小児の整形外科疾患の多くは成人になって変性性骨関節疾患に至る源流である．その点を認識すると，小児整形外科疾患に関する知識を習得することは非常に興味深い作業となる．また，こどもは自分で愁訴を的確に述べることができないので，保護者などから得た情報をもとにあらかじめ該当疾患を予測して診察を開始するが，その際，自己の知識を駆使する，推理小説の謎解きにも似た面白さがある．さらに，小児の整形外科疾患の病態は成長とともに変化するが，それに応じてそれぞれの年齢で最適な治療法を考える面白さもある．

しかし，わが国の出生数は1970 年代前半に年間200 万人を超えていたが，1975年以降減少し続け，昨年にはついにほぼ半減した．この少子化に伴い整形外科医が小児整形外科疾患の診療に実際に携わる機会が減少し，その結果，小児整形外科はなじみが少ない領域になりつつある．この観点からして，このたび《最新整形外科学大系》第24巻として『小児の運動器疾患』が企画されたことは，小児整形に携わるものとしてはおおいに励みになることであるし，また一般整形外科医にとっては日常診療に役立つ詳細な知識を本書から得られ有益なことと思われる．

最近のエコー，CT，MRIなどの画像解析法の進歩により，小児整形外科疾患の病態を非侵襲的に容易，確実に把握できるようになった．また，小児では骨関節が成長途上にあるために保存的治療が原則であるが，創外固定器をはじめとする整形外科治療器機の発展や小児麻酔の進歩により，早期からの観血的治療が安全にかつ積極的に行えるようになった．たとえば，先天異常や骨髄炎後の関節変形例は，いったん適切な関節適合性が失われると成長とともに変形が増悪し治療が難しくなることがあるが，創外固定器を応用するとこれら骨端線近傍の矯正が小侵襲で繰り返し可能となった．すなわち変形が日常生活を著しく障害しないうちに，適切なタイミングで早く治療することができるようになった．さらに仮骨延長による脚延長も小児にとっては大いなる福音であり，小児整形外科診療の画期的な新展開が今まさに進行中である．

本書はこのような小児整形外科領域における最新の知識を網羅すべく，それぞれの領域の専門家に執筆をお願いした．本書が日常診療の座右の書のひとつとなり，目の前に立つこども達の整形外科疾患の病態把握や治療方針決定のために大いに役立ち，こども達がより幸せになれることを願っている．

改訂4版でも関東中央病院の原田 修ソノグラファーには説得力のある，すばらしい画像を提供していただきました．感謝しております．

2008年6月

専門編集

福岡市立こども病院・感染症センター副院長
藤井 敏男

東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚運動機能医学講座整形外科学教授
中村 耕三