序文
日本医科大学産婦人科学教授
中井章人
出産は胎児にとって人生初めての旅である。
その旅の安全を見守ることが我々(医師,助産師,看護師)の役割で,分娩監視装置による連続モニタリングで得られる胎児心拍数陣痛図(cardiotocogram;CTG)は,胎児の情報を与えてくれる重要なツールである。
読者は,すでに前書(図説CTGテキスト)で基本を身につけ,日々現場で経験を積んでいるであろうか。あるいは,指導的な立場で旅の安全を管理しているであろうか。著者はといえば,前書を上梓以来,CTGの判読に少しナーバスになっている。ルールを守ろうとすればするほど,判読に悩むことが増えているように感じているのである。胎児を取り巻く状況は個々で異なり,それらを反映するCTGも必ずしも画一的ではない。そして,そんなCTG達が,本書の執筆を後押ししてくれた。
本書は,CTG判読能力とチーム医療のさらなる向上を目的としている。また,助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)® (CLoCMiP®) レベルⅢ認証の更新に必要な知識を提供するテキストになっている。より複雑な要因が隠されたCTG所見への対応に,必ずしも正解は一つではない。対応力を向上,維持するためにも,多様な考え方(多様性)を身につけていただきたい。それこそが“アドバンス”のゆえんである。
なお,これまでに筆者がCTGの解釈を学ぶにあたり,多大なご示唆いただいた朝倉啓文博士,池田智明博士,池ノ上 克博士,岡井 崇博士,上妻志郎博士,越野立夫博士,鮫島 浩博士,高木耕一郎博士,高橋恒夫博士,田中 守博士,藤森敬也博士,松田義雄博士,室岡 一博士に深謝する。
また,本書の発刊にあたり,引用をご許可頂いた公益財団法人 日本医療機能評価機構産科医療補償制度の関係各位に深謝する。
最後に,本書の企画,構成に貴重なご意見をいただき,さらには詳細な校正を賜った公益社団法人日本看護協会の福井トシ子氏に心より感謝する。
2017年6月
推薦の言葉
日本助産実践能力推進協議会 会長
高田昌代
ローリスクの分娩に対する院内助産の活用,助産師の出向システムの推進等の取り組みが国から打ち出されるなど,助産師に求められる役割を果たし,周産期医療を担うチームの一員として機能するためには,助産師の高度な実践能力が必須です。
助産師の実践能力を高めるために,2015年から助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)®レベルⅢの認証がはじまりました。この認証制度は,助産師団体5団体(日本看護協会,日本助産師会,日本助産学会,全国助産師教育協議会,日本助産評価機構)で構成した日本助産実践能力推進協議会にて,「ALL JAPAN」の掛け声のもとに検討を重ね,日本産婦人科医会,日本産科婦人科学会,日本周産期・新生児医学会のご協力も受け,創設されたものです。2016年末で,助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)® レベルⅢの認証を受けたアドバンス助産師は約11,000名,就業助産師の3人に1人がアドバンス助産師となりました。
この助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)® レベルⅢの認証を受けるにあたっては,妊産婦の安全のために,CTGの判読とその対応は必須研修の1つになっています。認証を受けたアドバンス助産師は5年ごとの更新を行う制度になっており,更新にあたってもCTGの判読とその対応は必須の研修に位置付けられています。
本書の著者の中井章人教授には,日本助産実践能力推進協議会が配信しているオンデマンド研修の開始当初より,CTGの判読とその対応について,講師としてご担当いただいています。中井教授はCTGの判読と対応の標準化に努めてこられた第一人者であり,その解説は明快でわかりやすく,2016年に発刊された「図説CTGテキスト」(メジカルビュー社)もわかりやすく好評です。
今回,発刊された本書は,アドバンス助産師には待望の書です。それは,臨床現場の感覚そのものだからです。分娩第1期には,その分娩の結末は誰にもわかりません。そのわからないなかで,知識(ときには知恵も)を結集して,その時点での最良の対応を考えるという,実際の臨床現場における視点で書かれており,現場での実践に則した内容になっています。
さらに,「相手にわかりやすく伝えよう」と,医師,助産師,看護師などで構成されるチーム医療を意識した構成になっています。SBARなどを多く使用されることでロジカルな思考をもつトレーニングになり,より看護・助産の現場で利用しやすいものになっています。これは,正確に記録することにも大いに役立ちます。基礎的な部分は「図説CTGテキスト」と一緒に読むことでよりよく理解できるように導かれています。
先日,産科医療補償制度の導入以降,重症心身障害児の発症が減少したと日本産婦人科医会から発表がありました。大変嬉しいことです。このような母子とその家族の安全と安心に,本書が大きく貢献されることを確信し,本書を推薦いたします。
2017年6月