医療にかかわるすべての方へ エビデンスを的確に読み解くために 臨床試験の考え方

  • ページ数 : 120頁
  • 書籍発行日 : 2021年9月
  • 電子版発売日 : 2021年11月10日
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内容

臨床試験の実施においては,いかにバイアスを避け,参加者の人権を守り,得られた成績の信頼性を確保するかという点がとりわけ重要となります。また,この臨床試験を行う時に求められる知識と,EBMの実践にあたって臨床試験論文を読み解く際に求められる知識の多くは共通しています。
本書では,このような「考え方」をベースに,臨床試験の科学的裏付けから歴史,実施上の管理や規則までを網羅しており,当該領域で指導的立場を果たしてきた著者が,明快にわかりやすく書き下しました。
臨床試験は一人の優れた研究者によって成し遂げられるものはなく,患者はもとより,生物統計家,モニター,コーディネーター等々多くの関係者の利他的な協力なしには実施すらできません。そのことを著者は音楽で言えばオペラのようなものと称しています。
臨床試験に携わるすべての方,医療の現場にエビデンスを適確に取り入れたい方にお薦めの一冊です。

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序文

1990 年代に始まったEBM(evidence-based medicine)の大きな潮流の中で,臨床試験が注目されるようになった.EBMは,すでに存在するexternal evidence を元に目の前の患者の診断・治療・予後を判断・選択する際の具体的手法を提唱したものである.そこではエビデンスのレベルが重視され,観察研究よりも介入研究である臨床試験が重視され,とりわけ臨床試験成績のメタアナリシスを高く位置づけている.ただし,近年この考え方には反省が見られる.

従来,我が国の医学研究・医学教育では基礎研究に重点が置かれ,ともすれば臨床研究とその教育は等閑視されてきた嫌いがある.近年,この傾向への反省もあり,我々が学生だった頃に比べれば,臨床研究の教育ははるかに進んでいるが,それでもなお不十分と言わざるを得ない.

一方,EBMの実践には臨床研究,特に臨床試験の理解は不可欠で,臨床研究を専門的に行うか否かにかかわらずエビデンスを的確に読み解くためのスキルは必要である.また,臨床試験を行う時に求められる知識と,EBMの実践に当たって,臨床試験論文を読み解く際に求められる知識の多くは共通している.

臨床試験ではいくつかの基本的な考え方がある.まず,臨床試験で我々が観察している事象は基礎研究とは異なり,決定論的事象ではなく確率論的事象である.そこで,臨床試験の実施に際しては,いかにしてバイアスを避けるかという考え方が貫かれている.そのためにスタディ・デザインを工夫したり,統計学の助けを借りたりする必要がある.次に,臨床試験では研究参加者の人権を守り,得られた成績の信頼性をいかにして確保するかに意を払う.この考え方は,学問的興味に留まらず,社会に影響のある臨床試験には必要不可欠で,このために臨床試験の登録,結果の公表,データマネジメント等の管理が重視される.そして,適用される法令や倫理指針等は我が国では複雑で種類も多いが,いずれもGCP(good clinical practice)が基本になっている.GCP は被験者保護と臨床試験の信頼性の確保の2 本柱で成り立っている.

なお,英語の綴りはICH(International Council for Harmonisation ofTechnical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use,医薬品規制調和国際会議,5 章-2,p87)に基づいて英国式,例えば,繰り返し出てくるランダム化は,randomization ではなくrandomisation,とした.

臨床試験は1 人の優れた研究者によって成し遂げられるものではなく,患者のみならず多くの関係者の利他的な協力なしには成し遂げられないという点を強調したい.臨床試験は音楽に例えればピアノやバイオリンのソロではなく,オペラである.そこでは,ソプラノやテノールだけでなく,オーケストラも必要で,さらには大道具・小道具等々の多職種,多人数が関与して初めて公演は成り立つ.臨床試験では,試験責任・分担医師のみならず,生物統計家,モニター,データマネジャー,臨床研究コーディネーター等々が関与して初めて臨床試験を適正に実施できるのである.

