introduction

この度，『整形外科周術期感染の予防と対策』を編集させていただきました。2016年に第39回日本骨・関節感染症学会を開催し，参加者の皆様方からたくさん勉強させていただきましたことも本テーマを取り上げる契機となりました。

骨・関節感染症はいったん発症しますと治療に難渋することが多く，運動器機能の破綻を招来することはよく知られているところであります。体内留置のインプラントを頻用する整形外科手術におきましては，術後感染を引き起こさないために予防・対策を講じることは非常に重要と考えます。2015年にわが国では年間13万件以上の人工関節置換術が行われており，手術部位感染（surgical site infection；SSI）は1.36％と報告されています。SSIの原因は，外因性感染と患者さん自身の既往歴や生活習慣，保持している感染症などに関係する内因性感染に分けられます。内因性感染に関してはあらかじめリスクをコントロールする必要があり，外因性感染に関しては環境整備，医療従事者の教育などが重要となります。バイオクリーンルームの使用が推奨されますが，単に使用するのではなく，手術室への立ち入り回数，手術室での人の動き，ドアの開閉などにも注意する必要があります。また，履物や手袋への配慮も重要な因子でしょう。人工関節置換術においてはSSI予防のために，第1・2世代セフェム系抗菌薬を術後48時間以内に限って使用します。個々のインプラントの開発も進んでおり，銀コーティング人工関節は10年以上に及ぶ研究を基に，さまざまな合併症の問題などを克服し生体内で安定的に使用できるようになっています。また，周術期SSIの撲滅目的の抗菌ヨード担持加工技術を応用したインプラントも大変効果が期待できるものと思われ，臨床応用に向けた研究が行われています。

人工関節周囲感染においては診断が重要です。特に細菌培養陰性例などの診断は課題となります。近年，従来の診断法に加えてPCR（polymerase chain reaction）法を用いた方法などが開発されています。しかしながら，このようなSSI発生の判定のためのデータを横断的かつ縦断的に比較検討するためには，統一されたSSI定義が必要です。現在，日本骨・関節感染症学会を中心にweb管理型全国SSI調査を企画されており，このような取り組みでより一層発展していくものと思われます。

人工関節術後感染症の治療，特に股関節の場合は，一期的再置換術もしくはALAC（antibiotic-loaded acrylic cement）を用いた二期的再置換術が行われます。どちらを選択するかは総合的に判定しなければなりませんが，手技の基本は徹底的なデブリドマンであることは認知されなければならないと思います。最後に，手術の決まった患者さんを医師や看護師だけでなく，麻酔科医，歯科医や歯科衛生士，理学療法士を含む多職種が連携をとることにより，周術期感染を減少させるような周術期管理センター（perioperative management center；PERIO）の取り組みなどは重要で，今後整形外科手術にもこのようなシステムが広がることが理想であると考えます。

各項とも非常に充実した内容となっておりますので，本特集を読むことで，読者の諸先生方が今一度整形外科周術期感染について再考していただけましたら幸いです。

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科整形外科
尾﨑敏文