福祉は誰のために~ソーシャルワークの未来図

  • ページ数 : 196頁
  • 書籍発行日 : 2015年9月
  • 電子版発売日 : 2021年7月7日
¥1,320(税込)
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商品情報

内容

「福祉」とは、「人の存在と生活の安全保障」である。

「福祉」とは何か。なぜ福祉は必要なのか。「自己責任論」が蔓延する現在、「本来の福祉」を実現するためにソーシャルワーカーは何をすべきなのか。
福祉の現場・教育・財政の視点から現代社会の課題を考究し、ソーシャルワークのあるべき姿を提起する。

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序文

序に代えて


「福祉の世話にはなりたくない」――精神障害者の方の生活支援をするなかで、この言葉を幾度聞いたであろう。しかも、本人、家族からだけでなく、市民レベルでこうした言説が聞かれた。ここでいわれている「福祉」とは、生活保護制度を指していることはいうまでもない。いったいいつから、「福祉」が「生活保護制度」と同義になり、しかも、世話になるという、恥や世間体の悪さを含んだ、忌み嫌われるものとなってしまったのか。

人は誰しも、人生や生活のスタートを切る時点や日々の生活を送るなかで、自己選択ができないこと、自分の努力や責任ではどうにもならないことがある。それは、先天的あるいは後天的な病気や障害、親や生まれた家庭環境、経済の悪化に伴う雇用環境、自然災害などがあげられる。しかし、いまの社会における人の思想や政治は、そうした不可避な諸要件によって苦しい生活を強いられている人に対し、個人の努力や頑張りが足りなかったと、ことさら自己責任をあげつらい、生産性や効率化の名の下に、社会の隅に追いやってしまう。

本来「福祉」とは、人々の幸せであり、豊かさであり、人として当たり前に暮らすことの保障である。そしてそれは、特定の誰かのためのものではない。また、社会的弱者と呼ばれる社会の隅に追いやられた人々を最低限生き延びさせるための施しでもない。もう少し具体的にいえば、「福祉」とは、人と人とのつながりや、お金や物の再分配を通じた「人の存在と生活の安全保障」である。

国は、これまで、そしていまも、その安全保障の機能維持は個々人の自助努力が前提であることを強調し、それを基にした政策を実施してきた。近年、とくに2000年の社会福祉基礎構造改革以降、財源不足を主な理由にさまざまな「福祉」を市場化し、民間に「福祉」を担わせる一方で、公のセーフティネットにおける給付を切り下げる政策を次々と打ち出していく。そうした流れは、「安全保障」を自己責任によって確保していくことを推し進め、本来すべての人々を対象にした「福祉」が、一部の自助努力を果たすことが困難な人々に限定化した「延命保障」にすり替わってしまう事態を招いた。こうした事態が、人々に過重な自己責任を意識させ、それに苛まれる人々が自助努力を果たすことの難しい人々を非難する分断意識を芽生えさせてきたのである。それは同時に、非難する側が非難される側に立つことへの恐れと不安を想起させ、「福祉」の対象となることを拒否する市民意識が蔓延することにつながっていったともいえる。

こうした「福祉」の政策化と並行して、その「福祉」の実現における支援や援助を行う専門職が誕生してきた。ソーシャルワーカーの国家資格化である。国は、「福祉」を担う人材を資格法で縛り、制度や事業に規定することで政策の実行を担わせる。本来、ソーシャルワーカーは、社会正義や社会変革を掲げつつ、特定の誰かのためではなく、人々の「人間存在の尊重と生活保障」を希求する存在であり、先に述べた本来の「福祉」の実現を担う人材である。しかし、資格法や制度に縛られることで、否応なくその実践が制限され、同時に実践の対象者も限定化させられてしまっている。

これまで障害福祉サービス事業所に身を置きながら、その利用者である障害者の方の生活にかかわり、フィールドワークとしてシングルマザーの方やアルコールや薬物依存症の方の支援を行うなかで、「福祉」とはいったい誰のためにあるのかと、ひとりのソーシャルワーカーとして葛藤し、自問自答してきた。今回、その答え示すべく、私が信頼し、尊敬する教育・財政の研究者、ソーシャルワーカーのお三方と共に筆を執り、「福祉」の実相や、その担い手であるソーシャルワーカーの資格や実践のあり方に迫ることとなった。それは同時に、日々薄氷を踏むように生きざるを得ない人々への、未来に向けた希望とならんことを願いとして込めている。


令和元年七月

鶴 幸一郎

目次

Ⅰ―ソーシャルワーカーの課題と資格統合の必要性―現場から

現場での支援実践で感じてきた不全感

「福祉」とは何なのか

障害者の実相

ソーシャルワーカーの実相

制度を作るのも変えるのも、それを活用するのも人だ

ソーシャルワーカー資格統合の必要性―福祉の夜明けを希求する

Ⅱ―社会福祉のアップデートを目指して―ソーシャルワークのオルタナティブ論

はじめに

福祉専門職は当事者と一緒に貧困と闘え

アドボカシーとは

代行主義ばかりの社会起業と社会福祉

アドボカシー活動と権利擁護

ホームレス支援で出会ったおじさんたちに社会構造を教わる

エンパワメント権利擁護の意味―パウロフレイレを参考にして

ソーシャルアクションを志向するソーシャルワークへ

ソーシャルワークのアソシエーション論

共助を推進する地域福祉からの転換を

福祉専門職は「官僚制」からの脱却を―デヴィッドグレーバーを参考にして

まとめ

Ⅲ―ソーシャルワーカーの課題―育成(教育)から

はじめに

「社会福祉士及び介護福祉士法」制定前後の教育の違い

福祉現場における実践とソーシャルワーク教育との乖離

2000年代に入って顕著化した社会福祉士養成教育の課題

2007年の社会福祉士養成課程の教育カリキュラム改正のメリットとデメリット

「ソーシャルワーク専門職のグローバル定義」がソーシャルワーク教育に及ぼす影響

地域共生社会の実現と社会福祉士制度の見直し

ソーシャルワーク教育におけるさまざまな課題

本章のおわりに

Ⅳ―福祉にとっての財政問題―「共同の財布」はどこへ

なぜ財政を語るのか

「必要」を満たす「共同の財布」

根底にある「自己責任主義」

自分で自分を追いつめる

根づいた自己責任主義

自己責任主義と給付の3側面

隅に追いやられる「税による社会福祉」

税も、政府も、人も嫌い

未来を切り拓くために

Ⅴ―座談会:福祉は誰のために―ソーシャルワークの未来図

1.誰がために福祉はある

2.ソーシャルワーカーはいかにあるべきか

3.どのような教育が必要か

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書籍情報

  • ISBN:9784892699832
  • ページ数:196頁
  • 書籍発行日:2015年9月
  • 電子版発売日:2021年7月7日
  • 判:新書判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
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