そこで,本書は臨床試験に関与するすべての方を対象に「臨床試験の考え方」を平易に解説した.臨床試験に携わる方や臨床試験論文を読み解きEBMを実践する方のお役に立てば幸いである.

本書の出版についてご理解いただいたライフサイエンス出版の須永光美社長,および編集を担当された山口由紀子氏と米川彰一氏に御礼を申し上げる.


2021年9月

景山 茂

目次

1章 臨床試験の科学

1 三「た」論法

2 臨床試験とは

3 ランダム抽出(random sampling)とランダム割付け(random allocation)

4 偏りを避ける工夫

1)比較対照を設ける

2)選択バイアスを避ける

3)観察バイアスを避ける

4)測定バイアスを避ける

5)解析のバイアス

6)出版バイアス(publication bias)

5 仮説の生成と仮説の検証

6 臨床研究の分類とデザイン

1)介入研究(臨床試験)と観察研究

2)介入研究(臨床試験)とスタディ・デザイン

 ① 並行群間比較デザイン(同時対照)

 a)ランダム化並行群間比較試験

 b)要因配置デザイン(factorial design)

 ② 逐次デザイン

 a)クロスオーバー試験

 b)自己対照試験

 ③ 外部対照,既存対照

7 エンドポイント

1)一次エンドポイント(primary endpoint)と二次エンドポイント(secondary endpoint)

2)true endpointとsurrogate endpoint

3)short-term endpoint, middle-term endpoint, long-term endpoint

4)ソフトエンドポイント(soft endpoint)とハードエンドポイント(hard endpoint)

5)複合エンドポイント(composite endpoint)と単一エンドポイント(single endpoint)

8 プラセボ

1)プラセボの意義

2)プラセボを設けない薬効評価の危うさ

3)ヘルシンキ宣言におけるプラセボの位置づけ

9 PROBEデザイン

10 最小化法

11 割付けの隠蔵(allocation concealment)

12 交絡(confounding)と交互作用(interaction)

13 臨床試験の限界

14 決定論と確率論

2章 臨床研究の歴史

1 草創期の疫学研究・臨床研究

1)James Lindによる壊血病の研究

2)John Snowによるコレラの研究

3)高木兼寛による脚気の研究

2 現代の臨床試験の始まり

1)Medical Research Council(MRC)によるストレプトマイシン研究

3 真のエンドポイント(true endpoint)を検証した臨床試験

1)Veterans Administration Cooperative Study

2)UGDP(University Group Diabetes Program)研究

3)CAST(Cardiac Arrhythmia Suppression Trial)

3章 臨床試験の目的と種類

1 優越性試験,非劣性試験,同等性試験

1)優越性試験

2)非劣性試験

3)同等性試験

2 最適条件試験と実臨床試験
(efficacy trial and effectiveness trial, explanatory trial and pragmatic trial)

3 探索的試験(exploratory trial)と検証的試験(confirmatory trial)

4 大規模臨床試験(large scale clinical trial)

5 症例数1の臨床試験(n-of-1 trial)

6 治験:第Ⅰ相試験,第Ⅱ相試験,第Ⅲ相試験

1)第Ⅰ相(最も代表的な試験:臨床薬理試験)

 ① 初期の安全性及び忍容性の推測

 ② 薬物動態

 ③ 薬力学的な評価

 ④ 初期の薬効評価

2)第Ⅱ相(最も代表的な試験:探索的試験)

3)第Ⅲ相(最も代表的な試験:検証的試験)

4章 臨床試験の管理

1 臨床試験の信頼性

2 モニタリング

3 独立データモニタリング委員会

4 臨床試験の中間解析と早期終了

5 臨床試験の登録とデータの共有

6 臨床試験結果の公表

5章 臨床試験の倫理と規制

1 ヘルシンキ宣言

2 ICH

3 GCP

4 臨床試験と適用される規制

5 利益相反

1)法概念としての利益相反

2)我が国における利益相反の経緯

6 CONSORT声明

7 臨床研究と利他主義


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書籍情報

  • ISBN:9784897754413
  • ページ数:120頁
  • 書籍発行日:2021年9月
  • 電子版発売日:2021年11月10日
  • 判:A5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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