まえがき
日本人の平均寿命(2016年)は、男性が80.98歳、女性が87.14歳と、世界に類をみない長寿国であることはご周知の通りです。リンダ・グラットンの「ライフ・シフト」(東洋経済新報社)によると、2007年に生まれた日本の子どもたちが107歳まで生きる確率が50%で、アメリカ、イギリス、ドイツを引き離し、日本は健康寿命が世界一と言っています。つまり、わが国は健康な高齢者が多く、「人生100年」時代が近未来でなく、現実であることも研究により明らかになりました。
一方、わが国の人口をみると、2007年には5人に1人が65歳以上でしたが、2015年では人口の3.8人に1人が65歳以上、7.9人に1人が75歳以上となり、2025年には団塊の世代すべてが75歳以上、全人口の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上となり、日本は世界に誇るべき超高齢社会が到来する時代となります。
超高齢社会では、前述した健康な人々の割合が減り、病気やけがの頻度が高くなります。そこで、これまでのように病気やけがの治療は「病院完結型」時代から、完治せずとも自宅で治療やリハビリテーション支援が受けられる地域完結型の「地域包括ケアシステム」へとシフトしています。その人らしく生きる生活を支えるためには、整形外科を対象とする運動器(骨・関節・筋肉・神経等の総称)の維持が、もっとも基本になると言えます。
整形外科看護には、時代の変化をキャッチし、住み慣れた地域(自宅)で「その人らしく生活できること」を支援する役割があります。これまで、臨床における整形外科の看護師は、病院内での治療中心の看護技術として整形外科看護を捉えていた傾向が強かったようですが、これから「人生100年」を生き抜く人々を支援するためには、社会学的な視点から高齢者の居住環境や人間工学、地域環境などをアセスメントした上で、社会的支援を加味することが重要と考えます。昨今、体力が低下し、外出する機会が減ると心と身体の動きが弱くなる状態をフレイル(虚弱)と呼びます。フレイルを予防するためには、地域に存在する多くの専門職と連携しながら、早期に退院後の生活に目を向けた総合的な支援体制の整備・構築が急務です。近未来の看護職には、すべての専門職のコーディネーター「かかりつけ看護師(保健師)」の役割が期待されています。
人類の文化の発展は、その時々の問題や課題に即応すべく、努力と発展により歴史を変えてきました。整形外科領域においても、今こそ、社会の動向や求めに柔軟に対応し、介護士・整復師・鍼灸師などと連携を深め、一人ひとりの患者の安楽に目を向けていく必要があります。超少子超高齢時代の変化の中で、時代に即した整形外科看護の存在意義は、子どもから超高齢者まで、人々の「健康」を支えるために、従来の病院での専門性に加えて、より広範囲で切れ目のない看護・介護の実践、訪問リハビリテーションの需要がますます増大していくことでしょう。「写真でわかる整形外科看護 アドバンス」では、これまで以上に写真の大きさや配列、他職種が見ても理解できるよう手順に配慮しながら、専門知識をよりわかりやすい言葉で解説しています。また、学生や新人看護師が正確に安全に実践できるよう、DVDを繰り返し視聴して追体験できるよう構成を考えています。
最後に本書の制作、撮影に快くご協力いただきました、春日部市立医療センター看護部、整形外科病棟のスタッフの皆様をはじめ、整形外科の横井隆明先生、鱒渕秀男先生、リハビリテーション科の皆様、退院支援センターのケースワーカーの皆様方のご支援に、厚く御礼申し上げます。また、整形外科看護のさらなる深化とチーム医療の発展に向けこのような機会を与えていただいた、インターメディカの赤土正幸社長、赤土正明編集長、撮影スタッフの皆様のご支援、ご協力そして熱意で本書が完成できましたことに、執筆者を代表し、心から感謝を申し上げます。
平成29年12月吉日
山元 恵子