通して、透析療法の理論・技術を理解していただくことはもちろんですが、それだけではなく、慢性期の患者さんのQOLをいかにしたら高められるかについても一緒に考えたいと思います。
糖尿病や慢性腎不全の患者、透析療法を受けている患者にとって、厳しい食事療法はついてまわりますが、それによる精神的・身体的苦痛は計り知れないものがあります。ゆえに、私たち医療従事者にとって、患者のQOLの向上に向けた取り組みも重要な課題 であります。
本書は、こうした患者の「QOLの向上」を基本コンセプトとして構成しています。
QOLの向上を図るには、患者・家族に対する指導と患者本人のセルフケアが欠かせません。聖路加国際病院では「そらまめ塾」という集団生活指導会を開催しております。
「そらまめ塾」は、慢性腎不全と上手に付き合っていくために必要な自宅での管理方法について、4回シリーズで実施しています。
講義の内容は「腎臓のしくみ」と「腎臓を守る実践」を2本柱としています。「腎臓を守る実践」では、"血圧測定"、"塩分・カリウム管理"、"薬の飲み方"に焦点を当て、医師・看護師・栄養士・薬剤師それぞれが専門的立場から具体的な内容を提供しており、受講されている患者・家族から評価をいただいております。
以上、本書の主な内容と特長について紹介いたしました。皆様にぜひともお目通しいただき、透析看護の実用書として活用していただければ幸いでございます。
最後になりますが、本書作成にあたり多大なるご協力とご指導をいただきました株式会社インターメディカ社長の赤土正幸様、同編集長の小沢ひとみ様に心から感謝申し上げます。
2008年4月吉日
佐藤エキ子