introduction

アスリートの最大の目標は試合本番で実力を発揮して勝つことであり，そのために日々苦しい練習に耐え体を鍛えています。一方，本番で実力を発揮できず，こんなはずじゃなかったと悔やむアスリートは大勢います。アスリートは競技としてスポーツを実施しているので，結果に結び付かなければ意味がありません。

本特集では，アスリートが本番で本人がもつ実力を最大限発揮するためにどんな方策があるのかについて，アスリートにかかわる第一線の医師，理学療法士，栄養士，トレーナー，そしてアスリート経験者の方々に執筆をお願いしました。

競技に耐えうる体作りに欠かせないのが栄養です。栄養の取り方を変えるだけで，同じトレーニングをしても筋力や疲労回復に違いが生じるといわれています。競技種目に適した，試合日程に合わせた戦略的な栄養摂取について虎石真弥先生に概説いただきました。

ブルペンエースとよばれる投手は試合では使い物になりません。ゴルファーがパッティングでイップスになってしまうとスコアメイクできません。実力が伯仲している場合，最後はフィジカルではなくメンタルの強さがと鍵といわれています。厳しい練習に耐えて「根性？」をつけてもメンタルは強くなりません。本番に強くなるためのメンタルトレーニングについて荒木香織先生にご紹介いただきした。

うっかり摂取した風邪薬や栄養ドリンクによりドーピング違反となって失格になることは，それまでの努力が水の泡となるばかりでなく，選手生命を失うことにもなりかねません。ドーピングは知らなかったでは済まされないアスリートにとって必須事項であり，近藤精司先生にわかりやすい解説をお願いしました。

女性アスリートは女性特有の体のケアが必要で，メディカルサポートを適切にしないと，競技の続行が困難な選手や試合に合わせた月経調整が必要な選手もいます。本人だけでなく周囲の正しい知識と理解が重要であり，能瀬さやか先生に概説いただきました。

医師の試合への帯同が義務付けられている競技があります。帯同ドクターは医療機関での診療とは違い試合現場での対応が求められます。帯同時にアスリートをどのようにサポートしたらよいのかは，競技によって異なってきます。そこで，サッカーは御園生 剛先生，ラグビーは井上貴司先生，バレーボールは藤田耕司先生，バスケットボールは武田秀樹先生，水泳は奥田鉄人先生にそれぞれのスポーツ試合現場での活動のノウハウについて執筆をお願いしました。アスリートを最も身近でサポートするのは，医療機関側ではセラピスト，現場側ではトレーナーです。両者は各々の立場の違いにより，そのアプローチの仕方が異なります。セラピストとして飯田博己先生，トレーナーとして倉持梨恵子先生に各々の方策をお示しいただきました。最後に，元トップアスリートであり現在会社経営をしつつ大学院でスポーツ医学の研究を行っている室伏由佳氏に，ご自身のアスリート時代の経験を元に本番で実力を発揮するための秘訣を語っていただきました。

本特集「アスリートが本番で実力を発揮するための方策」が，アスリートのサポートに携わるスポーツドクター，セラピスト，トレーナーの皆さんの日常診療の一助になることを願います。

愛知医科大学医学部整形外科学特任教授
岩堀裕介