はじめに
2005年10月に故 村上美好先生監修のもとに初版刊行された『写真でわかる急変時の看護』の内容を改訂し、新シリーズ『写真でわかる急変時の看護アドバンス』として再編集したのは、2017年1月のことでした。今回、新たに「気管挿管の準備と介助」の章を加えた改訂第2版を刊行しました。
2005年の「心肺蘇生と緊急心血管治療のための科学と治療の推奨に関わる国際コンセンサス(CoSTR:International Consensus Conference on Cardiopulmonary Resuscitationand Emergency Cardiovascular Care Science With Treatment Recommendations)の公表以来となる、2回目のガイドライン改訂が、2015年にありました。
いままでのガイドライン改訂と大きく異なり、世界同時発表で、さらに日本語版も日本蘇生協議会(JRC: Japan Resuscitation Council)のガイドライン作成委員会が「救急蘇生のためのガイドライン」をオンライン発表しました。これは素晴らしいことであり、ガイドライン作成作業に関わった皆様のご努力に敬意を表したいと思います。
本書の内容は、国際コンセンサスおよび日本語版の公表の時期に合わせて今後も改訂を行い、最新のコンセンサスにもとづいた書籍とする所存であります。
2015年に保健師助産師看護師法が改正され、特定行為研修がスタートしました。業務独占や名称独占はありませんが、医師が行う行為を看護師が教育を受けて実施できる制度です。看護業務の範囲が、法的根拠を持ち、拡大した、ということです。特定行為として定められた38行為のなかには、ドレーンの抜去や、末梢挿入中心静脈カテーテル(PICC: Peripherally Inserted Central Catheter)の挿入などの侵襲的医行為が含まれています。
今回の改訂第2版で加えた気管挿管も、保健師助産師看護師法の範囲内であり、看護師が行ってよい行為であることが厚生労働省課長通知で通達されています。しかし、現実には看護師が一般的に実施している看護行為ではありません。そこで本書では「気管挿管の準備と介助」という視点から内容を構成しました。ぜひ活用いただければと思います。
明治時代の医師は、聴診器や舌圧子、打鍵器などを使用して診察していました。現在はこれらの道具を使って、看護基礎教育として、フィジカルアセスメント教育を行っており、特定行為診療看護師は、眼底鏡を使いこなしています。超音波診断装置も同様で、利用が始まった1949年当初は、希少で高価であり、限られた医師のみが使用していましたが、現在では特定行為診療看護師は、超音波診断装置も看護の道具に使い、超音波診断も実施し、PICCカテーテルも挿入しています。
このように、世界は加速度をつけて猛スピードで進化しつづけています。
なかでもAI(人口知能)を実用に活かすスピードには目を見張るものがあります。近い将来に、空飛ぶ車や自動運転の車が走り、渋滞はなくなるかもしれません。既に、犯罪が起こりそうな場所や時間を予想し未然に防ぐことができているといいます。人間の生活のあり方は、予想もつかない世界へと進んでいます。
しかし、ビッグデータの解析で、リスクの予想ができる世界になろうとも、生物としての人間の構造はほとんど変化しません。
急な病に倒れる可能性の確率の予想はできても、全人類の急変時の対応をロボットができる時代には、まだ時間が必要だと思います。
未来の世界では、看護が大切にしている、「人に触れて看る、感じて看るフィジカルアセスメント」が、身体を病んだ人の心に寄り添うケアも兼ねた、貴重な技術となるだろうことを、予感しています。
看護師は、専門的・技術的職業従事者です。
予測不可能な事態に直面したら、まず手を出す。そのためには、日頃から実践に即した教育訓練を定期的に受講し、すぐに使える技術にしておくことが大切です。
本書は、学生・初学者はもとより、経験者にとっても役立つテキストとして構成しています。さらに、本書には、書籍の内容をわかりやすく、リアルに解説したDVD動画が付属しています。
皆様にとって新たな視点が広がっていけば幸いです。
2018年12月吉日
東京医療保健大学 和歌山看護学部 看護学科 教授
松月 みどり